「オトコが育児に参加するのが当たり前」の時代に変わりつつある。旬の経営者や学者、プロフェッショナルたちも、自らの育児方針や育休取得についてパブリックに言及することが増えてきた。優秀なリーダーたちは、我が子にどんな教育を与えようとしているのか。また自身はどう育てられたのか。そしてなぜ、育児について語り始めたのか。
連載8回目に登場するのは、学生と企業を直接つなぐサービスを提供するアイプラグの中野智哉社長。東京と大阪で事業を展開し、普段は月の半分を子どもと離れて暮らす中野社長。絶妙な距離感で子どもたちと向き合う姿から、新しい育児のスタイルが浮かび上がる。今回はその前編。
アイプラグ代表取締役社長の中野智哉(なかの・ともや)氏
1978年兵庫県生まれ。2001年、中京大学経営学部経営学科卒業後、インテリジェンス入社。約10年間、求人広告の法人営業を担当し、新卒採用面接や営業研修など、人材採用・教育全般の業務経験を積む。2012年、グロービス経営大学院を修了してMBAを取得。同年、アイプラグを設立。就職のミスマッチ解消を事業理念とし、企業から学生に直接オファーを送れるダイレクトリクルーティングサービス「OfferBox(オファーボックス)」をリリース。現在、登録学生数は9万3000人、企業数は3700社超。取材時、40歳。兵庫県在住。同社に勤める2歳下の妻、9歳の長女、7歳の長男の4人暮らし(取材日/2018年5月16日、インタビュー撮影/鈴木愛子、ほかも同じ)
――学生と企業を直接つないで雇用のミスマッチを解消するサービスで業績を伸ばしている中野さん。共働きの奥さんと連携しながら、子育てにも関わっていると聞きました。
中野氏(以下、中野):いやいや、前提として、僕はほとんど子育てができていません。本社は大阪にあるんですが、首都圏の営業を東京のオフィスで進めているので、僕は月の半分くらいは東京にいて、兵庫にある自宅は嫁が守ってくれているんです。
前職で同僚だった嫁とは11年前に結婚して、子どもは2人。小学3年生の長女と2年生の長男。学年は1つしか違いませんが、4月生まれと3月生まれなので月齢ではほぼ2年離れています。会社の設立日を娘の誕生日と同じ日付で登記したので、毎年、創業記念日と誕生日祝いが同時にやってくる。「どっちを先に祝う?」みたいな微妙な調整が生じます(笑)。
――6年前に創業して、お子さんは9歳と7歳。育児のハードな時期と創業期が重なったのではないでしょうか。
中野:はい。もともと計画性のない人間なので、第一子が生まれたタイミングで大学院に入学して、修了する頃に第二子誕生、その直後に起業。事業を始めたい思いが膨らんで止められなかったことが理由です。
嫁はもともと僕の挑戦を応援してくれていたのですが、僕に振り回されて相当ストレスを溜めていたと思います。「あなたは何も言っても変わらないから、期待するのをやめたらイライラしなくなった」と言われて、妙に納得したことを覚えています(笑)。
嫁がうちの会社に入社したのは2012年の創業期です。育休から復帰して半年が経過したタイミングでした。「忙しくてたまらんから、手伝って!」と頼み込んだことがきっかけです。
今は週3日勤務をしながら、平日はがっつり2人の子育てをしてくれています。ほんま、ありがたいです。
「今日は絶対に遊ばなあかん」「聞いてない」
――奥さんとは前職で一緒だったということで、仕事観も理解している関係なのでしょうか。
中野:そうですね。前職では同じ部署の同じ営業職で、仕事で何を大事にしているのかは互いによく分かっていると思います。家でも会社でもずっと飽きずに仕事の話ばかり。二人ともお酒が好きなんですが、飲んでもしらふでも仕事の話をしています。公私の境界はほとんどありません。
――平日と休日の育児の関わりはどのようにしていますか。
中野:兵庫にいる平日は、朝は、子どもたちは7時半に家を出て、僕は帰りが夜12時回ることも多い。ですから、あまりゆっくりと顔を合わせられません。朝は6時すぎには子どもが起きるので「朝くらい相手してよ〜!」と激しく起こされて、仕方なく起床。「宿題の音読するから、聞いて」と言われ、聞いているふりしながら、筋トレしています(笑)。そしたら、子どもたちも横で一緒になって腹筋したりしていますね。
休日は子どもたちが起きる時間よりも早くテニスをしに出かけて、帰ってくるのが朝の10時くらい。そこから子どもたちとの交渉が始まります。「今日は絶対に遊ばなあかん」「聞いてない」「いや、約束した! 3時間は絶対遊ぶ」「3時間は無理。20分やわ」みたいなやりとりを毎週のように(笑)。
大体、1時間くらいで決着しますが、何して遊ぶかも交渉で決めます。娘は「リカちゃんで遊びたい」と言ってきますが、「40歳のおっさんがリカちゃん遊びはほんまに危ないからやらん!」と突っぱねます。子どもの要望に嫌々合わせることはしなくて、無理なことは無理とハッキリ言うんです。
でも、子どもたちもかなりしつこく交渉してきますから、たまに折れますね。
――成長企業の経営者であってもわが子の交渉にはつい負けてしまう、と。どういう遊びに落ち着くことが多いんですか。
中野:上の子は工作遊びが好きなので、段ボールでいろいろと作っています。最近つくったのは、ボタンを押したら缶ジュースが出てくる構造の自動販売機などでしょうか。
誰かの作品を娘が「YouTube」で見ていたんで、「パパもつくれるで」と言って、1時間半くらいかけて。こういうのをたまにやると、リスペクトが稼げます。「これつくったから、当分は無理やで」と。
下の子はマージャンや将棋が好きなので、一緒にやることが多いですね。マージャンは家族揃って好きで、親戚が集まると必ずと言っていいほど雀卓を囲むんです。
僕、仕事とテニスとマージャンが趣味なんですが、どちらも似ているものだと思っていて。「未来を予測できない状況に対して、リスクを取って一歩進める」という共通点がある。状況把握と努力を積み重ねて、最後の最後はエイヤ!と思い切るしかない。1対1の将棋より、1対nの構造のマージャンの方が、よりビジネスに近いなと思ったりしています。
子どもとの遊びに関しては、できるだけ友達家族と一緒に遊ぶようにもしていますね。家の中だけだと飽きますし、たくさんの人と会わせながら育てたいという気持ちがあるので。
――東京滞在が続く時は電話をしたりするのでしょうか。
中野:電話はあまりしませんが、キッズ携帯から時々、メールが来ます。謎のスタンプ連打とか、意味不明のものが多いですけど。兵庫に帰る予定の日には、「なんじなんぷんにかえってくる?」と何回も送られてきます。
「パパは束縛されるのが一番嫌いなんや」と言ってまじめに答えていません。後は、「めがねが大きすぎる」とか「クルマを置きっぱなしにするな」とか、子どもたちからは苦情ばかりです(笑)。
かと思えば、僕がちょっと入院した時に、娘が手紙を書いてきて。うれしいこと書いてくれるなぁと感動していたら、その後ずーっと「あの手紙、どこに保管してる? ちゃんと大事にとってんの?」ってチェックしてきます。「だから、束縛と監視はするな!」と言ってるんですが(笑)。
スマホもルンバもアレクサもどんどん取り入れる
――微笑ましいやりとりですね。ITデバイスをお子さんに使わせることに抵抗はありますか。
中野:全くないですね。むしろ絶対に使わせるべきでしょう。スマホやタブレットになじんでこなかった世代が否定したところで、時代に逆行するだけ。靴を履く時代になっているのに、「足裏を鍛えるために、草鞋を履くべき!」と言って回るようなものです。
うちでもルンバしかり、アレクサしかり、電子機器はどんどん取り入れるようにしています。使いこなせない方が危ない時代になる。ITデバイスに使われるのではなく、使いこなす人間に育てないといけないと思います。そのうち、スマホすらなくなると言われていますが、少なくとも「新しい道具に積極的にトライする」という感覚は持たせるようにしたいですね。
子どもを過保護にせず、ほどよく距離を保つ
――お子さんに対して、「こういうふうに育てていこう」と夫婦で話している方針はありますか。
中野:改まって話し合ったことはないのですが、僕が大事にしたいことは3つあります。
1つ目は「何があっても変わらず君たちを好きでいますよ」と伝え続けて、子どもにとっての安全基地のような存在でありたいということ。子どもたちはすぐ「パパ、嫌い!」とか言ってきますが、「別に君がどう思おうと勝手だけど、俺は好きだから」と返します。かといって、ベタベタはしない。
2つ目は「子どもたちを過保護にせず、ほどよく距離を保つ」という姿勢も大事にしたいということ。親は確かに保護者としての責任は持つけれど、子どもの人生は子どものもの。あれこれと手を貸しすぎるのは成長の妨げになると思っていますし、そもそも子どもは頭がいい。大人が信頼して任せる姿勢を示したら、子どもは自分でしっかりと決められるはずです。
――未熟者扱いをしたり、先回りして守りすぎたりせず、一人の人間として対等に尊重していきたいということですね。
中野:基本的にそういうスタンスでやっていますね。だから、きょうだいゲンカが起きて「パパ、何とかして!」と言ってきたとしても、一切関与しません。「それは二人の問題やろ。俺には全く関係ない」とハッキリと言います。
一方で、本当に困った時にシェルターとしての役割は果たしたいので、「パパは何でもできるんだぞ」としょっちゅう言っています。「じゃ、やってみせて」と言われても、「今はその気がない」とはぐらかしますけどね(笑)。
要は、親自身が自分の問題を真正面から考えて解決する姿勢を時々見せることが大事で、子どもは自然と参照して、行動していくだろうと思うんです。何でもやってあげて、「こうしなさい」と言うだけでは身につかない。
――子育て方針の3つ目は何でしょうか。
中野:好奇心を育てることです。子どもたちには3歳くらいから「好奇心を持て」と繰り返し言い続けています。何かができるようになったという達成に関しては、僕は単に成長度合いでしかないと思うので、いちいち褒めません。
代わりに褒めるのは、「なんでこうなっているんだろう?」という好奇心を持って行動できた時です。ものごとの構造に興味を持って、自分なりに考えて、次の一歩を自分から踏み出せた時は、すごく褒める。「○○ができるようになったよ!」と言ってきた時には「なんでそれをやろうと思ったのか?」と「Why」の部分を聞くようにしています。
(後編に続く)
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