ユニー・ファミマHD相談役、上田準二さんの「お悩み相談」。今回は上司の「梯子外し」に悩む46歳女性から。仕事が山積みなのに言うことがころころ変わり、振り回されています。そんな彼女に上田さんは「世間で言う理想の上司なんて幻想だ」と諭します。
悩み:指示内容に首尾一貫性がない「梯子外し」上司に振り回されています。仕事は山積みなのに残業はするなとも言われ、こんな職場環境に嫌気がさしています。どうしたらいいでしょうか。
40代後半の女性です。今まで設計の仕事をしていましたが、1年前に販売企画部に配属になりました。作り上げた製品をどうやって売っていくのか、今後どのような製品を作っていくのかを企画する部署です。
設計にいたころは、ものを作り上げる仕事としてそれなりに充実感があり、また作らないことには進まないので、周りの人たちもゴールを見据えてきちんと仕事をする人たちでした。しかし、この部署に来てからは、周りの人たちはなんとか自分の仕事を減らし、ほかの人に押し付けられないかと考えてばかりいる人たちで、おまけに上司は「これで行こう」と言っていたのに、その上の上司に文句を言われたとたん部下のせいにして、「なにをやっているんだ」と叱り飛ばす、いわゆる梯子外し上司です。
また、その上の上司も気分屋でビジネス書を読んでは、「これをやる! いや、次はこれだ」と次々と首尾一貫性なくころころと方針を変えます。おまけに人は叱って育てる方針とかで、人を怒鳴りつけてばかりいます。他の部署からも、それは販売企画の仕事だと仕事を押し付けられ仕事がいっぱいいっぱいなのに、残業はするなといわれています。残業せずにそのままにすると仕事が終わっていない、不完全だと怒鳴られます。
じゃあ、どうすればいいと聞くと「それは自分で考えろ」です。今の仕事の内容は嫌ではないのですが、このような職場に嫌気がさしています。どうすればいいでしょうか?
(46歳 女性 会社員)
1946年秋田県生まれ。山形大学を卒業後、70年に伊藤忠商事に入社。畜産部長や関連会社プリマハム取締役を経て、99年に食料部門長補佐兼CVS事業部長に。2000年5月にファミリーマートに移り、2002年に代表取締役社長に就任。2013年に代表取締役会長となり、ユニーグループとの経営統合を主導。2016年9月、新しく設立したユニー・ファミリーマートホールディングスの代表取締役社長に就任。2017年3月から同社取締役相談役。同年5月に取締役を退任。趣味は麻雀、料理、釣り、ゴルフ、読書など。料理の腕前はプロ顔負け。(写真:的野弘路)
上田 準二(ユニー・ファミリーマートホールディングス相談役):うーん。朝令暮改な上司は大なり小なりどの会社にもいるよね。
大竹 剛(日経ビジネス 編集):いますね。
上田:自分の考えや方針に固執せずに、これはいかんなと思ったらすぐ変えるというお調子者はいるものだよ。それを気にせずに、あなたが元通りの仕事をやり続けるというのは無理な話だよね。
でもね、こういう上司の朝令暮改な状況、あなたは梯子外し上司と言っているけど、そういう性格は治らないからね、上司の朝令暮改を楽しむしかない。
大竹:いや、なかなか楽しめる状況ではないので、悩みを相談してきているのだと思いますが……。
上田:確かにそうだが、もう僕の上司にもまさに昔こういう人がいてね。上司が朝令暮改をするたびに、後で部員と居酒屋へ繰り出して、「あの課長、またこんなことを言って、前のやつどうするんだよ」「いや、前のことはもう頭ににないんじゃないか」と、大いに酒の肴にして楽しんでいたよ(笑)。「今度の指示も、3週間も持たないんじゃないか」とか言ってね。
上司の「梯子外し」に腐ってしまっては「おしまい」だ
大竹:そういう状況が続くと、どんどん仕事が積み上がってしまいますよね、古い仕事の上に、また新しい仕事がどんどんと。それでたぶん彼女も、いっぱいいっぱいになってしまっているのではないのでしょうか。
上田:だけどこの相談は面白いね。他の部署から仕事を押し付けられているといいながら、その前段の方では、逆にほかの人に仕事を押し付けようとする人ばっかりだと。いい勝負じゃないか。押し付け合い会社かと(笑)。
だいたい、朝令暮改の上司がいるような会社だと、組織でもどんどん新しい部署ができたりするんだよ。横文字の組織とかね。そうすると、この仕事はどこの部署でやるのかといった話になり、仕事の押し付け合いや取り合いが起きるものだよ。
きっと、あなたの会社もそういう状況になっているんでしょう。ただそれは、あなたが悩んでも仕方がないことです。受けた仕事はこなすしかありません。ただし、自分の部署のミッションとは違うものに関しては、やっぱり上司から毅然と断ってもらわないといかん。
大竹:ただ、上司がお調子者で梯子を外す。そしてその上の上司も気分屋だそうです。
上田:だけど、今の仕事の内容は嫌ではないんだよね。だったら、もう少しこの組織の中で生き抜くことを考えてもいいのではないかな。
僕も以前、課長がいるのに部長はその課長をすっ飛ばして「上田、お前何をやっているんだ」と怒鳴りつけてきたことがあったと話したでしょう。
大竹:ありましたね(笑)。
上田:大きな会社だって、こういうことはよくあるんだよ。課長が頼りない課長だと思ったら、部長は下まで降りて来ちゃうんだよね。だけど、今度はその部長がその上の本部長に「お前何を指示したんだと」と怒られて、今度はまたその部長が僕に「俺はそんな意味であれをやれと言ったわけじゃない」とか怒鳴りつける。
だけど、それで腐ってしまったら、おしまいですよ。会社組織というのは、どこに行ってもそんなものだと割り切ってください。
そういった中で、自分のミッションをいかに果たしていくか。別に会社のためと考えるのではなく、目の前の仕事にやりがいを感じるんだったら、それに集中することを考えましょう。
いちいち上司に対して、これはダメ、あれはダメとか思っていると、自分のモチベーションが上がりませんよ。
「私はそういうタイプじゃありません」と思うかもしれないね。でも、行った先の組織だって、多かれ少なかれ、そんなものだよ。だから、それを理由に転職を考えるというのは、慎重になったほうがいいね。
大竹:行った先も会社組織ですから、似たような状況があるかもしれない。
上田:それに、「それは自分で考えろと上司に言われる」と不満を抱いているようだけど、上司は方針を示すのであって、その手段までは示さないものだよ。逆に、そこまで細かく指示されたら、あなたは何も考える必要はなくなっちゃうよ。
「それは自分で考えろ」という、その言い方自体に彼女の気持ちを害するものがあったのかもしれないけれども、やっぱり戦略を上司が決めたら、戦術を考えるのは現場の担当者の仕事なんだよな。
目の前の仕事に集中しよう
大竹:仕事がいっぱいいっぱいなのに残業はするなと言われている。
上田:これはどこの会社でも言うよね。
大竹:「働き方改革」が叫ばれていますからね。
上田:これは日本全国、働き方改革を掲げている会社はすべて、残業するなと言いますよ。もちろん、会社の事情によっては、納期に間に合わせなければならないのに働き方改革なんて言っていられないというのもあるでしょう。
上司だってわかっているはずだよ。「残業するな」というのは、必ず定時に帰れということではないのではないかな。「過重労働になるような残業はしてはいけない」という意味でしょう。
上司自身、会社の方針で部下に残業をさせるなということだから、言っているんでしょう。僕も言っていたよ、残業なんかさせるなと。
だけど、必要な残業はしなければならないし、本当に仕事が多すぎるということなら、上司にしっかりその状況を説明して、仕事の分担ややり方を見直してもらうしかない。
大竹:仕事内容が嫌じゃないと言っているのは……。
上田:それは救いだよね。
大竹:向き合っている仕事に対するモチベーションをちょっとでも高められれば、こんな周りのくだらない朝令暮改の上司のこととか気にならなくなるかもしれません。
上田:そうだね。だから、まず今やっている仕事に、集中してみてください。とにかく、上司にはいろいろな人がいるから、そればかりを気にしていては仕事がつまらなくなってしまうよ。
テレビや雑誌のアンケートなどで、「理想とする上司は誰?」みたいなのがよくあるでしょう。でも、実社会に出たら、理想とする上司なんかそんな簡単にいないと思った方がいいですよ(笑)。だから上司のことで毎日悩むような仕事の仕方は、人生を無駄にしてしまうよ。だから、自分の今やっている仕事に集中することが大切だね。
読者の皆様から、上田さんに聞いてほしいお悩みを募集しています。仕事、家庭、恋愛、趣味など、相談の内容は問いません。ご自由にお寄せください。
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*この連載は毎週水曜日掲載です。
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<第1章 人間関係に効く>
Q 上司の顔色ばかり見る組織に辟易/Q 上司が危機感を持っていない/Q 理不尽な部長の罵倒に耐えられない、など9個
<第2章 自分に効く>
Q 成長できる「前の職場」に戻りたい/Q もうここで「昇格」は終わり?/Q いいかげん、ぎりぎり癖を直したい、など15個
<第3章 恋愛・生き方に効く>
Q 安定した仕事を持つ男性の方がいい?/Q 出産のタイムリミットが近づいて/Q 年収も家柄も良いのに婚活失敗、など11個
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