歳を取るとこれまでの仕事を手放したくなくなる
上田:そもそも、わざと教えないで、「お前なんか失格だ」なんて言うんだよね。じゃあ、教えてくれるかというと、教えないんだよな。だから、「よし、全部知識を盗んでやろう」と思って、自分でやってきたよ。「もう、この人の世話にはならない」と決意するんですよ。

大竹:この方はもう70歳ということですが、教えないというのはどうしてなのでしょうか。
上田:人間、70歳ぐらいになると、だいたい自分の今までのキャリア、それからやっぱり力というものを、そう簡単に下に回したくなくなってくるのよ。
大竹:上田さんもそうだった?
上田:そうならないように、僕は最初から65歳で会社人生に区切りをつけようと思っていたんだ。だけど、経営統合の話などがあったから、辞めるに辞められなくなって70歳まで居座ってしまった。だけど、もともと70歳を超えて経営トップを続けることはしないと決めていたよ。
大竹:この方は、この会社で20年以上働いているようですね。
上田:そうだね。もしかしたら、このままいけば100歳くらいまではこの会社で働き続けるかもしれないね(笑)。あなたは、この状況にそこまで我慢できるのですか、ということですよ。そうなると、あなたは70歳くらいになるまで引き継ぎを待たなくてはいけないでしょう。だから、一日も早く彼女のやっている仕事をあなた自身が習得して、完全に引き継げるよう、体制を整えるんです。
大竹:この会社は相談者の父親が経営しているようですし、むしろ、このパートの方にいろいろと指示する立場として働いてもおかしくないんでしょうね。
上田:でも、結局信頼されていないということで、このパートの方の下請けのような仕事をさせられているんでしょう。
大竹:そうした状況から脱するには、すべての仕事を完全にマスターして、下請けどころか仕事を奪ってしまうくらいの状況を作り出せ、ということですか。
上田:そうです。仕事を引き継ぐタイミングについて、このパートの方が退職するのを待つ必要はないですよ。
大竹:このパートの方は、仕事を奪われるのを恐れて、あえて仕事をブラックボックス化しているのかもしれません。
上田:だから余計、あなたが仕事を完全にこなせるようにならないといけません。社長の父親も、このパートの方の仕事を早く全部引き継いでほしくて、あなたに会社に入ってもらったのではないかな。きっと、このパートの方は父親をずっと支えてきた方なのでしょう。だから、父親も信頼しているし、パートの方も会社を支えてきたという自負がある。だから、パートの方は仕事がなくなって会社に居づらくなるのを恐れているんだと思う。
だけど、会社の将来のことを考えたら、あなたも言うように昭和スタイルの仕事の仕方をずっと続けていては、経営はよくならないよね。だから、あなたが頑張って一日も早く、パートの方の仕事を引き継げるようにした方がいい。そのうえで、今度は自分の責任で、IT化を図るだとか社外のサービスを使うだとかして、仕事の効率を高めていってください。
大竹:パートの方の仕事が完全になくなってしまうと、会社に残ることは難しいですよね。でも、きっとこの方は、まだ会社で働きたい、社長の役に立ちたいと思っているのではないでしょうか。
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