ユニー・ファミマHD相談役、上田準二さんの「お悩み相談」。今回は独善的な上司の態度に悩む28歳女性から。丸投げしてきて思い通りにいかなければヒステリーを起こす。上田さんは「そんな上司には何を言っても無駄」と、同僚とのガス抜きを勧めます。
悩み:なんでも丸投げしてくる割には、思い通りいかないとすぐにヒステリーを起こす上司に困っています。そのくせ、「困ったことがあったら相談に乗るよ」という発言にも腹が立ちます。どう向き合ったらよいでしょうか。
こちらの連載をいつも楽しみにしております。上田さんのアドバイスを頂きたく投稿させて頂きました。
会社の上司なのですが、ワンマン気味で、自分の思い描いた通りに部下が行動しなければヒステリックに説教、その割に仕事は丸投げするタイプで困っています。社内行事の実行委員会、新規事業の企画、飲み会の段取り、作成するパワーポイントの内容、来客応対、電話の伝言メモの書き方、メールの内容、挙げたらキリがありませんが、上司が自分の中で決めたシナリオやルールがあり、少しでも逸脱した行動をとると大騒ぎされます。
もちろん、上司が行う指導として正しい部分もありますが、細かすぎて疲れ果ててしまいました。上司は結果と方法を指示するだけで、いざ実行するとその過程で発生した問題や課題については全て部下に丸投げです。「そういう問題を解決するのも含めて君に任せたんだよ」というようなことばかり言い、助言はありません。その割にことあるごとに「困ったことがあったら相談して」と言ってくることにも腹が立ちます。何かをやる前の打ち合わせやミーティングが大好きで、「どう思う?」と聞いておきながら上司の中では既に答えは決まっています。
意見を出さなければやる気が無い扱い、上司と異なる意見を出せば喧嘩腰で嘲笑交じりの論破が待っています。計画の問題点などを指摘しても「大丈夫!」と根拠の無いポジティブ発言。結果、指摘した通りの問題が発生しても本人は知らん顔。結局は自分の計画を部下に肯定させたいのかな、と最近では何も言いたくなくなりました。
更に、部下への業務分配も独善的で、一度仕事が出来ないと判断した人(嫌ってる人)には簡単な仕事すら振らず、仕事が出来ると認めた人にばかり仕事を振るので、一人一人の抱えている業務量の偏りが激しいです。職位や給与も関係ありません。
そういうところにも理不尽さを感じ、仕事に対するモチベーションが下がっていることを自覚しました。上司は自分の思い通りになって満足でしょうが、やらされているこっちはたまったものではありません。繁忙期だとなおさら、恨みつらみを言いたくなります。とりとめのない文章になってしまいましたが、こんな上司と仕事していくには、どのような心構えで臨めば良いのでしょうか。
(28歳 女性 会社員)
1946年秋田県生まれ。山形大学を卒業後、70年に伊藤忠商事に入社。畜産部長や関連会社プリマハム取締役を経て、99年に食料部門長補佐兼CVS事業部長に。2000年5月にファミリーマートに移り、2002年に代表取締役社長に就任。2013年に代表取締役会長となり、ユニーグループとの経営統合を主導。2016年9月、新しく設立したユニー・ファミリーマートホールディングスの代表取締役社長に就任。2017年3月から同社取締役相談役。同年5月に取締役を退任。趣味は麻雀、料理、釣り、ゴルフ、読書など。料理の腕前はプロ顔負け。(写真:的野弘路)
上田準二(ユニー・ファミリーマートホールディングス相談役):この上司は、全く自覚していないんだよ。
大竹剛(日経ビジネス 編集):よくいるタイプですよね。
上田:うん。ごろごろおりますよ。
大竹:きっと読者の皆さんも、リアルに「ああ、あの人はそうだな」と思い浮かぶのではないでしょうか。
上田:こういうたぐいの上司は、部下に対して的確に、適切に指示をし、部下を引き上げて、部下の意見を十分に出させて、部下の相談に乗っていると思っている。きっと、人事評価の際の自己評価にも、そう書いてある。
大竹:むしろ部下思いだと。
上田:うん、ファミリーマートでは「多面観察」という、部下が上司を評価できる、いわゆる360度調査のようなことをやっているんだけど、やっぱり上司の自己評価と部下からの評価はズレている例が多いよね。
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大竹:そもそも、何で上司はこうなりがちなんですか。
上田:やっぱり何というかね。部下の面倒をバリバリ見ている、有能な管理者であるということを、上層部にアピールしたいんだろうな。特に、役員一歩手前のような管理職が陥りやすい。ようするに「自分はできる」ということを、さらにその上の上司に理解してもらいたいわけね。
会社もそれなりに、「一応あいつはできる」と評価しているので、本人も余計にこういうパフォーマンスに出てしまいがちなんだよ。ただ、あなた1人がこの上司にそういうことを指摘しても、この人はもう直らんでしょう。
大竹:どうしたらいいのでしょうか。
「バカは死んでも治らない」
上田:そうだよね。じゃあ、こういう上司の下で、どう自分の仕事に生きがいと楽しさを見出していくのか。
この上司には、大勢の部下がおるわけですね。あなたもそのうちの1人。まず、大切なことは、「おバカさんな上司ね」「よくあるタイプだわ」と軽く受け止めて、この上司の行動がいちいち気に障るとは思わないこと。そんなつまらんことにエネルギーを集中しないこと。どこにでもいるタイプだと受け流しましょう。この性格は、死んでも直らん。
そう思って、気をまず楽にしてください。彼の邪気、毒牙をあなたが真正面から全部受け止める必要はありません。ぱっとかわして、すっと立ち直ってください。
ただし、あなたはこの上司の傘下の組織の一員だから、指示されたことについては、きっちりとそれなりの行動をしなきゃいけない。それに対して、どんな結果を出してもこの上司はワーワー言うだろうけど、「また始まった、せいぜいわめいていな」と、そんなに深刻に考えないでください。
あなたが何か言ったところで、この上司の性格を変えられるものではないし、異動させられるものでもない。だけど、あなたは28歳で若いんだから、時期が来くればこの上司の方が先にあなたの前からいなくなりますよ。そういう上司の下でやったこともあるという経験を、いずれ懐かしく思い出す日が来ます。
あなた1人で深刻に受け止めてはだめです。ほかの同僚、部員だって、みんな同じ思いをしているわけだから。
大竹:だけど、ある意味、この上司の下にいる人は全員不幸ですよね。こういう上司というのは、いずれ上からは評価されなくなるものなんですか。
上田:だいたい、昇進は途中で止まっちゃうね。中にはレアケースで、役員になって副社長クラスまで行くこともあるけど、絶対社長にはなれない。まあ、世界の七不思議で、何であいつが副社長をやっているんだという人もいたけどね(笑)。
まあ、そういう例外は時にはあるけど、こういう上司は、まず一定のレベルで昇進は頭打ちになりますね。組織の中では、部下からどう見られているのかという話は、やはり上の方に漏れ伝わってきますよ。社長の耳にもね。
大竹:ある種、ものすごくお調子者ですよね。困ったことがあったら相談してと言っておきながら、最後は梯子を外すような。本人はよかれと思ってやっているんでしょうが、自覚症状がない。
上田:ないんだよ。これは「森の石松」だよ。親分である清水の次郎長にかわいがられている義理人情に厚い男なんだけど、「バカは死んでも治らない」とからかわれるようにどこか抜けている。そんな石松の子分になったんじゃ大変だけど、バカは死んでも治らないんだから、真面目に向き合ったら疲れちゃうよ。
君に任せたと言って、助言はない。それで困ったことがあったら相談してこいとも言う。面白いねぇ、この上司は(笑)。
大竹:矛盾だらけだ。
上田:本当に多いよな、こういうのは。
大竹:組織の中では、意外と偉くなるんですね。アピール上手だから。
上田:そうそう。調子いいからね。まあ、そういう男はそれなりの業績を残すから上にとっては使い勝手がいい面もあり、一定のところまでは行くけれども、そこから先はない。
こんな上司のために、あなたの精神状態がダメージを受けないように、そういう男だということで、かえって心の中で笑って対応しましょう。
大竹:心の中でね。
上田:そうそう。
大竹:ちなみに、仲間とこの上司の悪口を言い合ったりしてストレス発散するのはアリですか?
上田:大いにやってください。ガス抜きしないと。周りみんなも同じに思っていると分かれば、ほっとするでしょう。自分だけじゃないと思ったほうが、精神的に安心じゃない。サラリーマンが居酒屋でよくやっているやつ。僕だって、「あのバカ社長」と居酒屋で何回言われてたことか(笑)。
読者の皆様から、上田さんに聞いてほしいお悩みを募集しています。仕事、家庭、恋愛、趣味など、相談の内容は問いません。ご自由にお寄せください。
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*この連載は毎週水曜日掲載です。
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◇概要◇
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<第1章 人間関係に効く>
Q 上司の顔色ばかり見る組織に辟易/Q 上司が危機感を持っていない/Q 理不尽な部長の罵倒に耐えられない、など9個
<第2章 自分に効く>
Q 成長できる「前の職場」に戻りたい/Q もうここで「昇格」は終わり?/Q いいかげん、ぎりぎり癖を直したい、など15個
<第3章 恋愛・生き方に効く>
Q 安定した仕事を持つ男性の方がいい?/Q 出産のタイムリミットが近づいて/Q 年収も家柄も良いのに婚活失敗、など11個
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