子育ても経営も「It’s my pleasure!」

話題のVR(仮想現実)しかり、「生(リアル)でなくても疑似体験できる時代」に生きる世代の子どもたちに、できるだけリアルな体験をさせたいという思いが強いのですね。そして、それに付き合っているのですね。

西村:つい最近、「優しさって何だろう」ということを考えていたんです。

 寒い雪の夜、妻と友人が岩盤浴に行って帰ってくる時、ちょうど僕は、息子たちと映画に行った帰りだったので、30分ほど待って、車でピックアップしたんです。その時、「優しいね」と友達に言われたんですが、その言葉が引っかかって。そうじゃないんだよな、と。

 別に、優しいと思われたいからやったわけではなくて、単に自分がそうしたかったからなんですね。せっかく岩盤浴に行ったのに、体が冷えるのはなんだかなぁと思ったから、待っただけなんだけど、と。

 しばらくモヤモヤが残っていたんですが、年初に友人とアメリカに行った時に膝を打つ経験をしました。ロサンゼルスの空港から帰国しようという時、飛行機が遅れているお詫びにと、航空会社から10ドルのドリンクチケットをもらえたので、ビールを飲もうとカウンターに並んでいたんです。

 けれど、「アルコールは適用外」と言われて、そうかと諦めようとしたら、後ろに並んでいたごく普通のおばさんが「あなた、かわいそうだから私が払うわ。ビールを飲みなさい」とお金を払おうとしたんです。「え、いいよいいよ。悪いから」と返したら、彼女が笑顔で言ったんです。「It’s my pleasure!」。ああ、これだと。「これは私の喜び。好きだからやっているの」という思いが、本当に豊かだなと思いました。しかも、いかにもお金持ちのマダムではなく、本当に普通のおばさんがそう言ったことに、この感覚の普遍性を感じたのです。

 子育ても、そうなんですよね。「育児に協力してやっている」「頑張って育児している」という姿勢ではなくて、本当は「好きだから、楽しいからやっている」。職場を子連れOKにしたのも、優しさではなくて、自分がそうしたいから。その方が、会社が安定して成長してくれるからです。

 何でも、その人が本心からやりたいことや心地よいことを追求して応援すれば、結果的に周りの人たちの喜びや幸せにつながっていく。これは性善説で成り立つ考えかもしれませんが、僕のすべての思考の根底には、これがある気がします。

最後に、西村さんにとって「子育て」とは。

西村:「最強のエクスペリエンス」です。体験をテーマにした会社を10年以上やってきましたが、育児に勝る発見と学びの体験は、ほかにありません。子どもたちの関心は、脈絡ないひらめきや、その瞬間の気持ちを純粋に感じとったセレンディピティー(偶然性)に満ちていて、いつも「そう来たか」と驚かされます。子どもたちの感性こそ最先端であり、未来をつくるものなのです。

 経営と育児の方針はほぼ一致するという話をしましたが、その思考を深めたり、フィードバックしたりするための素材が、育児の時間によって増えるし、多様化していると感じます。どこまでも発想を広げてくれる子どもたちをリスペクトしているし、感謝しています。

■子育てとは

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