ユニー・ファミリーマートHD相談役、上田準二さんの「お悩み相談」。今回は26歳の女性から。新規事業の部署で成果を出せないことに焦っています。上田さんは「『て・に・さ」が『負のバイオリズム」を招く」と忠告。それっていったい何?
悩み:
入社2年目。新規事業担当部署で成果を出せません。会社には技術もノウハウもなく、自分のキャリアを考えても、このままでいいのか不安です。どうしたらよいでしょうか。
こんにちは。いつも楽しみに拝見しております。私は入社2年目の会社員で、研究開発職をしています。新事業を模索するような部署で、まだ会社が参入していない新しい分野の製品開発に取り組んでいます。
ですが、社内にその新しい分野の技術、ノウハウがなく、手探り状態なのに加え、競合他社との比較にならない技術力の差に限界を感じ始めています。このまま研究をしても、会社に何の利益ももたらさず、私自身も成果をあげられない会社員のままで、キャリアの面でも不安があります。
今の会社にずっと勤めるという考えはありませんでしたが、せめて一仕事だけでも成し遂げたいと思っていました。最近は退職が頭をよぎりますが、何の実績もないので転職もできません。チャレンジできる恵まれた環境にいるのも、自分の努力が足りないのも、やるしかないのもわかっています。
ですが自分の力不足を認めざるを得ない状況です。力不足な人間だからこそ、利益を生み出す可能性の低い仕事を担当させられたのではないかと考えています。そういう事も含めて考えると、退職した方がいいのかとも考えてしまいます。比較的短期間で成果を出さなくてはなりません。上司にどう話したらいいでしょうか。ご教示よろしくお願いいたします。
(26歳 女性 会社員)
1946年秋田県生まれ。山形大学を卒業後、70年に伊藤忠商事に入社。畜産部長や関連会社プリマハム取締役を経て、99年に食料部門長補佐兼CVS事業部長に。2000年5月にファミリーマートに移り、2002年に代表取締役社長に就任。2013年に代表取締役会長となり、ユニーグループとの経営統合を主導。2016年9月、新しく設立したユニー・ファミリーマートホールディングスの代表取締役社長に就任。2017年3月から同社取締役相談役。同年5月に取締役を退任。趣味は麻雀、料理、釣り、ゴルフ、読書など。料理の腕前はプロ顔負け。(写真:的野弘路)
上田準二(ユニー・ファミリーマートホールディングス相談役):まず、考え過ぎだね。第一に、会社が今までやってない新しい分野での製品開発を、入社2年でポンとできたら相当なもんですよ。今は、どういった新規事業や新しい製品が会社に利益をもたらしていくのかと勉強する段階であって、いきなり入社2年の社員がそれをできてしまうようでは、もう、そもそもこれまでその部署の人は何をやっていたんだということになるでしょう。
まずは、今いる部署で、日々いろいろなことを勉強しながら、先を見通してやっていく努力をすべきだろうね。2年間では、そんな努力の積み重ねはまだ形として現れませんよ。転職しても同じだよ。あなたはまだキャリアで、何も成し遂げていないんだから。
勉強して、その成果を具体的な形にして、それを会社の中で実際に実行に移していく。それには、それなりの時間がかかるものですよ。新しいアイデアが具体的に固まって、それを会社として実行しようと提案しても、まったく採用してくれないというのであれば、転職も考えてもいいだろうけど、まだその手前ですよ、あなたは。
大竹剛(日経ビジネス 編集):そもそも、入社2年目の若い社員を新しい製品を模索するプロジェクトに配属するというのは、経営者の立場としては、どのような期待があるんでしょうか。
上田:とにかく、勉強しろということでしょう。新規事業を考えるような部署なら、俯瞰的に会社を知るにはいい場所だよね。それに、同業や競争相手のことも知らないといけない。
この人はまだ26歳、2年目、大卒だよね。日本の大学では、企業に入ってすぐに使えるスキルを教えるわけではないでしょう。だから、どうしても企業で勉強しなきゃいけない。
例えば、この女性が大手の食品メーカーの開発部門に勤めていたとして、入社2年目で何ができますか。添加物から何から、知らなくてはいけないことはたくさんあるし、それがどう味覚に影響を与えるのか、どんな食感になるのか、人体にはどんな影響を及ぼすのか、栄養価はどうなのかなど、考え始めるときりがないほどだ。自分自身の舌だって磨かなきゃいけないでしょう。
しかも、新しい製品と言うのは1人で作れるものではなくて、多くの人の手が加わって形になるものだよ。だから、あなたは「私は何も貢献してない」なんて言うけど、似たような若い社員は多かれ少なかれそう、そんなもんだよ。
成果が出なくても「私はやった」と開き直る
大竹:力不足な人間だから、そういう仕事が割り当てられたんじゃないかというふうにも思い込んでいます。
上田:力不足と言うけど、力があるというのはどういうことかね。そもそも、新商品の開発なんていうのはすぐに利益につながるもんじゃないし、短期間に成果を出すと言っても、そもそも難しいのに社会人2年目程度ではなおさらでしょう。まずは、利益を生み出す可能性が大きいか小さいかなんて、とりあえず忘れなさい。
新製品の開発は、長期のスパンで見ていくことが欠かせないよ。あなたの部署は、収益を上げることを期待されているのではなく、どちらかというと投資部門なんですよ。あなたは投資部門にいるんです。今ある商品で利益が上がっているだろうけれども、その商品だけじゃいつか競争に負けたり、陳腐化したりする恐れがあるから、次の商品を考える部署があるんですよ。
むしろ、そういう部署に配属されているということを、幸運に思うべきだと思うね。営業はつらいぞ、日々、数字を突き付けられるから(笑)。当面の間は数字に追われることなく、日々、研さん、勉強、新知識を得られるわけでしょう。しかも、ボーっとしていたって、「新しい発想を考えているんです」と言えばいい。今すぐ銭を持ってこいと言われないということは、かなり幸せな部署だぞ(笑)。
大竹:そうですよね。
上田:僕なんかいつも、何でもいいから、とにかく銭を持ってこいって、ひどい上司がおったからね。まるで借金の取り立てだよ(笑)
大竹:この相談者は、自信家なのかもしれません。自分一人で短期間で成果を上げられると、最初から思い込んでいるようにも聞こえます。
上田:大企業の中では、自分一人で何かをするなんて、ほとんど不可能ですよ。しかも2年目でしょう。まずは1人で考え込むんじゃなくて、周りの人と交流し、意見を戦わせながらやらないと。そうすれば、自分もチームの一員でやっているという気持ちが出てくるから。
大竹:上田さんは、この相談者のように、自分は力不足だ、もっと早く成果を出さなければ、といった焦る気持ちになったことはありませんか。
上田:まったくないね。力不足なんて思ったことなんて、これっぽっちもないよ。ボーナスだとか人事評価だとかを気にして、「俺は力不足だ」とか「あいつよりも劣っているんだ」とか考えても仕方がない。もし、人事評価が誰かよりも悪いと分かったところで、「ああ、そうなのか。だけどそれが俺だな」と開き直るしかない。
大竹:開き直っちゃうんですか。そこから「俺も頑張ろう」みたいな感覚は湧いてこないと。
上田:開き直るという言葉が悪かったかな。つまり、割り切って考えるんだよ。
「今は俺の方が悪いけど、またいつか逆に俺が評価されるときもあるかもしれない」とね。評価が悪い、成果が出ない、と落ち込むんじゃなくて、今自分が持っている能力を出し惜しみしたり、サボったりした結果ではないのであれば、自分自身のことを「俺はダメだ」なんて思うことはないよ。
大竹:結果はどうであれ、「今の俺は全力で努力している」という納得感が大事というわけですね。
「手を抜く」「逃げる」「サボる」はやってはいけない
上田:子供のころを振り返ってごらんよ。親にバカ、アホと言われたら、「いいんだ、どうせ俺なんか・・・・・・」と、そういう気持ちになったことは、誰だってあるでしょう。
だけど、それで落ち込んじゃダメなんですよ。秘訣は、「どうせ俺は・・・・・・」と思っても、「どうせ俺はバカなんだ」とは考えない。「どうせ・・・・・・」という意味は、「俺の今の精いっぱいがそれだ」と割り切るということが大切なんだな。逆に、落ち込むというのは、心のどこかに精いっぱいやってなかったということに対する後ろめたさがあるからでしょう。「手を抜いたのかな」「何であそこで逃げたのかな」「サボったのかな」と、こういうことに対して落ち込むんだよ。
だから、「手を抜く」「逃げる」「サボる」はやってはいけない。
大竹:上田さんにもあるんですねぇ、「ああ、逃げちゃった」と落ち込んだ経験が。
上田:うん、ある。ああ、あそこで逃げちゃったな、手を抜いちゃったなと。これが一番後で悩むことだよ。そうでなければ、悩むことなんかない。だって、そもそも、人それぞれ個性や能力は違うわけで、それによって結果だって違ってくる。その結果が、評価なり収入なりにつながってくることもあるわけだけど、それに関してはもう、しょうがないじゃない。だって、自分は自分。周りとは違うんだから。
「俺は出世しなかった」とか「ステップアップできなかった」とか「何でボーナスが低いんだ」とか、そんなこと言ったって始まらない。そんなことは言わない。言うと余計、自分が負のバイオリズムに落ちていく。
大竹:「手を抜く」「逃げる」「サボる」。これが上田さんの「負のバイオリズムを招く3条件」なんですね。そこに陥らないように、どういうことを心掛けたらいいのでしょうか。
上田:僕はずっと、チームの人に分かりやすく、きれいに、「元気、勇気、夢」と言ってきた。元気、勇気、夢。すべてはそれがつながっていくと。自分自身に、「元気を出せ」「勇気を出せ」「そうすれば夢が叶うんだ」と暗示をかけてきたんですよ。
いろいろと怖いこともあったよね。取引先には怖い人はたくさんいたし(笑)。だけど逃げない。そうすると、しだいに夢が近寄ってきて、後で結果が付いてくる。昇進、昇格なんて言うけど、昇進、昇格が先にあって、その後に元気、勇気、夢が付いてくるんじゃない。元気、勇気、夢があって、運がよければ昇進や昇格が付いてくるんです。
「どうして俺はあの同期より評価が悪いんだ」とか、「どうして同期が出世して俺はできないんだ」とか、そんなことを言っていたら負のバイオリズムが襲ってくるよ。飲みに行ったって、上司が悪いとか、そんな愚痴を言っているようでは、その時間もおカネも無駄だよね。愚痴を言い始めた途端、全て、他人のせいになっちゃう、つまり逃げにつながるんだよ。
大竹:なるほど。他人のせいにしないというのは、先日の上田さんの「学生は天動説、社会人は地動説」理論につながります。
上田:すべては自分の気持ち次第よと。負の悩みをずーっと持っているのは、人のせいにするからなんですよ。しっかりとした自分を持つこと。そうしたら、出世しなくたって悩むことがなくなるよ。
よく、「会社が悪い」って、飲み屋でぐだぐた言っている人がいるでしょう。まあ、ときにはそうやって口に出してガスを抜くことも必要でしょう。だけど、一度ガスを抜いたら、自分を取り戻して、ちゃんとやらないと。
大竹:この2年目の女性も、まずは成果を出すことを焦らず、「手を抜かず」「逃げず」「サボらず」、勉強する気持ちでしっかりと目の前の仕事に打ち込んでみることですね。
上田:そうだよ。僕は、新しい事業や商品を生み出すのは、やりがいがある仕事だと思うぞ。
競合他社から技術的に劣っていると言うけれど、だったら、競合他社との格差を縮め、追い越すには何をすべきか、考えてみたらどうですか。僕が「ファミチキを作ったるで」と思ったのも、当時のファミリーマートには魅力のある商品が少なかったからですよ。こんな会社のままだったら、なんぼチェーンを強化しろと言ったって、無理だよね。何か面白いこと、強い商品を作り出さないと。
逆に言えば、自分の会社に今、強いところがないということは、それだけ強くなれるフィールドは広いということだ。こんな楽しい仕事はない。俺たちは何もない、というのは、それだけポテンシャルがあるということだからね。
だから彼女も、いい環境の職場で頑張れたら本当にやりがいがあると思うけどな。
大竹:彼女自身、チャレンジできる恵まれた環境にいると言っていますしね。
上田:会社のせいにせず、まず自分を変えましょう。
読者の皆様から、上田さんに聞いてほしいお悩みを募集しています。仕事、家庭、恋愛、趣味など、相談の内容は問いません。ご自由にお寄せください。
>>悩みの投稿<<
*この連載は毎週水曜日掲載です。
この記事はシリーズ「お悩み相談~上田準二の“元気”のレシピ」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。
Powered by リゾーム?