ユニー・ファミリーマートHD相談役、上田準二さんの「お悩み相談」。今回は、妻との関係に悩む46歳男性からの相談。仕事が忙しく家事を手伝えず、妻から怒鳴られてばかり。週末も心が休まらないと嘆いています。そんな相談者に上田さんが伝授する、夫婦円満のコミュニケーション術とは?
悩み:「妻は、なぜいつも不機嫌なのか、その理由が分かりません」
私の妻は、いつも不機嫌です。疲れて帰ってきて、靴下を脱いで、リラックスしてソファでビールを飲んでいると、「何でこんなところに靴下を脱ぎっぱなしにするのか」と般若のような顔をして責められます。金曜日に飲んで帰ると、土曜日の朝は二日酔いだということもありますよね。つい寝坊をしてしまうと、「土曜日くらい子供の世話や家事をやりなさいよ」と怒られます。
ちなみに、妻もフルタイムで働いていますが、どうしても私の方が仕事で帰りが遅くなりがちです。平日に家事を手伝いたいという思いはあっても、あまりできないという現実もあります。
平日は会社で身を粉にして働き、休日は妻に怒鳴られてばかり。そんなに、私は悪い夫でしょうか。
(46歳 男性 会社員)
1946年秋田県生まれ。山形大学を卒業後、70年に伊藤忠商事に入社。畜産部長や関連会社プリマハム取締役を経て、99年に食料部門長補佐兼CVS事業部長に。2000年5月にファミリーマートに移り、2002年に代表取締役社長に就任。2013年に代表取締役会長となり、ユニーグループとの経営統合を主導。2016年9月、新しく設立したユニー・ファミリーマートホールディングスの代表取締役社長に就任。2017年3月から同社取締役相談役。同年5月に取締役を退任。趣味は麻雀、料理、釣り、ゴルフ、読書など。料理の腕前はプロ顔負け。(写真:的野弘路)
大竹剛(日経ビジネス 編集):今回の相談は、多くの男性にとって思い当たるフシがあるのではないでしょうか。上田さんのように強い夫なら、「お前はだまっていろ」なんて奥さんにバシっと言えるかもしれませんが、最近は共働き夫婦が多く、家事も育児も対等に分担という家庭も増えていて、夫の立場は一昔前ほど強くありません。
上田準二(ユニー・ファミリーマートホールディングス相談役):誤解しないでいただきたい。女房にはこれまで、さんざん暴言を吐いてきたが、それは愛があってのことだから。そもそも、僕と女房には、しっかり夫婦のコミュニケーションというものがある。今回の相談も、問題を解決するにはまず、もう少し夫婦のコミュニケーションをしっかりとすべきではないかな。世間話や楽しい会話をするように、努めて時間を取るようにした方がいい。
大竹:この方はまず、夫婦のコミュニケーションに問題があるのではないかと。
上田:奥さんがフルタイムで働いている、そして、あなたは帰りが遅い。そうだとしても、最低でも1週間に1時間や2時間は、夫婦の時間を取れるでしょう。それくらいの僅かな時間でも、しっかりとコミュニケーションをとれば、夫婦の関係はうまくいく。
それに、靴下を脱いでソファに座っていると、奥さんが般若のような顔をして怒鳴りつけてくると。そんなことで、楽しい会話ができない、理解されていないなんて思ってはダメだね。これだって、立派な会話の一つのきっかけになるんだよ。奥さんが怒っている時だって、そこから楽しい会話に展開していくように、努力するんですよ。奥さんと楽しい会話ができるかどうかは、あなた次第と考えることです。
もし、女房が般若のような顔をして怒鳴ってきたら、僕だったらこういうふうに言うね。
「お前のその般若みたいな怒り顔、美しいな。俺はそんな顔にそそられるよ」と。
大竹:そんなことを言ったら、それこそ火に油を注ぐようなものですよ。「バカにするんじゃないわよ」「ふざけないでよ」と。
上田:相手が「ぎゃあっ」と怒っていたら、逆にそれをポジティブに褒めてあげるぐらいの返答を返すことを常に心掛ける。それぐらいの度量を持たなきゃ。
子供との時間を作るより前に、妻との時間を作るべき
大竹:怒鳴られたら、「こっちは疲れているんだ。お前こそ、旦那に対する優しさはないのか」みたいに言い返すのではなくて……。
上田:そういうのではなくてね。こっちがうまく奥さんの怒りを受け止めて、愛のある言葉で応えれば、相手にも気持ちが伝わるんですよ。それで、「私、般若みたいな顔をして怒っていたかしら」と自分で気がついてくれる。そういう時には、さりげなく、「お前のその怒った顔もきれいだよ」と言ってみるんだよ。
大竹:いやいや、普通は「バカにするんじゃないわよ」とさらに怒りますって。
上田:普段、そういうことを言わない夫が、突然、しかも奥さんが怒っている時にそんなことを言ったら、最初は怒るよな。でも、めげずに繰り返すんです。必ず、また同じ状況が訪れるから。その時に、また「前も言ったろう、お前のその顔、いいな」と。そう言われると、2回目はきっと笑ってくれるから。
大竹:3回ぐらい続けると、確実に笑ってくれますか。
上田:うん。「あんた、頭おかしいんじゃないの」とね。そうなれば、もう会話がばんばんと弾むよ。喧嘩している時のコミュニケーションというのは直線的だよね。余裕が無いというか、お互いに言いたいことを一方的に相手に直球でぶつけて、それで終わり。コミュニケーションがブツッと切れてしまう。そんな会話は、マイナス効果はあってもプラス効果は何もない。
大竹:直線的にブツ切れ。なるほど。
上田:例え喧嘩をしている時でも、直線的なコミュニケーションにならないように、努力するんです。いくらお互いに仕事を持っていても、休みの日に1時間や2時間、しっかりと向き合える時間を作るんですよ。
子供がいる家庭の場合は、子供と遊ぶ前に、まずは奥さんとの会話を増やしなさい。奥さんとの会話が増えれば、自ずと子供との時間も作れるようになります。僕は子供が3人いましたけど、子供が生まれてからも、まともな時間にうちへ帰ったことないんですよ。それでも、女房との関係は悪くなかったと思っている。
大竹:帰宅するのは夜中の12時前後とか、そういう感じでしたか。
上田:ええ。しかもまだ40代の頃は、女房に電話もしないで2日も家に帰らなかったとか、そういうことがよくあったね。浮気だとか夜遊びで、というのではなくて、うちへ帰らずにそのまま翌朝、仕事に行っちゃったとか、途中で泊まっちゃったとかね。当然、女房は文句を言う。「警察に電話しようと思った」と言われたこともあった。
大竹:行方不明になったのではないかと、心配したんですね。
上田:うん。行方不明で電話しようと。何の連絡もないから、死んだんじゃないかと思ったらしいんだ。
心配してくれるのは嬉しいよね。だけど、そこで僕はこう言ったんだ。
「あのね、俺は必ず定期と名刺は持ち歩いているから、電話がないということは無事だということだ」(上田)
「ひどいこと言うわね」(女房)
「まあまあ、その顔、化粧したときより今の顔がいいんじゃないか」(上田)
ほら、会話になっているわけ。まずこういう遊び心を、奥さんが怒っている時でも忘れないようにしましょう。
「脱いだ靴下は必ず洗濯かごに入れる」という心遣いを
大竹:そもそも、夫婦喧嘩は多くの場合、きっかけは些細なものですよね。
上田:浮気とかギャンブルとか、そういう原因を除けば些細なものですよ。だから、そういうきっかけを作らないように、夫婦がお互いに最低限のルールを守ることは必要です。
そもそも、夫婦共働きなら、お互いになかなか家事の時間を取れないわけですから、最低限のことはやりましょうよ。ビールを飲んで、靴下を居間で脱いで、ぼーんと放っておくなんてことは、やめた方がいい。それは、奥さんが疲れている時に、旦那のだらしなく脱ぎ捨てられている靴下を見たら、カチンと来るに決まっている。
大竹:それはダメだと。
上田:それはダメ。ちゃんと洗濯機の横に洗濯かごが置いてあるでしょうから、帰ってきたらまず、居間に入る前に靴下ぐらいは洗濯かごに入れなさい。奥さんだってそうですよ。実はこれは、逆に僕が女房に言っていたことなんだけどね。女房がどこかでテニスやったり何なりして家に帰ってきて、だーっと居間へ入ってきて靴下をばっと脱いだりしたら、「こらっ、お前、ちゃんと洗濯かごに入れろ」と注意していた。
大竹:逆に上田さんが怒っていた。
上田:うん。「お前、何で居間に脱ぐんだよ。洗濯かごに入れてこい」とね。だから、こういう些細なことで喧嘩をするのはバカらしいから、お互いに最低限のことは気を使いましょう。
大竹:それ、重要ですよね。
上田:ええ。そんなくだらない喧嘩は、やっぱり疲れを倍増させちゃうんです。だからこそ、些細な事かもしれないけれど、家事をやりなさい、そのために、台所の趣味を持ちなさい。
子供が嫌いな料理でもいい。週末、男は台所に立て
大竹:台所の趣味というと、男の料理。上田さんの得意分野ですね。
上田:奥さんや子供に、あなたの料理を食べさせてあげなさい。僕のうちでは、子供はもう、毎週末、苦痛だったみたいだけどな。土曜日とか休みの日になると、親父が台所に立ちはじめて、子供が嫌いなおかずを作るから。だけど、うちの女房の偉いところは、「あれ、食べなかったら叩くよ」と、子供に無理矢理食べさせていたことだ(笑)。
大竹:子供が嫌がるというのは、どんな料理を作っていたんですか。
上田:ニンニクをがーっとたくさん入れたり、辛いピーマンや唐辛子をちゃーっと入れたり。味噌汁もとにかく具だくさんで、だばーっとジャガイモ、肉、こんにゃくやらを入れるわけ。
大竹:土日のたびに。
上田:子供らは絶対嫌だと言いながら食べていたけど、今、うちの子供らは自分たちが嫌々食べていた料理を自分の子供たちに作っているよ。孫たちが嫌がっているかは、よう分からんけど。だけど、子供は嫌だと言っても、そこで奥さんや子供と食卓を囲んで、会話が成り立つじゃない。それが大切なんですよ。
大竹:料理を囲めば、自然と会話が生まれるというわけですか。
上田:だって「子供と遊ばなきゃ」「公園に連れて行かなきゃ」という思いで子供を世話しても、やらされ感しか感じないでしょう。そういう気持ちは、子供にも伝わるものですよ。やらされ感では、絶対にいかん。自分が好きでやっているというふうに思わないと。
そのためにも、料理を覚えなさい。そうすると家事や、子供との付き合い方が、そこから変わってきますから。どうせ、毎週末、家族と食事をする時間はあるわけだから、その時間に自分の料理で家族を楽しませることができたら、すばらしいじゃない。
それと家族旅行は、子供と一緒にしなきゃ。僕はもう、平日はほとんど家に戻らないような生活をしていたけれども、やっぱり月1回は女房、子供を連れてどこかに旅行をしていましたよ。疲れていても、眠くても、旅行に行きました。
大竹:旅行というのは、遠出もしていたんですか。
上田:いいえ。月1回はどこかへ行きましたが、必ずしも遠出ではなく、おにぎりを持って近場の運動場に子供と女房を連れて行くとか、そういうのも含みます。
大竹:近場でもいいんですね。
上田:うん。何カ月に1回は遠出をしたり、遊園地に行ったりしましたが、近場でも一緒に行けばいいんですよ。それも後から聞けば、子供たちは嫌がっていたと。親父が休みの日になると、どこどこに行くと言っていちいち指図するから、嫌だったと言うんですよ。しかも、行った先では、そっち行くな、こっち行け、あそこを2周してこい、だとか命令されたり、自転車で追っ掛けてきたりだとかね。
大竹:そういう旅行には、子供が何歳ぐらいまで家族で行っていましたか。
上田:小学生の時までですね。中学生になったら、もう勝手に遊びに行きますから。
奥さんから、子供の面倒を見てくれと言われるのは、だいたい小学生までですよ。お父さんが遊んでくれないとか、不満を言われるのは。小学生までと言ったら、そんな長い間ではないよね。あっという間ですよ。その間くらい、週末は家族と過ごしましょう。子供が小学生であれば、近場でも満足します。そして、まず第一に、奥さんとのコミュニケーションを大切にしましょう。それが子供に影響するから。
料理は素材さえ良ければなんとでもなる
大竹:上田さんは、家事の中でも、台所の趣味、つまり料理を趣味にするのが一番いいと言うのが持論ですよね。
上田:ええ。時間がない、疲れているという状況でもできることと言ったら、何だかんだ言って料理ですよ。料理であれば、短時間でできるものから、じっくり仕込みが必要なものまで、状況に応じて選べますから。
しかも、美味しい料理を作るのは、実は簡単なんです。素材が良ければ、少々変な刻み方したって、美味しくできる。調味料だって、今はもう、ありとあらゆる種類がスーパーに並んでいる。その調味料を使って、料理の特徴を出すことは、誰にでもできます。普段、奥さんが作ってない素材と調味料を買って、違った料理を作れば、それだけで食卓は盛り上がる。
大竹:なるほど。そうすれば、少しずつ奥さんとの関係が変わってきますか。
上田:そう。絶対に変わってきますよ。
大竹:素材が良ければ、本当に料理は何でもいいのですか。
上田:何でもいいです。今はものすごく便利な世の中になって、インターネットで素材の名前を入れて検索すれば、何々の料理の仕方とかがだーっと出てくるじゃないですか。
大竹:上田さんも料理のレシピをネットで調べるんですか。
上田:たまに変わった素材を買ったり、いつも作っている料理と違ったレシピに挑戦したりする時は、ネットで調べるよ。参考になるよねぇ。あ、なるほど、こういう料理の仕方、レシピもあったのかと。それで作ってみたら、もう女房も子供もサプライズ。そうなれば、ギスギスした会話ばかりだった家族も、会話がどんどん明るくなるよ。
大竹:上田さんも、今でもギスギスした会話を奥さんとすることはありますか。
上田:もう、あんまりないですね。ただ、もう女房に黙っていてほしい時は、「黙れー」なんて言うことはある。長年の付き合いで、僕がそう言うと、黙ることになっているんだな。
普通なら、「黙れ」なんて言われて、一旦黙ったとしても、翌日になったらまた言い出したりするじゃない。でも、僕の女房は、僕の方から「昨日の件だけど、一昨日の件だけど」なんて言わない限り、その件は一切、口を出さない。
大竹:長年で培われた喧嘩のルールみたいなのがあるんですね。
上田:あるんだろうね。女房も知っているんだよ。だから、「黙れ」と僕が言っても、それは険悪になるような話じゃないんですよ。それは、「もう今日はこの話はおしまい」という意味にしか過ぎないから。
大竹:奥さんとのコミュニケーションを大切にしてきたからこそ、夫婦で分かち合えるルールがあるというわけですね。
お知らせ:8月16日(水)は夏休みのため休載します。
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