理念なし、目標なし、規則なし、上司も社長もなし
理念なし、目標なし、規則なし、上司なし、さらに社長なし。これまでの組織運営に絶対必要とされてきた条件をほとんどなくしていますね。それでうまくいっているのでしょうか。
武井:10年間経営をしてきて、「この方法で間違いない。世界がこれから目指す方向と合っている」と確信できています。
10年前は、「ホラクラシー経営」という言葉すら意識せずに始めたことですが、近年の経営学で注目されていることもあって、最近では国内外から視察や講演の依頼が舞い込みます。
当社の本業は不動産業界にITサービスを提供することです。けれど最近は「経営について教えてほしい」というコンサルティング業務も急増していて、自治体や国土交通省からも、お声がかかるようになりました。
韓国のサムスングループやフランスのビジネススクールが研究のために視察に来たこともありました。ブロックチェーンのように、分散型のテクノロジーが急速に発展していることも、環境面での追い風になっています。
日本でも、未来工業やメッツトヨタ南国など、部分的にホラクラシー経営を取り入れている企業はこれまでもありました。けれど当社では、会社全体で丸ごと実践できないかと挑戦をしています。

子育ても経営も“何もしない”をする
そもそも、今のような経営を始めようと思ったきっかけは何だったのでしょう。
武井:1度目の経営の失敗経験からです。アメリカ留学から戻って、ファッション系の会社を起業したのですが、全くうまくいかず、負債も膨らんで、1年で倒産させてしまいました。
2度目のチャレンジをしようとした時、「価値のあることを成し遂げなければ意味がない」と強く思いました。それは、金稼ぎや名声を上げることではなく、本当に世の中を良くするインパクトを生み出すことなのだと思います。
では、何をするべきなのかと、改めて経営の基本から勉強し直しました。
いわゆる管理会計の近代的手法も一通り勉強しましたが、さらに思考を深めて、蟻や蜂の生態や人間の体、宇宙の仕組みも研究して、「自然の摂理を経営に活かせないか」と考えるようになりました。
例えば農業で、福岡正信さんが確立した「自然農法」という手法があるのですが、雑草を抜かず、耕さず、肥料や農薬も与えない。木村秋則さんの“奇跡のリンゴ”で有名になった農法です。何もしていないようだけれど、それを繰り返していくと、一般的な農法よりも収穫高は増えていくそうです。
経営も同じように、「これをやれ、あれをやれ」と押し付けず、その人が成長したいように成長するのを、邪魔しないことが大切。「“何もしない”」をすることで、一人ひとりの本来の持ち味が芽生えてくる。
子育ても全く同じだと実感しています。
改めて、子育ての方針について伺わせてください。お子さんは2人ですね。
武井:4歳の長女と2歳の長男です。妻は、今は働いていませんが、元看護師です。僕の兄の誕生日会で知り合って、27歳の時に結婚しました。
今朝も家で、(お菓子の)「ねるねるねるね」を一緒につくって遊んでから、ここに来ました(笑)。
幼稚園に行く娘を見送りがてら、息子とゴミ捨てに行く様子を、会社のメンバー同士でつながっている「slack」(オンライン上のグループチャット)で流していました。
僕に限らず、子育ての様子は会社のメンバー同士でごく普通に見せ合うカルチャーが、うちにはあると思います。毎月、締め日には社内イベントとして「納会」をやっているのですが、家族同伴で参加するメンバーもいます。
オンとオフ、公私が混ざっていて、メンバーそれぞれが、お互いの人生を尊重する。
先日も静岡県の下田まで社員旅行に行ってきたのですが、OBやOGも来るし、業務委託の人も来る。どこまでが社員なのか分からないような賑わいでした。
一度、社員の奥さんのお母さんまで参加していた時はビックリしましたね(笑)。
社員の家族も顔を出したくなる会社になっているのは、いいことだと思っています。これからは社員の人生や家族と一体化した経営が、強い組織のために必須となるはずですから。
Powered by リゾーム?