育休取得を機に、権限委譲を学べた

育休を取ろうと思ったきっかけは何だったのでしょう。

小沼:当時、尊敬する社会起業家のロールモデルとして、(病児保育事業を手がける)認定NPO法人フローレンス代表の駒崎弘樹さんから学ぶことが多くて、彼が「俺も育休取るよ。取った方がいいよ」と話すのを聞いたことが大きかったです。

 けれど、当時は事業を軌道に乗せるのに必死で、育休を取れるような状態に到達できなかった。自分が歯がゆくて、第二子の時には絶対に育休を取得すると決意しました。

 それをベンチマークに、「3年以内に組織を安定させよう」という意識が高まりました。そして、妻にも「2人目が産まれた時には絶対に育休を取るし、これまで以上に子育てに関わる」とプレゼンして、家庭内稟議を通しました。

そして、実際に育休を取ったのが2016年8月。その頃には社員数が約30人に増えていたそうですが、育休で職場を1カ月間空けることに不安はなかったのですか。

小沼:経営陣には半年前から育休を取ると伝えていて、試行・検討する期間を設けていました。最終的に「大丈夫だろう」ということで、あと押しをしてもらえました。

 経営者が一定期間職場を離れるには、権限委譲を進めることが必須条件です。そこで、僕はあえて100%ではない育休スタイルにして、委譲が難しい部分は、引き続き自分が担うことにしました。

 子どもが寝たあとなどのちょっとした時間にメールを見て、重要な案件だけ対応したり、カギとなるミーティングだけリモートで参加したり。特にトラブルについては引き続き自分で対応しました。一度も出社しませんでしたが、今の勤務時間の15%くらいの時間は、毎日仕事をしていました。これが、すごく良かったんです。

 経営者の仕事をいきなりゼロにするのは相当難しい。でも「やっぱり無理」と諦めず、「少しは仕事をしてもいい」という緩やかなルールにしたことが正確でした。

「せっかくの育休なんだから、完全に仕事から離れた方がいいよ」という助言もありましたが、むしろ子育てをしながら仕事をする生活リズムをつくった方が、育休復帰後も子育てに関わる生活を持続しやすくなるし、メリットも大きいと思います。

 実際、僕は育休中に「短時間の仕事でも濃い成果を出すスキル」が身につきました。

1カ月間の育休取得は、仕事や家庭にどのような影響を与えましたか。

小沼:家庭面で言うと、子どもと正面から向き合える時間を集中的に持てたことは、人生の幸福度を格段に高めました。育休中の僕の役割は、誕生した長男を妻が集中してケアできるよう、上の長女に寄り添うことでした。3歳になっておしゃべりもできるようになった娘とたくさんデートするという、最高の時間でした。

 この時、僕が自分に課していたのは、中途半端に関わるのではなく、本気で子育てに集中すること。それまでは子どもと遊びながらも、ときどきスマホを見てしまうことがありました。

 けれど、この期間は集中して子育てに徹底的に向き合いました。「この1カ月間の僕のミッション」を書き出して妻にプレゼンしたんです。

 例えば、「娘にとって最適な習い事を見つける」「風呂場の換気扇を修理する」といった細かいことです。これは、今もときどきやっています。「今週末に僕が達成するミッション」といったように。

 何事も、一度真剣にやって「ここまでできる」という最高値を経験すれば、その後も「あの時と同じくらいできているか」と自分をチェックできるようになります。

 普段の子育てでも、「育休中の自分と比べてどれくらいか」と照らし合わせる基準ができました。