ユニー・ファミマHD相談役、上田準二さんの「お悩み相談」。今回は父親の会社に中途入社した40歳女性から。“昭和スタイル”で仕事をする70歳でパートの女性から小娘扱いされると悩んでいます。上田さんは「すべての仕事を完璧にこなす気概を持て」と助言します。
悩み:父が経営する小さな会社に3年前に中途入社しましたが、20年以上、経理を担当してきた70歳のパートの女性に小娘扱いされ、仕事のやり方も昭和スタイルで危機感を覚えます。この女性が退職するまで状況を変えられないのでしょうか。
父が経営する小さな会社に3年前に中途入社しました。以前は医療関係に勤めており、総務の仕事は初めてでした。他の事務員は20年以上働いてくれている70歳のパート経理のおばちゃん1人ですが、その人から全く信頼されず小娘扱いされています。
その人から仕事を教えてもらったのですが、昭和スタイルの仕事の仕方で、このままでは会社がダメになると危機感を感じています。その人がいることで仕事のやり方を変えることもできず、モヤモヤした気持ちを抱えています。退職するまで待つしかないのでしょうか。
(40歳 女性 会社員)
大竹 剛(日経ビジネス 編集):親族経営の中小企業に入社したという方からです。前々回のお悩み相談(親族経営に「大企業病」を持ち込むな)も、親族経営に関するものでした。今回は総務にお勤めということですが、同じ部署で働くのは20年以上働いてくれている70歳のパート経理のおばちゃん1人で、その人からまったく信頼されていないようです。
上田 準二(ユニー・ファミリーマートホールディングス相談役):まず、この70歳のパートの経理のおばちゃんがやっている仕事を、一日も早くあなたがすべてやれるように努力しないといけないよ。信用される、されないじゃなくて、まずあなた自身がこのおばちゃんがやっている仕事を全部引き継ぐという気概でやらないと。
この方だって年齢的にこの先、そんなに長く働き続けるわけではないでしょう。あなたがすべての仕事をできるということになれば、父親もこのパートのおばちゃんに、「これまでいろいろお世話になってありがとう」とお礼を言って、いつでもあなたと交代できるように準備を始めると思うよ。そうなるよう、一日も早く仕事をすべて完璧にこなせるようになってください。
ただ、信用されてない、と感じるということは、この方はあなたに仕事を教えたくないのかもしれないね。だから、経理の実務は自分で学ばなきゃ。そうすると、このモヤモヤした気持ちも薄らぐから。自分がそういう意志を持っていれば、彼女からどんなに嫌味を言われようが気にならない。「私が全部やったるぞ」と。そういう状況を、僕は何回も経験しているよ。
大竹:何回も(笑)?
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■お知らせ
上田準二さん“リアル相談室”を開催します
上田さんを招いた“リアル相談室”を開催します。仕事から家庭、恋愛、趣味……。多彩な引き出しを持つ上田さんのお悩み相談コーナーをライブで再現。上田さんに悩みを打ち明け、「元気、勇気、夢」をもらいましょう!
<日時>
10月23日(火) 18:30〜20:00
<場所>
紀伊國屋書店大手町ビル店内 紀伊茶屋特設コーナー
(〒100-0004 東京都千代田区大手町1-6-1 大手町ビル 1F)
<参加方法>
紀伊國屋大手町ビル店カウンターで、参加整理券(1712円=税込、書籍+お茶代含む)をご購入ください
<ご予約・お問い合わせ>
電話03-3201-5084(紀伊國屋書店大手町ビル店 10:00~20:00)
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歳を取るとこれまでの仕事を手放したくなくなる
上田:そもそも、わざと教えないで、「お前なんか失格だ」なんて言うんだよね。じゃあ、教えてくれるかというと、教えないんだよな。だから、「よし、全部知識を盗んでやろう」と思って、自分でやってきたよ。「もう、この人の世話にはならない」と決意するんですよ。
1946年秋田県生まれ。山形大学を卒業後、70年に伊藤忠商事に入社。畜産部長や関連会社プリマハム取締役を経て、99年に食料部門長補佐兼CVS事業部長に。2000年5月にファミリーマートに移り、2002年に代表取締役社長に就任。2013年に代表取締役会長となり、ユニーグループとの経営統合を主導。2016年9月、新しく設立したユニー・ファミリーマートホールディングスの代表取締役社長に就任。2017年3月から同社取締役相談役。同年5月に取締役を退任。趣味は麻雀、料理、釣り、ゴルフ、読書など。料理の腕前はプロ顔負け。(写真:的野弘路)
大竹:この方はもう70歳ということですが、教えないというのはどうしてなのでしょうか。
上田:人間、70歳ぐらいになると、だいたい自分の今までのキャリア、それからやっぱり力というものを、そう簡単に下に回したくなくなってくるのよ。
大竹:上田さんもそうだった?
上田:そうならないように、僕は最初から65歳で会社人生に区切りをつけようと思っていたんだ。だけど、経営統合の話などがあったから、辞めるに辞められなくなって70歳まで居座ってしまった。だけど、もともと70歳を超えて経営トップを続けることはしないと決めていたよ。
大竹:この方は、この会社で20年以上働いているようですね。
上田:そうだね。もしかしたら、このままいけば100歳くらいまではこの会社で働き続けるかもしれないね(笑)。あなたは、この状況にそこまで我慢できるのですか、ということですよ。そうなると、あなたは70歳くらいになるまで引き継ぎを待たなくてはいけないでしょう。だから、一日も早く彼女のやっている仕事をあなた自身が習得して、完全に引き継げるよう、体制を整えるんです。
大竹:この会社は相談者の父親が経営しているようですし、むしろ、このパートの方にいろいろと指示する立場として働いてもおかしくないんでしょうね。
上田:でも、結局信頼されていないということで、このパートの方の下請けのような仕事をさせられているんでしょう。
大竹:そうした状況から脱するには、すべての仕事を完全にマスターして、下請けどころか仕事を奪ってしまうくらいの状況を作り出せ、ということですか。
上田:そうです。仕事を引き継ぐタイミングについて、このパートの方が退職するのを待つ必要はないですよ。
大竹:このパートの方は、仕事を奪われるのを恐れて、あえて仕事をブラックボックス化しているのかもしれません。
上田:だから余計、あなたが仕事を完全にこなせるようにならないといけません。社長の父親も、このパートの方の仕事を早く全部引き継いでほしくて、あなたに会社に入ってもらったのではないかな。きっと、このパートの方は父親をずっと支えてきた方なのでしょう。だから、父親も信頼しているし、パートの方も会社を支えてきたという自負がある。だから、パートの方は仕事がなくなって会社に居づらくなるのを恐れているんだと思う。
だけど、会社の将来のことを考えたら、あなたも言うように昭和スタイルの仕事の仕方をずっと続けていては、経営はよくならないよね。だから、あなたが頑張って一日も早く、パートの方の仕事を引き継げるようにした方がいい。そのうえで、今度は自分の責任で、IT化を図るだとか社外のサービスを使うだとかして、仕事の効率を高めていってください。
大竹:パートの方の仕事が完全になくなってしまうと、会社に残ることは難しいですよね。でも、きっとこの方は、まだ会社で働きたい、社長の役に立ちたいと思っているのではないでしょうか。
上田:だけど、もう70歳ですよ。バリバリ働き続けるのも厳しくなっていくでしょう。だから、例えばパートとして、アシスタントのような仕事で残ってもらってもいいでしょう。むしろ、仕事そのものをバリバリやりたいというのではなくて、この会社に居続けたいという気持ちが強いのなら、そういう選択肢もあるでしょう。
「昭和スタイル」の会話術に挑戦を
大竹:そうなったら、この方を小娘扱いしたり、意地悪なことを言ったりということはなくなるのでしょうか。
上田:どうだろうね。なくなるかもしれないし、なくならないかもしれない。
だけど、仕事をあなたが引き継がなければならないのは確かだから、そのうえで、このパートの方といい関係を今後も築いていくためには、あなたもコミュニケーションをもっとうまくやることを考えたほうがいいでしょう。
大竹:どんなやり方がありますか。むしろこの方も、仕事のやり方はともかく、コミュニケーションのやり方で“昭和スタイル“を積極的に取り入れていくとか。
上田:それもいいと思う。意外とこういう長く勤めている方は、実は世話好きも多いと思う。だって、社長をずっと世話してきたわけだから。「ちょっとお茶にしましょう」とか言って、ようかんでもミカンでも、さりげなく一緒に食べてみるとか。
仕事を教えてもらうことは期待せず、自分で努力して覚えていくんだけど、それ以外のところで彼女との会話を楽しむことを少しずつやってみてはどうかな。
パートの方にとっては、本当はあなたは娘みたいな存在のはずだよ。だからこそ、嫌みの一つも言いたくなる、というところもあるのかもしれない。
だから、ちょっとした会話にも気配りをしてあげてみてください。入社してすでに3年がたっているということだから、これまでの状況を急には変えられないかもしれない。だけど、彼女は20年以上もこの会社に貢献してくれたわけだから、敬意を表さないと。何だかんだ、職場を離れた上での付き合いをうまくできるようにしていくことが、きっと、いざ仕事を完全に引き継ぐ際に役に立つよ。
10月23日に開催する“リアル相談室”で上田さんに聞いてみたい悩みを日経ビジネスRaiseで事前に募集します。イベントに参加予定の方もそうでない方も、悩みをご投稿いただければ、編集部の大竹が責任をもって上田さんにお伝えします。
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*この連載は毎週水曜日掲載です。
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◇概要◇
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<第1章 人間関係に効く>
Q 上司の顔色ばかり見る組織に辟易/Q 上司が危機感を持っていない/Q 理不尽な部長の罵倒に耐えられない、など9個
<第2章 自分に効く>
Q 成長できる「前の職場」に戻りたい/Q もうここで「昇格」は終わり?/Q いいかげん、ぎりぎり癖を直したい、など15個
<第3章 恋愛・生き方に効く>
Q 安定した仕事を持つ男性の方がいい?/Q 出産のタイムリミットが近づいて/Q 年収も家柄も良いのに婚活失敗、など11個
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