ユニー・ファミリーマートHD相談役、上田準二さんの「お悩み相談」。今回は、入社して10年間、同じ部署・同じ上司で閉塞感を感じている33歳の男性会社員から。間接部門にいながら、現場に出たいという思いを、どう実現するか。
悩み:
入社して10年、ずっと同じ部署、同じ上司です。環境対策企画をする仕事をしていますが、現場を知らなくては、よりよい仕事ができません。上司にも相談しても変わらない状況に、もやもやしている自分自身も嫌になってしまいます。
毎回楽しく読ませていただいています。「成長したければ自分から『異動希望』は出すな」の回で、同じところにいると成長しづらいという回答をされていましたが、私は入社10年目、ずっと同じ部署、同じ上司です。
地元では大企業といわれる規模の製造業の中で、はやり(?)の環境対策企画をする部署ですが、経営陣の意識が低いのか「そんなことに金を使うくらいなら……」という論調で取り組みを否定されて全く進まない現状です。しかし、これに関して言えば、私の企画する能力が足りないだけかもしれません。愚痴でした。
本題ですが、不満は入社以来、変わらない組織です。今の仕事をするにも、もっと現場のことを知った方がよりよい仕事ができると思いますし、期間限定でもいいから人材ローテーションを、と訴えているのですが一切変わる気配がありません。直属上司だけではなく、部門長とも話す機会を作ってみましたが、変化はありませんでした。部門内のマネージャークラスが人材を囲い込むのに必死だという噂もあります。私はどうしたらよいのでしょうか。これでもやもやしている自分のことも嫌になってきます。
(33歳 男性 会社員)
1946年秋田県生まれ。山形大学を卒業後、70年に伊藤忠商事に入社。畜産部長や関連会社プリマハム取締役を経て、99年に食料部門長補佐兼CVS事業部長に。2000年5月にファミリーマートに移り、2002年に代表取締役社長に就任。2013年に代表取締役会長となり、ユニーグループとの経営統合を主導。2016年9月、新しく設立したユニー・ファミリーマートホールディングスの代表取締役社長に就任。2017年3月から同社取締役相談役。同年5月に取締役を退任。趣味は麻雀、料理、釣り、ゴルフ、読書など。料理の腕前はプロ顔負け。(写真:的野弘路)
大竹剛(日経ビジネス 編集):「異動希望は出すな」というこの前の相談は、読者からの反響がありました。「その通りだ」という意見もあれば、「自分のキャリアをもっと主体的に考えるようにならないとダメだ」という意見もありました。この方は、ずっと同じ部署にいることに悩んでいます。上田さんは「異動希望は出すな」というけれど、本当かと。
上田準二(ユニー・ファミリーマートホールディングス相談役):前回の相談は、まだその部署に行って3年で異動したい、という話だったよね。だから、それはちょっと早いんじゃないのかと話したんだ。それが、10年ということになると、また違ってくる。
大竹:この方は、10年間ずっと同じ部署で、しかもずっと同じ上司。なかなか、息が詰まりそうな職場なのかもしれません。人材ローテーションを訴えても、一切変わる気配がない。動きたいけど動けない。それで、もやもやしている自分が嫌になってしまっています。
上田:この方がいる部署は、環境対策をしていると言ったかな。大企業の製造業では、これは非常に重要な取り組みをするところだよね。こういう部署がきっちりと部署として会社にあるということは、経営陣の意識が低いということはあり得ないと思うぞ。
この彼は、「そんなことに金を使うくらいなら……」と言われたので、経営陣の意識が低いと思ったかもしれないけど、提案の仕方にも、やっぱりそう言われるような要素があったかもしれない。もっと小さなコストで、同じくらいの効果を出すような提案があったら、きっと「いいね、それをやろう」という話になったかもしれない。
たまたま上司が、「そんなに金がかかるのか」と言ったかもしれない。であれば、もっと低コストでできないかということを考えてみてもいいと思うよ。すぐに、「経営陣の意識が低い」と考えてしまうのではなくて、どうやったら提案が通るのか、もう少し考えることが必要かもしれない。
すべての仕事は現場に通じる
大竹:すぐに、相手のせいにしてはいけないということですか。相手のせいにしてしまうのは、簡単ですものね。
上田:そう。それに、なかなか異動したいと言っても出してくれないということは、彼は必要とされているんですよ。
環境対策企画に対する知識なり、スキルなりを持っている人がほかにいなくて、代わりの人があまりいないのかもしれない。それだけ、長い知識や経験が必要だということで、出さないのかもしれない。
ただ、現場のことを知った方がよりよい仕事ができるというのは、その通りだ。現場の製造過程やオペレーションがどうなっているのか、どういう仕事の仕方をしているのか、そういうことをきっちり知らずして環境対策企画なんてやっても、極めて抽象的で上っ面の話になってしまう。だから、やっぱり現場を知らないといけない。
大竹:部署から異動できない。でも、現場は知りたい。どうしたらいいですか。
上田:本人がどんどん、現場に出掛けていけばいいんですよ。部署を変わらなくたって、現場を知ることはできる。
大竹:前回の相談もそうでしたが、まず、自分から動いて見る。「地動説」ですね。
上田:ファミリーマートにも、品質管理や環境対策を担当する部署があるんですけど、彼らはデスクになんかいませんよ。
大竹:常に現場に出ている。
上田:年中現場に行っていますよ。それが当然あるべき姿です。この方の会社だって、彼が現場へどんどん、どんどん出ていってやるのが、本来の姿なのではないかな。
僕の場合は、会社としても当然ウエルカムだったし、そういう業務をしてほしいと思っていたわけですよ。環境対策や品質管理に関する仕事は、デスクワークではできない。やっぱり、現場に出て行かないと。
上司には、今日はどこどこの工場に行ってきます、明日はどこどこの現場に行ってきますと、報告しておけばいいんです。「私の今月のテーマはA工場の何です」とか、「B商品の製造ラインのオペレーションをチェックして、もっと環境対策を強化できるかどうかを調べることです」とか。そういうことを全部やってみたいと、上司に相談してごらんなさい。もちろん、そうした取り組みの結果や進捗もしっかり報告する。そういうことを「やらんでいい」なんていう上司がいたら、ちょっと失格だね。
きっと、本当はやってほしいと思っているんじゃないかな。
大竹:そうかもしれませんね。
上田:まあ、現場に行き過ぎると、現場からは製造の効率が落ちるからほどほどにしてくれとか、クレームが来ることもあるけどね(笑)。でも、それくらいの使命感を持って、現場を回ってみてはどうですか。
頻繁に現場に顔を出していたら、逆に現場の方から、「あなたこっちで仕事をしてよ」と誘われるかもしれない。過去、そうやって現場に引っ張られていった人も良く知っているしね。
本気で動きたいのならば「提案書」を書いてみろ
大竹:むしろ、そうした現場訪問が、社内転職活動のようなものにつながるかもしれない。
上田:そうです。一つの部署にくすぶっていてはダメです。ほかの部署にも顔を知られ、信頼感を獲得していかないと。
少なくとも、これだけの大企業で、製造業で環境対策企画という部署をつくっているくらいなんだから、会社の意識が低いということはまずないはず。たまたま上司の発言がそういうふうに聞こえたのかもしれないけど、それは少なくとも、その対策のコストがあまりに高すぎるということだったのかもしれないし、もしそうなら、別の提案をしてみましょう。
それで、現場にも行ってみなさい。10年間、同じ部署にいるということは、それだけ会社があなたの知識やキャリアを評価していて、その部署に置いておきたいということもあるのでしょう。だけど、あなたは現場に行きたい。だったら、今の部署にいながら、現場に行けばいいんですよ。
大竹:相談者が言うように、人材を囲い込むというような発想は、どの組織でもよく聞きます。ただ、行き過ぎると、弊害になるのではないですか。
上田:やり過ぎはよくない。縦割り組織の弊害というのは大きい。
だから、彼も本気で人材ローテーションが必要だと思うなら、上司だけじゃなくて、人事部にも、やっぱり部門ローテーションというのが必要じゃないかというようなことを、1つの提案として出してみてもいいんじゃないか。批判じゃなくて、前向きな人事政策の一環として、人材育成の観点からね。
大竹:大組織の中で、人事以外の部署からの提案を、人事が聞き入れますか。上司からも嫌がられませんか。勝手に人事にたれ込んだのか、といった具合に。
上田:だいたい、どの会社だって新しい提案は若い人がするものだよ。部門を超える提案だって、上司に言っておけばいいんですよ、「私、提案書を出したいです」と。
大竹:人事に関する悩みの相談は多いですよね。人事は会社が決めることだから、なかなか自分の思い通りにならないことに対して、悶々とした気持ちになることが非常に多いです。
上田:でも、悶々とじっとしていたって、前向きな気持ちには絶対になれないよ。だから、提案して、まず1つの壁を破ることも必要だと思うんだな。自分で自分を押さえ込んでおるより、ずっとマシだ。
大竹:人事は自分で決められるものではなく、上田さんがいつも言うように、与えられた場所で頑張っていれば、そこで認められて、新しいチャンスが巡ってくるという意見がある一方で、今の時代はキャリアというのは自分で主体的に選んでいかなければだめだ、という意見もあります。
上田:この前の「成長したければ自分から『異動希望』は出すな」の相談は、まだ異動して3年という話だったでしょう。しかも、周囲にものすごく頼りにされて、かわいがられている。そういう状況なら、まだ異動届なんか出す必要はない。だけど、今回の相談のように、10年も同じ部署にいて、しかも今の仕事をより良くするために現場に行きたいという思いも強いのなら、それをどうやって実現するか、知恵を巡らせるのも1つの方法だと思うわけだ。
本気で現場に行きたいのなら、本気の提案書を会社に出してみる。ただし、上司には事前に言っておく。「私はこういうものを人事部に人事政策として出したい。その理由、背景はこうこうこうです。これは会社経営にとって非常に重要なことだと思う」とね。上司には言っておかないと、俺が知らんうちに、なんで勝手にそんなものを出したか、という話に必ずなるから。やっぱり、どうしてもサラリーマン社会というのは、手順を踏まないと物事はスムーズに進まない。
大竹:同じ部署に10年、30代前半ということは、きっと、仕事にもマンネリ感が漂ってきているのかもしれませんね。その一方で、自分が担当している仕事に足りないのは、現場を知ることだという、前向きでプロフェッショナルな意識も芽生えているようです。
上田:現場を知るべきという意見は、僕はその通りだと思う。それは、すべての仕事にとって、当てはまる。机だけに向かっていたって、いい仕事はできない。だから、現場に行きたい、というもやもやした思いを、熱い前向きな情熱に育てるんです。その思いを、まずは提案書にぶつけてみなさい。きっと、何かが変わるはずだよ。
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