社員から「Why」を聞き出し、社長は「How」を示す

大竹:社員の思いや不満をまず吸い上げ、それに答える形で社長がメッセージを発するというわけですね。

上田:そう。つまりだ、ホワイ=Whyは社員から言わせるんです。何で、この仕事や会社はこうなのか、という疑問を、社員は抱えているものでしょう。ただ、なかなか社長に直接言う機会はないものです。特に、中小企業のようなワンマン系の会社では、その傾向が強い。だから、この方にとっては、ある意味チャンスなんです。何にも知らないということを社員にさらけ出しても、そもそも、社員は彼に期待していないでしょうから、何も恐れることはない。むしろ、社員から疑問や不満をぶつけてもらえば、それをヒントにこの会社をどう変えていったらいいのかを、考えることができる。つまり、社員がホワイを言うとしたら、彼は社長としてハウ=Howを示すわけだ。

大竹:ホワイは社員から、ハウは社長から。

上田:そう。だけど、逆になっている会社が多いわけよね。

 「何でや、何でや、何でや」と重箱の隅を突くような上司は多いでしょう。「お前、何でや」と(笑)。それに社員が答えて、「これがこうだから、こうすればいいと思う」なんてハウを示したら、また、「何でや、何でや」とホワイ、ホワイ、ホワイと詰め寄られる。そんなやり取り、読者の職場でも多いんではないかな。でも、これは逆だと。

大竹:確かに。そんなやり取りは、どこにでもありますね。

上田:ええ。だけど、リーダーシップを発揮するには、そうなってはダメなんですよ。ホワイは社員から、ハウは社長から、これがリーダーシップの鉄則です。

 そして、やっぱり日本が世界に誇る競争力の1つは、中小企業を中心とした家族的な企業にあると思うんです。大きくなって上場していくような会社には、また次の成長の仕方というのがあるでしょうが、やはりまずはファミリー、家族という感覚が強みとなると思うんです。つまり、社長の眼がほとんどの社員に行き届けば、リーダーシップも発揮しやすいし、変化にもすぐに対応しやすい。

 ですから、社長と社員が、朝9時から夕方5時までの勤務時間内だけの関係ではなくて、会社を離れてもいろいろな行事、懇親会、そういったものを催したらいかがですか。そこでいろいろな話が出るはずです。そうするとリーダーシップも発揮できるようになる。

大竹:上田さんが伊藤忠商事からファミリーマートに移ってきたときも、社員の心を掴むために、相当、意識的に現場に下りていったと聞きましたが。

上田:これはね、意識したというよりも、商社から来て小売業の社長になったわけだけど、その当時は商社マンなんかに小売りができるとは思っていませんでしたから。

大竹:それは、今も言われたりしていますよ(笑)。

上田:ね。確かに、今でも言われたりしている。それは、そういったキャリアを商社ではこれまで、なかなか積むことができなかったからね。小売りの現場に、商社マンはなかなか立つ機会がなかったんですよ。

 もちろん、最近はだいぶ変わってきていますが、僕がファミリーマートに来た当時はそうだったんです。ということは、自分自身は「小売りは何も分からない」という前提で、社員と接するしかありません。

 ただ、気をつけなければいけないのは、分からないということは、逆に周りがやっていることに「ホワイ、ホワイ、ホワイ」とやってしまいがちになるわけですよ。分からないから「何でや」と聞きまくって、ハウがなくなってしまう。

 そうならないように、まず「ホワイ」を吸収しなきゃいけない。そのためには、周りのボードメンバーだとか役員さんよりも、現場の社員と話をして、「なぜか」というものを教えてもらって吸収する。それで、「ああ、そういうことか」と自分自身で腑に落ちてから、ハウ、つまり「じゃあ、こうしようよ」というものを示していく。そのやりとりによって、お互いに一体感が出てくる、気持ちがもう通じてくるんですよ。

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