鴨長明の「方丈記」はサラリーマンにとっての必読書だ
上田:彼女にはぜひ、鴨長明の方丈記を読んでほしい。その中に、「ゆく河の流れは絶えずして」という一説がある。
ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。よどみに浮かぶうたかたは、かつ消えかつ結びて、久しくとどまりたるためしなし。世の中にある人とすみかと、またかくのごとし。

川の流れは延々に流れる。流れの中に浮かぶ泡は、消えてはまた形になり、常に変化しながら川の流れに乗って動いていく。会社人生もそれと同じだよ。彼女はそういう流れの中で、どう生きるかに悩んでいるんだね。
川は、あるときは速く、あるときは悠々と、またあるときは岩にぶつかりながら流れている。そこに浮かぶ泡も、緩やかな流れで結んで、また消えて、そして流れに乗っていく。彼女には、流れに逆らわない生き方、会社人生をまっとうしてほしいと思う。
人生を川に例えるなら、その流れは誰にとってもずーっと止まることはなく、しかも、どんどん、どんどん変わっていくんだよ。それが生きるということだな。
そういう人生の中で、今、彼女はどういうところにいるかというのを、まずは考えてみてごらん。心も体も病むという大変な経験をして、それでもこの方は営業に戻ってきたわけだけど、今、周りが彼女をどう見ているのかということが気になっているんだよね。
大竹:そうですね。50代のベテランが、新人と一緒にシステムの使い方を学んだり、営業の勘を取り戻そうとしたり、頑張っています。ただ、若くて元気な新人と一緒に働いていて、体力の限界も感じているようです。
上田:周りの人から何か聞かれたら、「営業担当を希望したんです」と、ニコニコ笑う努力をしていると言っているね。
だけど、もう、そういうニコニコ笑う努力なんて、しなくていいんですよ。もう、ありのままの姿を見せて、何も隠さず話せば良いんです。川の流れに浮かぶ泡のように、もう普通にそういう会社人生になったということを、心身ともに自分で納得することですよ。心も体もね。
大竹:流れにまかせてそうなったと。
上田:そう、流れに。役職を捨て、営業担当を再度希望したということも、流れの中でそうなったというだけで、笑ってごまかさなくていいんですよ。これまで、営業をやって、管理部門でも経験を積んで、それでまた営業に戻ってきた。
彼女の今の状況は、そういう流れの中で、自分が一番泳ぎやすい、流れやすい部署を、会社人生の最終ステージで選んだということなんです。そのことを、きっちりと心にも身にも染み込ませてください。無理してニコニコしてごまかす必要なんてないですよ。
大竹:あくまでも、自然体でいい。
上田:自然体でいれば、仕事でもこれまでの経験を生かした営業活動ができるようになるだろうし、そういう姿がまた会社に評価されるはずですよ。川べりの方に打ち寄せられて、淀みで滞っていたわけではなくて、彼女はちゃんと自分が選んだ流れに乗って今の職場まで流れてきたんでしょう。それが自分の選んだ道なのであれば、自信を持って自然体でいるべきです。心と反対の行動を自分がとっていると、会社の雰囲気も彼女が流れたい方向とは反対のものになってくる。
僕ももう1回、読んでみようか、鴨長明の方丈記。
大竹:まさに「ゆく河の流れは絶えずして……」ですね。周りに合わせようと無理に頑張ることはないということですか。
上田:うん。彼女が頑張ることは、今の川の流れの中で、その流れに沿ってきっちりと泳いでいくこと、流れていくことです。逆らったり、逆流したり、川岸に乗り上げたりしない。今、あなたは川の流れの中で一番いいところにいるんだと信じて、流れて行って下さい。
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