並々ならぬ結果を出している伊佐山家の子育て方針を教えてください。

伊佐山:一番大切にしているのは、「ただ一心に愛情を伝えること」です。人が成長する上で最も重要な条件が、親子の愛情に基づく信頼関係だと思っているからです。

 難しいことに挑戦しようとする時、誰かとぶつかってしまった時、恥ずかしくなるような失敗をしてしまった時。どんな時でも戻れる場所があれば、リスクを取ることは怖くなくなります。安心して戻れる場所として家族の存在があると確信できれば、人間はどこでもたくましく生きていける。

 だからわが家は、もう異常なくらいに子どもたちに愛情を注いでいます。アプローチはいろいろあると思いますが、僕の場合はスキンシップを大事にしています。

 家の中ではしょっちゅう子どもとくっついています。僕の出張が多いこともあり、9歳の三男ともできる限り、一緒のベッドで「川の字」になって寝ています。旅行先で1部屋で寝る時には、6人全員で「川の字2つ」になることもあります。

 欧米では、子どもは自分の部屋で寝るのが一般的ですが、わが家は密着優先。子どもたちが離れていくまでは、親から積極的にくっついていこうと思っています。子どもたち同士もぎゃあぎゃあと言いながら、くっつき合っているのが日常風景です。

「利他」の精神を教えるワケ

精神的な安心・安全を重視する方針は、グーグルなどの企業経営でも注目されていますね。

伊佐山:いわゆる「セキュア(安全)な環境」という価値に当たりますが、精神的に「大丈夫だ、自分は守られているんだ」と脳にすり込まれていない限り、自分の気持ちに余裕を持って周りの人に優しく接することはできないし、社会を良くする行動にはつながっていかないはずです。

 わが家の子どもたちに共通しているのは、自分の宿題をあと回しにしてでも、友達の宿題を手伝ってあげたりする気持ちがあること。友達を手伝った分、自分の成績を上げるための時間は削られるけれど、「自分の成績だけを上げるより、友達を助けることに価値がある」という行動が自然にできる。「利他の精神」を大事にしてほしいですね。

 これはアメリカの資本主義の価値観ではあまり見られない行動で、個人の効用を最大化するには非合理な行動かもしれません。

 けれど、これからはむしろ、コンピュータが決して選択しない非合理な行動をできることが、人間らしい価値になると思うんです。

一見、非合理に見える利他的な行動が、結果として自分に返ってくることも多いのではないでしょうか。

伊佐山:そのように経営学者は評価してくれるかもしれませんね。「giver の方がtaker に勝る」と。ただそれは結果であって、逆算して人に恩を売る子にはなってほしくないですね。「自分に余裕がある時には人を助けよう」と自然に思えるようになってほしい。そのために何をすべきかというテーマには、夫婦でこだわってきました。

 その答えが、「親が徹底的に愛情を注いで安心を与える」ということでした。

 実際、ほかの人の幸せと笑顔を優先する人生は必ず得するはずです。自分だけが成功しても、周りの社会が幸せでなければ、評価も名誉も成り立ちません。誰もが社会の一員で、社会全体が豊かにならなければ、成功の恵みは享受できません。

 だから、まずはほかの人を笑顔にして、社会を幸せにする。そうしたら自分もハッピーになれる。この順番を大切に考えています。

次ページ リビングに集まって、みんなで勉強する