本気で動きたいのならば「提案書」を書いてみろ

大竹:むしろ、そうした現場訪問が、社内転職活動のようなものにつながるかもしれない。

上田:そうです。一つの部署にくすぶっていてはダメです。ほかの部署にも顔を知られ、信頼感を獲得していかないと。

 少なくとも、これだけの大企業で、製造業で環境対策企画という部署をつくっているくらいなんだから、会社の意識が低いということはまずないはず。たまたま上司の発言がそういうふうに聞こえたのかもしれないけど、それは少なくとも、その対策のコストがあまりに高すぎるということだったのかもしれないし、もしそうなら、別の提案をしてみましょう。

 それで、現場にも行ってみなさい。10年間、同じ部署にいるということは、それだけ会社があなたの知識やキャリアを評価していて、その部署に置いておきたいということもあるのでしょう。だけど、あなたは現場に行きたい。だったら、今の部署にいながら、現場に行けばいいんですよ。

大竹:相談者が言うように、人材を囲い込むというような発想は、どの組織でもよく聞きます。ただ、行き過ぎると、弊害になるのではないですか。

上田:やり過ぎはよくない。縦割り組織の弊害というのは大きい。

 だから、彼も本気で人材ローテーションが必要だと思うなら、上司だけじゃなくて、人事部にも、やっぱり部門ローテーションというのが必要じゃないかというようなことを、1つの提案として出してみてもいいんじゃないか。批判じゃなくて、前向きな人事政策の一環として、人材育成の観点からね。

大竹:大組織の中で、人事以外の部署からの提案を、人事が聞き入れますか。上司からも嫌がられませんか。勝手に人事にたれ込んだのか、といった具合に。

上田:だいたい、どの会社だって新しい提案は若い人がするものだよ。部門を超える提案だって、上司に言っておけばいいんですよ、「私、提案書を出したいです」と。

大竹:人事に関する悩みの相談は多いですよね。人事は会社が決めることだから、なかなか自分の思い通りにならないことに対して、悶々とした気持ちになることが非常に多いです。

上田:でも、悶々とじっとしていたって、前向きな気持ちには絶対になれないよ。だから、提案して、まず1つの壁を破ることも必要だと思うんだな。自分で自分を押さえ込んでおるより、ずっとマシだ。

大竹:人事は自分で決められるものではなく、上田さんがいつも言うように、与えられた場所で頑張っていれば、そこで認められて、新しいチャンスが巡ってくるという意見がある一方で、今の時代はキャリアというのは自分で主体的に選んでいかなければだめだ、という意見もあります。

上田:この前の「成長したければ自分から『異動希望』は出すな」の相談は、まだ異動して3年という話だったでしょう。しかも、周囲にものすごく頼りにされて、かわいがられている。そういう状況なら、まだ異動届なんか出す必要はない。だけど、今回の相談のように、10年も同じ部署にいて、しかも今の仕事をより良くするために現場に行きたいという思いも強いのなら、それをどうやって実現するか、知恵を巡らせるのも1つの方法だと思うわけだ。

 本気で現場に行きたいのなら、本気の提案書を会社に出してみる。ただし、上司には事前に言っておく。「私はこういうものを人事部に人事政策として出したい。その理由、背景はこうこうこうです。これは会社経営にとって非常に重要なことだと思う」とね。上司には言っておかないと、俺が知らんうちに、なんで勝手にそんなものを出したか、という話に必ずなるから。やっぱり、どうしてもサラリーマン社会というのは、手順を踏まないと物事はスムーズに進まない。

大竹:同じ部署に10年、30代前半ということは、きっと、仕事にもマンネリ感が漂ってきているのかもしれませんね。その一方で、自分が担当している仕事に足りないのは、現場を知ることだという、前向きでプロフェッショナルな意識も芽生えているようです。

上田:現場を知るべきという意見は、僕はその通りだと思う。それは、すべての仕事にとって、当てはまる。机だけに向かっていたって、いい仕事はできない。だから、現場に行きたい、というもやもやした思いを、熱い前向きな情熱に育てるんです。その思いを、まずは提案書にぶつけてみなさい。きっと、何かが変わるはずだよ。

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