ユニー・ファミリーマートHD相談役、上田準二さんの「お悩み相談」。今回は、定年退職後の妻との関係に悩む65歳男性からの相談。定年退職後、それまでしっかり向き合ってこなかった妻と、残りの人生をどのように送っていったら分からないと困っています。上田さんは、3つのソリューションを提案します。熟年離婚、家庭内別居、そして最後は……。
悩み:
「配偶者との関係に悩んでいます。定年退職し家にいる時間が長くなりましたが、今さら、親密にはなれそうにありません」
配偶者との関係に悩んでいます。定年退職し家にいる時間が長くなりましたが、持て余す時間で妻とどう付き合ったらいいのか、分かりません。家に居たくないのでアルバイトを始めましたが、それでもまだ妻と向き合わなければなりません。何をやっても、今さら、親密にはなれないような気がします。残りの人生、妻とどう過ごしていったら良いのでしょうか。
(65歳 男性 無職)
1946年秋田県生まれ。山形大学を卒業後、70年に伊藤忠商事に入社。畜産部長や関連会社プリマハム取締役を経て、99年に食料部門長補佐兼CVS事業部長に。2000年5月にファミリーマートに移り、2002年に代表取締役社長に就任。2013年に代表取締役会長となり、ユニーグループとの経営統合を主導。2016年9月、新しく設立したユニー・ファミリーマートホールディングスの代表取締役社長に就任。2017年3月から同社取締役相談役。同年5月に取締役を退任。趣味は麻雀、料理、釣り、ゴルフ、読書など。料理の腕前はプロ顔負け。(写真:的野弘路)
大竹剛(日経ビジネス 編集):以前も、定年した後の悩みがありました。その時は、「同窓会に出席するのが怖い」という方からでしたが、今回は定年後の妻との関係についてのお悩みです。(関連記事:どう生きる?定年退職男が悩む「終活」の実態 退任後1カ月で女房と2人で3000kmをドライブしたワケ)
定年して家にいる時間が長くなったのですが、妻と顔を合わせたくないから家に居たくない、だから、わざわざアルバイトも始めたとか。「今さら親密にはなれない気がする」なんて、そんなことを言うのは寂しい話ですよね。このままの状態だと、いわゆる「熟年離婚」の危機なんでしょうか。
上田準二(ユニー・ファミリーマートホールディングス相談役):この状態を克服する方法は、3つしかないね。
大竹: 3つしかない?
上田:そうだ。まずは、その1。離婚しなさい。こんなことを続けていても、お互い不幸になるだけだ。人生80年。場合によっては100年生きる時代なんだから、まだ先がある。
ただし、「離婚するのも疲れる」と言うのなら、別の方法がある。それが2つ目の方法。最近、若い人の間ではやっているシェアリングだ。
大竹:シェアリング?
上田:ようするに、シェアハウスだよ。つまり、家庭内別居。
大竹:ああ、そうか。確かに家庭内別居も、シェアハウスみたいなものとも言えます。
上田:離婚して別居するのはパワーもお金もいるから、ひとつ屋根の下で別居するんだ。シェアハウスに集まる若者たちみたいに、それぞれのプライバシーは守りながら、メシの時くらいは一緒にテーブルに着く。自分のライフスタイル、趣味を持って、お互いに干渉しない。そういうルールを決めて、家庭内別居する。
だけど、僕は3番目を推奨したいんですけどね。
大竹:3番目が“本命”ですね。なんですか。
妻を「夫源病」にさせないように必死に努力
上田:新たな夫婦関係を構築する努力をするんだよ。「何だ、当たり前ではないか」「それが無理だと思うから相談しているんだ」と言われそうだが、今からでも遅くはない。定年まで仕事人間で家庭を振り返らなかったとしても、定年後に夫婦関係を築き直すことはできると思うんだよ。
まず、奥さんの立場になって考えてみると、最近、この年代で一番伝染しているのは「夫源病」だと言われるだろう。夫が原因で病気になるという話だ。まったく、男から見たらひどい言われようなんだが、腹を立てずにまず、奥さんが夫源病にならないようにするためにはどうするかを考えてみることですね。
大竹:どうしたらいいんでしょう。
上田:単純な話なんだが、曲がりなりにもこれだけ長く夫婦をやってきているんだから、探せば何か1つくらいは、必ず価値観、趣味、行動パターンを共有できるものが見つけられるはず。以前の相談で、婚活がうまくいかないという若い男性に「同じ価値観の女性なんていない。価値観の違いを楽しめ」とアドバイスをしたけど、それは結婚する前の話で、長い夫婦生活を経て定年後にどう生きるかを考える時には、共通の価値観や趣味を見出して、それを楽しむ方がうまくいくと思うんだな。これまで、嫌というほど価値観の違いに直面してきたはずだから。(関連記事:年収も家柄も良いが婚活がうまくいかない(涙) 価値観が同じ相手はいない。自分の世界から「解脱」しろ)
そこで重要になるのが、まずご主人から奥さんと一緒に楽しめることを探し、それを実行する計画を自ら立てること。例えば、自然だとか文化だとか、そういうものに奥さんが興味を持っているのであれば、そういったところへ2人で外出する企画を自分から立てて、奥さんを誘う。
大竹:まず自分で企画すると。
上田:自分で企画する。食事だってそうだ。例えば、ものすごく有名な日本料理屋、あるいはフレンチでも中華でも、なんでもいいけど、奥さんが好きな料理を一緒に食べに行く。それも、自分から企画すること。これだけ長く一緒に住んでいるんだから、さすがに妻が好きな料理くらいは分かるでしょう。
大竹:妻と向き合うのも嫌だという人でも、それくらいは分かりますかね。
上田:まあ、分からないかもしれない。でも、多分それは忘れているだけだ。だから、思い出してみる。つまり、まず奥さんの好きなことを思い出してみて、それに自分も一緒にはまってみることだ。
僕の場合は、今、一生懸命、女房にゴルフをやらせている。女房は、手が痛いとか言っているけど。
大竹:やり過ぎて、手が痛くなっちゃったんですか(笑)。
上田:こっちは、夫源病にさせないように必死だから。おろおろしていたら女房は夫源病になっちゃうから、とにかく、ゴルフに誘い出してみた。
大竹:奥様は今まで、ゴルフはやってなかったんですか。
上田:まったく。
大竹:一度も?
上田:やってない。
共通に楽しめるものをまず探してみる
大竹:それは、妻の好きなことに自分もはまってみる、というさっきまで話していた内容と逆のような気が……。ようするに、上田さんの趣味の押し付けですよね。奥様はよく嫌だと言わなかったですね。
上田:嫌だと言ったよ。「私はもう、週にテニスを3回もやっているから、テニスとゴルフ、両方はできない」と。だから、「じゃあ、テニスをやめろ」と言った(笑)。
大竹:上田さん、「奥さんの好きなことに自分もはまってみろ」と相談者にアドバイスをしていましたよね。上田さんがテニスにはまってみるという選択肢はなかったんですか。
上田:もちろんあったよ。これまで何度も女房に誘われた。だけど、テニスはもはや、女房と楽しく絶対にできないと思うんだ。だから、「俺を殺す気か」と言って女房を説得した。
だってそうでしょう。テニスは、2人で1つのボールを打ち合うものだよな。妻は週に3回もやっているのに、僕はこれまでの人生、全くやったことがない。このレベルの差は、どうやっても埋まらない。死ぬまで練習を続けたって、ボールを打ち合ってテニスを2人で楽しむという状況に達するまでにはならなそうだ。一方的に女房がボールを打ったって、それは女房も面白くないでしょう。
だけど、ゴルフはちゃんと打てなくったって、適当にぷらぷら歩いていりゃいい。しかも、定年後は時間が有り余っているから、空いている平日にだってコースに出られる。
テニスで女房に殺されるか、それとも、女房がゴルフをやるか、そういう選択だったんだよ。ゴルフなんかで死にはせんと。俺がテニスをやったら俺は死ぬよと。本気でやったら、心臓なんかびっくりして、本当に死んでしまうかもしれない。じゃあ、ゴルフにしようかねと。ちゃんと、話し合って決めたんだよ。だから、これは自分の趣味の押しつけとは言わない(笑)。
大竹:分かりました。そういうことにしておきましょう。だけど、大切なことは、とにかく、何か一緒に楽しめることを探して、奥さんとやることだと。
上田:うん。共通に行動する。共通に考える。共通に楽しめるものをまず探してみましょう。だから、3つの方法のうち、僕は3番目を勧める。それを何ぼやってもダメ、とにかく顔を合わせるだけで気持ち悪くなるだとか、気分が悪くなるなんてなったら、それはかなり重症だから、そうなる前にね。
「あんた、昔はカラオケの帝王って言われていたじゃないの」
大竹:ちなみに、奥さんはテニス以外にも趣味の幅広いんですか。
上田:同年代のシニアと昼からカラオケに行っているらしい。
大竹:最近、カラオケは若者じゃなくてシニアの遊びみたいですからね。
上田:そう。それで僕にも、「一緒に行こう、行こう」って誘ってくるんだ。「あんた、昔はカラオケの帝王って言われていたじゃないの。友達もご主人の歌を聴きたい、聴きたいと言っているから聴かせてよ」とね。「私もね、あの人はカラオケの帝王と言われたのよ、ってみんなに言いふらしちゃっているんだから、歌いに来て」とせがまれた。何言ってんだって感じだよな。僕はのどの手術を3回もしているのに、今さら歌えるかと。それくらい、女房なんだから覚えていてほしいよ。
大竹:いろいろ、一緒に楽しめることを夫婦で探した結果がゴルフだった、ということで理解しました。いずれにしても、奥さんの方が多彩な趣味を持っている場合が多そうですね。
上田:多いよね。この年代の女性は、あちこちに趣味を持っている。女性というのは、小中高生のころから、根は変わってないんだろうな。例えばアイドルの追っかけなんていうのもそうだよ。65歳になっても追っかけをやっているような人もいる。人間という動物の男女のさがというのは、そういうものなのかもしれない。
大竹:韓流ブームなどは、そんなシニア女性のファンに支えられていたようなところもありますよね。もちろん、若い女性の追っかけもたくさんいますが。
上田:そうだな。韓流もそう。とにかく、ちょっとかわいらしかったりカッコよかったりする男の子が出てきたら、キャーっと言うから。中学生の将棋の名人が話題になったら、それまで将棋なんて興味なくてもキャーっと追い掛ける。
大竹:奥さんは追っ掛けされているんですか。
上田:最近は孫に将棋をやろうなんてやっているんだもん(笑)。
インターネットで将棋ができるでしょう。小学生の孫たちと、インターネットで対戦将棋をやっている。
だから、奥さんはいっぱい趣味を持っているはずなので、奥さんの趣味の中にはやっぱり自分も入っていくのがいいんじゃないかな。まあ、追っかけはともかくね。
大竹:上田さんみたいに自分の趣味に引きずり込めないのであれば、自分から入っていくしかない。
上田:そうしたら、一緒に食事しているときでも、家に居るときでも、そこで会話が出てくるじゃないの。あれはどうだとか、これはどうだとか。まずその糸口がなきゃ、最初に上げた方法1(離婚)か、方法2(シェアハウス=家庭内別居)になっちゃうね。
定年後、図書館にスーツを着ていく愚
大竹:「今さら親密になれない」って、自分で決めつけてはいけないですよね。
上田:そう、決めつけてはいけないね。
大竹:アルバイトに逃げるというのも、あまり良くないと思うのですが。
上田:うん。余計、一緒に居づらくなる。
ところが、実際にはこういう行動に出る人が多いんだよ。僕の同期にも、すごく多いね。例えば、背広を来て家から出て図書館へ行くとか。アホじゃないかと。
大竹:何でですか。
上田:家にいられないからといって、一人でとぼとぼと出ていくと、隣近所が見ているからと。だから、背広を着ていけば、いかにも用事があっての外出のように見えるからね。
大竹:寂しいですね。
上田:別に図書館に堂々と行けばいいじゃないか。だけど、それが多くの場合、現実なんだろうな。
会社の社会にどっぷり使ったサラリーマンが定年して町の社会に戻ってきても、いきなりは居場所はないからね。社会人だったつもりでも、それは会社社会の人だったんであって、町の社会の人じゃないからね。
だけれども、専業主婦だった奥さんは違うから。奥さんは、町の社会人として、旦那より大先輩だ。
だから、嫁さんと一緒に、まずは嫁さんがやっていることの仲間に入れてもらうのが、町の社会人1年生としてはちょうどいいんだよ。カラオケでも将棋でもいいんだ。
奥さんはあなたの参加を待っている
大竹:でも、奥さんも、奥さんが築いたコミュニティーというのがあるから、そこに突然、仕事を辞めた旦那が入ってきても、「ちょっと余計なことしないでよ」とか、邪魔者扱いされないですかね。
上田:いや、奥さん連中は結構、そうでもないんだよ。むしろ、「おたくのご主人も定年になったんでしょう。連れてきてよ」という意見が多いみたいだぞ。「私だって連れてきているのに、あなたも連れてきてよ」とか。
僕の女房は、書道もやっているんだよ。持ち回りで、順番にメンバーの家に書道の先生に来てもらって、書道を習っている。この前、「俺は明日早く帰るぞ」と言ったら、「明日は書道教室の日だから、あんたもやりなさいよ」と言われたんだ。仲間の奥さん連中から、「ご主人も書道をやっていたんでしょう。やらせなさいよ」と言われているらしい。僕が昔、何か書を書いたのを偶然見たみたいなんだな。
大竹:奥さんのコミュニティーは、意外と旦那さんたちの参加を待っているかもしれないと。
上田:そう。
僕を連れてこいと女房が言われているのは、書道以外にもある。登山もそうだな。登山から返ってくると、足がつっただの、湿布をしてくれだの、いろいろ言うから「ばかやろう、お前、もうやめろ」なんて言っているんだけど、やめるどころか僕にも登れと言ってくる。
大竹:上田さんも、もっと奥さんの趣味に参加してみてはどうですか。書道とか。
上田:確かに。自分が女房の趣味に付き合わないと、今回の質問の答えとしては説得力が今一つか。
書道ね。これが立派な先生なんだ。さすがに先生が書いた書は全然違う。だから、その会に参加すれば、おそらく、友達の輪はさらに広がっていくはずだとは僕も思っているよ。
だけど、正直、僕はもう、これ以上、友達の輪を広げたくない。これまでの人生で、とことん広げてきたから、定年後はそれを維持するだけで大変なんだよ。だから女房には、「俺は輪を広げたくないんだ、俺は友達を整理したいぐらいだ。お前の関係でまた増えるのは勘弁してくれ」と言ってある(笑)。
大竹:今回の相談者は、お悩みを「残りの人生、妻とどう過ごしていったらいいのでしょうか」と結んでいます。妻と一緒に過ごしたいという気持ちはある、ということだと思います。「今さら親密にはなれない」と言いつつ、最後の言葉に妻への愛が透けているようにも思います。
上田:おそらく、奥さんも同じ気持ちでおるんじゃないかなと思う。会社に行っている間は、夫との接触時間は朝と夜しかなく、お互いにあんまり気にしていなかったけど、夫が定年して1日、一緒にいるようになったら、どうしていいか分からない。話の継ぎようもないし、一緒にできることもない。「どうしたらいいかしら」と、奥様連中に相談しているかもしれない。
だから、まずは話のきっかけになる、共通の趣味を探しましょう。これからは、会社とか関係のない、町の社会人としての2人の人生のスタートです。だから、まず、新しい世界に一歩、自分から踏み出さないと。
大竹:そうしないと、末路は離婚か家庭内別居だと。
上田:それは寂しいでしょう。
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