子どもにスマホやゲームは、一切させていない

お子さんのしつけの面で、「これだけは厳しく制限している」ということはありますか。

豊田:どちらかというと、「何でも試して失敗してみなさい」という方針なので、あまり制限しないように心がけています。ただ、僕の両親と同じように、「自分の行動に責任を持ちなさい」ということは繰り返し話しています。

 例えば、長男は好奇心旺盛で習い事を増やしすぎる傾向がある。今は野球がメーンですが、ほかにも剣道、太鼓、水泳にピアノまで。近所の区民センターで習える教室が豊富にあるので、経済的にはありがたいのですが、「全部続けたい!」と言っていて(笑)。下の長女の方も、なぎなたとバレエとピアノと水泳。「やるならちゃんと続けるんだぞ。だから、始める前にしっかり考えて」とは言っていますが……。

 制限しているものは一つ。ゲームやスマホは一切やらせていません。

コンピュータを駆使したデザインを手掛ける豊田さんが、お子さんにはゲームやスマホを触らせないのは意外ですね。その意図は。

豊田:受け身ではなく、自分の目で見て、自分の頭で考えて決められる人間に育ってほしいからです。いずれ、スマートフォンも手にするはずですが、持たなくても生活に支障がない間は、できるだけ持たせないようにしようと夫婦で話して決めました。

 そう決めたのには、やはり僕の幼少期の原体験があって、当時流行っていた超合金ロボットとかゲームウォッチとかオモチャの類を一切与えられなかったんです。遊び道具は自分でつくるしかない。ひたすら空き箱やガラクタを集めて、ガチャガチャと手を動かしていました。

何十回、何百回と繰り返さないと、子どもに伝わらない

その経験から獲得した感性が、今の創作につながっているんでしょうね。でも、お子さんから主張されませんか? 「友だちはみんな持ってるのに!」とか。

豊田:されます、されます。その都度、ちゃんと理由を説明しています。「自分で考えなくなるのはお父さんもお母さんも嫌だから、今は持たせない。もう大丈夫だと思ったら渡すよ」と。

 うやむやにせずに、きちんと話せば、子どもも「分かった」と言ってくれます。本当にどれくらい理解してくれているかは分かりませんが、何十回、何百回と繰り返し伝えていくことが大切なんだろうな、と。

 概念って一度で伝わることは絶対になくて、しつこく反復して、ようやく伝わるものなんです。ロゴのデザインを何十回とスケッチしていくうちに形になっていくのと同じです。特に、他人の頭の中に概念を描きたい時は、諦めずに繰り返さないと。

なるほど。「うちの子、何度言っても聞かない」というのは当然だということなのですね。

豊田:そう思います。社会人であれば「1回言えば分かるでしょう」が通りますが、同じことを子どもに期待しても、うまくいくはずはありません。子どもによってスイッチが入るタイミングは違いますし、ちょっとずつスイッチが入る子もいれば、いきなりガガガっと入る子もいる。

 Aのスイッチから入る子もいれば、Aを飛ばしてBから入る子もいる。多分、5年や10年のスパンで慣らされていくものだと思います。あと3年経たないとスイッチが入らない子に向かって頭ごなしに言っても仕方がないし、無理やりスイッチを入れようとすると、周辺の回路まで壊れてしまう。

 僕は専門家ではないのですが、子どもたちを見ていると、そんな気がするんです。大人が子どもを潰す存在になってはいけないなと、自戒も兼ねて思います。

 講師として教えに行っている大学で学生に接していても、もったいないなぁと思うことは多いんです。自分なりに考えて創造するプロセスの練習が不足したまま大人になろうとしている学生が多い気がするので。

父親として小学生の育児、教員としての大学生の指導、経営者としての組織のマネジメント。いろいろな階層で“人育て”を見ているのですね。

豊田:それはあるかもしれません。料理の材料とレシピと完成形を結びつけながら、「何をしたらこの味になるのか」と因果関係を検証するように、人間が育つプロセスを段階ごとに観察することには、興味があります。

それは、建築家ならではのものの見方なのでしょうか。

豊田: 建築って、構造の因果関係をデザインする仕事なんです。あるインプットの結果が出るには、何階層かのステップを踏まないといけないかもしれない。それだけ時間がかかることもあるという感覚は、職業柄、身についています。だから子育てにおいても、すぐに結果を求めない姿勢になっていると思います。

 信号の入力は、一瞬で済む方法、3カ月間継続する方法、1週間ごとに5年かけてやる方法など、いろいろとあります。しかも、それが3歳からの5年なのか、6歳からの5年なのかで、効果は変わります。そのタイミングとタイムスパンは見誤らないように注意したい。試行錯誤の繰り返しですけどね。