本連載で反響の大きかった35の相談が1冊の本になりました!
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大竹:俺が前線に出ているじゃないかと。

上田:その通りだね。でも、その一方で、この方は自分が正しいと思っていることを社長に1対1で話せる立場にあるわけだよね。これは普通のサラリーマンじゃあり得ない。社長にしてみれば、跡取りとしてこの方に期待をかけていて、経営の実態を見て意見を言ってほしいんだと思うよ。

あなたは明らかに未熟です

大竹:大手企業に2年半勤めて大企業の組織になじんでいたのに、いざ親族経営の会社に来てみたら、社長が現場の人間に直接指示を出している様子を見て、大企業ではありえないと感じたのでしょう。

上田:きっとそうでしょうね。だけど僕だってファミリーマートの社長時代に、社長塾というのをやって、執行役員や部長など管理職をすっ飛ばして全国の各地区のスーパーバイザーなどを集めて直接対話する場を持っていたよ。そうした会を150回くらいはやったかな。

 もちろん、すっ飛ばした中間の管理職には、後から僕からちゃんとフィードバックしているよ。現場からこのような意見が上がっているから、ちゃんと考えてやっておけとか。

 おそらく、この方の会社くらいの規模だったら、社長は私のようなことをやらなくても、うまく組織を回してきたんでしょう。社長が直接、現場の社員に話しかけても、そのあとに部長を呼び出して、お前のところの部下にこう言っておいたからね、とか言ってフィードバックしてきたはずだよ。だから、社長と現場の距離が近いことは問題視するような話ではないな。

 それともう1つ、今後も意見を言い続けていいのか悩んでいるみたいだけど、それは今まで通り思っていることを言ったらいいよ。ただし、自分で言っているように、あなたは間違いなく未熟だからね(笑)。

 だけど、未熟だから何も言ってはいけないということではなくて、逆にどんどん言ったらいいんですよ。それに対して、社長がどう言うかを聞いて、学んで、社長の考えを全部習得していくんです。それは、自分がいずれ跡取りとして会社を引き継いだ時に、大きな支えになります。そのうえで、自分がトップになった時に、自分ならどうするかを考えて、自分の方針を打ち出していけばいいんです。今はそのためのトレーニングの期間です。

大竹:まず自分は未熟だという前提に立って、もっと学びましょうと。

上田:そう。今は訓練期間です。ただし、未熟でも社長には何でも思ったことを話す。

 社長にとっては間違ったことを言っているように聞こえるかもしれないので、中にはきっと正しいこともあったと思う。これまで社長の周りには、社長に対して耳の痛いことを言ってくれる人はいないので、は今まで通り、若い社員としっかりコミュニケーションをとって信頼関係を構築しながら、社長に対しては進言し続けてほしいね。

大竹:ちなみに、社長が現場に出て中間管理職を飛び越えて現場社員にいろいろ物を言うのは、小さい規模の会社では当たり前ですよね。

上田:はい。当たり前ですよ。僕は伊藤忠時代に、いろいろな会社と取引をしたけど、数百人規模くらいまでの会社なら、社長が現場に降りていろいろな形で話をしているというのが普通でしたね。

大竹:逆に、会社の規模がそれほど大きくないのに、社長が社長室に引っ込んでいたり、現場に対して思いや考えを直接、発信しなかったりするのはよくないということですか。

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