ユニー・ファミマHD相談役、上田準二さんの「お悩み相談」。今回は支店長に抜擢された43歳男性から。初の営業職場で成績が上がらず、叱責されてばかり。転職も考え始めていますが、上田さんは抜擢人事をした上司の思惑を自身の経験から推測します。
悩み:これまで営業を避けて来ましたが、事実上の営業である支店長を拝命しました。営業成績が上がらず、叱責されてばかりで、何のために働いているのか、分からなくなります。転職した方がいいでしょうか。
総合職で入社して20年、支店長を拝命しましたが、事実上の営業です。今まで営業はやりたくなく避けてきましたが、サラリーマンである以上、断ることもできず、半年が経過しました。良い成績も出せず、毎日叱責されてばかりで、時折何のために働いているのか分からなくなります。
風通しの良い会社ではないので、自ら異動を口にすることはタブーであり、そもそも誰に相談して良いかも分かりません。同期は、あと数年経てば異動するよ!と言ってくれるのですが、それこそ営業専従職になれば目も当てられません。会社自体に不満はないですが、年齢も考慮し転職すべきか迷っています。そこで安易に転職を考えるのは間違っているでしょうか?(既婚、子供2人)
(43歳 男性 会社員)
1946年秋田県生まれ。山形大学を卒業後、70年に伊藤忠商事に入社。畜産部長や関連会社プリマハム取締役を経て、99年に食料部門長補佐兼CVS事業部長に。2000年5月にファミリーマートに移り、2002年に代表取締役社長に就任。2013年に代表取締役会長となり、ユニーグループとの経営統合を主導。2016年9月、新しく設立したユニー・ファミリーマートホールディングスの代表取締役社長に就任。2017年3月から同社取締役相談役。同年5月に取締役を退任。趣味は麻雀、料理、釣り、ゴルフ、読書など。料理の腕前はプロ顔負け。(写真:的野弘路)
上田準二(ユニー・ファミリーマートホールディングス相談役):43歳で支店長というのは、会社でも評価されて昇格してきたということですよね。
大竹剛(日経ビジネス 編集):総合職で入社して20年。私と同じ世代ですね。
上田:どんな営業なんだろうね。いずれにしても、やっぱり会社でも評価されて支店長に昇格したんだけれども、いい成績も出せず、毎日叱責されて、何のために働いているのか分からなくなると。
だけど、あなたが考えているほど、上の役員なり社長なりは、心の中ではそうは思っていませんよ。
大竹:そこまでこの人のことをダメだとは思ってない。
上田:僕がファミリーマートの社長だった頃は、全国各地にいる営業部長を集めて会議をする時には、成績の悪い部長から順番に僕の目に付くように席順を決めていたんだ。それ以前は北から南に順番に並んでいたけど、僕は一番出来の悪い部長から並ばせるように変えたんですよ。
成績の悪い部長から5番目くらいまでは、確実に僕とサシで話をするような感じになるわけね。「まったく、お前のところは成績が悪いな」と、僕がギリギリと締め上げていったわけですよ。
それで、ずっと前の方に座っていた部長が、成績が良くなって後ろの方に座るようになると、ようやく、前の席に座っている人の陰に隠れることができるようになるわけ。そうすると、「おい、大竹はどこ行った。今日はいないのか。やっと人の陰に座れるようになったか」と言ってほめてあげる(笑)。
大竹:なるほど(笑)。
期待しているからこそ怒る
上田:だけど、成績が悪い部長は、必ずしもその人の実力が劣っているわけではないんだよね。営業環境的に、その地域は半年やそこらではどうしても業績が上がらないということだってあるわけ。競争が一番激しい地域になっちゃったとか。そんなことは、こっちだって当然分かっている。
そもそも、厳しい環境にある地域はだいたい出来がいい人に任せるわけ。この人だったら、業績を改善してくれるんじゃないかと期待してね。何とか立て直しをする必要があって、能力のある人を厳しい地域の部長に回していくわけよ。
だけど、営業部長会議では徹底的に厳しくやる。
だから、この相談者もなかなか成績の上がらない支店の支店長に抜擢されたのは、きっとそのような背景があるんですよ。成績が悪いと叱責されるのは、あなたには能力がないと思われているわけではないのよ。「お前がやってもダメなのか」というぐらいの気持ちで、言われていると考えてみてください。
大竹:決して、能力がないと責めているわけではないと。
上田:そう。だから、叱責している際の上司の目をよく見てみてください。口では怒っていても、目は「お前は優秀なんだから、期待している」と言っているかもしれない。
大竹:アイコンタクト(笑)。
上田:そう。僕はいつもそうだったよ。だから、ある意味、叱責されるのも、そもそもあなたはそういった役目を担っていると考えることだってできる。
大竹:どういうことですか。
上田:つまり、ほかの支店長に対する檄でもあると。それをあなたが受けているんだと。優秀なあなたが怒られるところを見て、ほかの支店長は「俺のところもしっかりやらないとあんなに怒られるぞ」と思って背筋が伸びるわけ。上はそのような効果も期待しているわけで、決して心から怒っているというわけじゃないですよ。
だから、この叱責を受けているというのはあなたの支店長としての役目です。支店の業績を上げるために、それを1つのモチベーションにして、自分を励ましてください。
大竹:営業をやりたくなくて避けてきた、とこの方は書いていますよね。そういう人を抜擢したということは、もしかしたら何か新しい風、新しい視点を期待しているのかもしれない。
上田:そう。僕も社長の頃は、管理部門から営業部門に異動させたり、いろいろ抜擢人事はやったよ。
やっぱり、そのような人は目線が違うからね。会社は、そんな変化も期待するんですよ。だから、会議ではどうしても業績面で叱責されることもあると思うけど、何とか、それを楽しんでください。決して上の者は、心からあなたのことを憎いと思って怒っているわけではありませんから。
大竹:ただ、ご本人はすごく営業が嫌いなようです。
上田:嫌なのは分かっているけど、会社に勤めている以上、自分が好きなことばかりやれるようなわけにはいきませんよ。この厳しい支店を切り盛りするのは、あなたにとって次のステップへの登竜門です。そのような気持ちでやってもらった方がいいよね。
支店長になって半年だと、なかなか結果も出ないから、もう少し頑張りましょう。そうすれば、事態は徐々に好転するかもしれない。
大竹:頑張った挙句、次の異動で営業専従になるのではないかとも恐れています。転職も考えたいと。
上田:だけど、せっかく会社に期待されて支店長になったんだから、そう思ってはいけないよ。専従の営業職になったらやっていられない、なんて思いながら支店長をやっていたら、降格されちゃうよ。そんな態度は、表に出ちゃうから。
だから、今与えられた役割を、2年なら2年、3年なら3年の間、きっちりやること。そうすると次の道が開けるよ。今の状況では先が見えない。まずきっちりやることが大切です。
大竹:転職はしないほうがいい?
上田:支店長までやって転職するの? まずやめた方がいいね。管理部門を歩んで来てどんなスキルを身につけているのか、この相談からはよく見えないけれど、よく考えた方がいいですよ。きっと会社はあなたに期待していると思いますから。
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