ユニー・ファミリーマートHD相談役、上田準二さんの「お悩み相談」。今回は、亡き父が経営していた家業を継いだ45歳の男性の悩み。業績が低迷し、下がる社員の士気をどう高めるか。上田さんは、「まずは現場からホワイ=Whyを聞き出せ」とアドバイスする。
悩み:「亡くなった父から会社を引き継ぎましたが、業績が低迷し、社員もやる気を失っています。どうやって社内を盛り上げていったらいいのでしょうか」
中小企業を経営していた父が亡くなり、後を継ぎました。サラリーマンとして働いてきて、まともにリーダーシップを発揮したこともないので、どうやって社員の心を掴めばいいのか、見当もつきません。業績も低迷していて、士気は低下しています。どうやって、会社を盛り上げ、社員のやる気を引き出していったらよいのでしょうか。
45歳 男性(自営業)
1946年秋田県生まれ。山形大学を卒業後、70年に伊藤忠商事に入社。畜産部長や関連会社プリマハム取締役を経て、99年に食料部門長補佐兼CVS事業部長に。2000年5月にファミリーマートに移り、2002年に代表取締役社長に就任。2013年に代表取締役会長となり、ユニーグループとの経営統合を主導。2016年9月、新しく設立したユニー・ファミリーマートホールディングスの代表取締役社長に就任。2017年3月から同社取締役相談役。同年5月に取締役を退任。趣味は麻雀、料理、釣り、ゴルフ、読書など。料理の腕前はプロ顔負け。(写真:的野弘路)
大竹剛(日経ビジネス 編集):今回は、父親から会社を継いだという、45歳、男性からのお悩みです。高齢化が進み、多くの中小企業経営者が後継者問題を抱えていると言われていますが、今回の相談者は父親が亡くなったことで、中小企業の経営を突然、引き継ぐことになったようです。ずっとサラリーマンをしていたということですから、勇気ある決断ですよね。ただ、業績が低迷し、社員の士気が低下してしまっています。盛り上げ上手の上田さんから、社員のモチベーションアップの仕方を教わりたいようです。
上田準二(ユニー・ファミリーマートホールディングス相談役):この方は今、45歳のようだね。振り返ってみれば、その頃が一番、仕事ができた時期だね。
大竹:この方は、少し自信を失っているのかもしれませんね。会社を継ごうという決断ができるくらいですから、サラリーマンとしても、これまでしっかりと実力を発揮してきたのではないでしょうか。でも、まともにリーダーシップを発揮したことがないと、謙虚です。
上田:サラリーマンであれば、上司のパワハラに遭ったとか、上司の顔を見て仕事しなきゃいけなかったとか、会社は危機感を持ってないと不満を抱いたとか、40歳を過ぎれば、それまでに何だかんだといろいろな経験をしてきていますよね。でも、この方は、もうそんな話は一切、関係のない世界に飛び込んだ。今は、自分がトップでやっていかなきゃいけないんです。
大竹:そうですよね。
上田:そういうものを全部、自らが解決していかなきゃいけない立場になったことを、まず自覚する必要があるね。脱サラして、先代から会社を引き継いだのですから、もうやるしかない。
さて、やるしかない中で、社員の心をどうやって掴むかと。これがまず、リーダーとしての第一歩なんですよ。
では、どうすればいいのか。おそらく、この方がこれまで勤めていた会社というのは、大企業だったのかもしれない。大企業では社員にとって社長は遠い存在ですが、中小企業はそうじゃありません。あなた自身が日々、社員と同じ場にいなきゃいけない。まずそれが大事です。
そして次に、勤務時間外、あるいは勤務時間を短縮してでもいいから、社員との懇親会を開くことです。しかも、頻繁にです。この方はそれまで他の会社にいたわけで、社員のことを知らないんだから。
ただし、社員にとってその懇親会が負担になってしまってはいけないよね。だから、そうならないようにするには、自分から社員の輪の中に入っていくことを心がけるべきでしょう。そうした懇親会を通じて、社長に言いたいこと、会社に期待すること、自分の仕事に対する悩みだとかを聞き出して、それを吸収することですね。
そうやって社員の思いを吸収した上で、今度は彼自身が、仕事のこと、会社のことをどう思っているのかを、自分の言葉で社員に向かって語っていかなければいけない。業績が悪いみたいですけど、悪いのは何が原因なのか、そして、それをどう改めたら、業績を上げていけるかということを語るんです。
社員から「Why」を聞き出し、社長は「How」を示す
大竹:社員の思いや不満をまず吸い上げ、それに答える形で社長がメッセージを発するというわけですね。
上田:そう。つまりだ、ホワイ=Whyは社員から言わせるんです。何で、この仕事や会社はこうなのか、という疑問を、社員は抱えているものでしょう。ただ、なかなか社長に直接言う機会はないものです。特に、中小企業のようなワンマン系の会社では、その傾向が強い。だから、この方にとっては、ある意味チャンスなんです。何にも知らないということを社員にさらけ出しても、そもそも、社員は彼に期待していないでしょうから、何も恐れることはない。むしろ、社員から疑問や不満をぶつけてもらえば、それをヒントにこの会社をどう変えていったらいいのかを、考えることができる。つまり、社員がホワイを言うとしたら、彼は社長としてハウ=Howを示すわけだ。
大竹:ホワイは社員から、ハウは社長から。
上田:そう。だけど、逆になっている会社が多いわけよね。
「何でや、何でや、何でや」と重箱の隅を突くような上司は多いでしょう。「お前、何でや」と(笑)。それに社員が答えて、「これがこうだから、こうすればいいと思う」なんてハウを示したら、また、「何でや、何でや」とホワイ、ホワイ、ホワイと詰め寄られる。そんなやり取り、読者の職場でも多いんではないかな。でも、これは逆だと。
大竹:確かに。そんなやり取りは、どこにでもありますね。
上田:ええ。だけど、リーダーシップを発揮するには、そうなってはダメなんですよ。ホワイは社員から、ハウは社長から、これがリーダーシップの鉄則です。
そして、やっぱり日本が世界に誇る競争力の1つは、中小企業を中心とした家族的な企業にあると思うんです。大きくなって上場していくような会社には、また次の成長の仕方というのがあるでしょうが、やはりまずはファミリー、家族という感覚が強みとなると思うんです。つまり、社長の眼がほとんどの社員に行き届けば、リーダーシップも発揮しやすいし、変化にもすぐに対応しやすい。
ですから、社長と社員が、朝9時から夕方5時までの勤務時間内だけの関係ではなくて、会社を離れてもいろいろな行事、懇親会、そういったものを催したらいかがですか。そこでいろいろな話が出るはずです。そうするとリーダーシップも発揮できるようになる。
大竹:上田さんが伊藤忠商事からファミリーマートに移ってきたときも、社員の心を掴むために、相当、意識的に現場に下りていったと聞きましたが。
上田:これはね、意識したというよりも、商社から来て小売業の社長になったわけだけど、その当時は商社マンなんかに小売りができるとは思っていませんでしたから。
大竹:それは、今も言われたりしていますよ(笑)。
上田:ね。確かに、今でも言われたりしている。それは、そういったキャリアを商社ではこれまで、なかなか積むことができなかったからね。小売りの現場に、商社マンはなかなか立つ機会がなかったんですよ。
もちろん、最近はだいぶ変わってきていますが、僕がファミリーマートに来た当時はそうだったんです。ということは、自分自身は「小売りは何も分からない」という前提で、社員と接するしかありません。
ただ、気をつけなければいけないのは、分からないということは、逆に周りがやっていることに「ホワイ、ホワイ、ホワイ」とやってしまいがちになるわけですよ。分からないから「何でや」と聞きまくって、ハウがなくなってしまう。
そうならないように、まず「ホワイ」を吸収しなきゃいけない。そのためには、周りのボードメンバーだとか役員さんよりも、現場の社員と話をして、「なぜか」というものを教えてもらって吸収する。それで、「ああ、そういうことか」と自分自身で腑に落ちてから、ハウ、つまり「じゃあ、こうしようよ」というものを示していく。そのやりとりによって、お互いに一体感が出てくる、気持ちがもう通じてくるんですよ。
社員との懇親会で一方的に話し続ける社長はダメ
大竹:会社の規模は全く異なるでしょうが、ファミマに来た当時の上田さんと、境遇には通ずるものがありますね。
上田:親父の会社を突然継ぐことになってしまってつらいな、と思うのではなく、これまでとは全く違って面白いチャレンジができるなと思って欲しいし、僕はそう思うようにしたね。
大竹:まず自分が面白がると、その状況を。
上田:うん、面白がる。これはチャンスだとね。業績が悪いというのも、業績を上げていくチャンスなんだと。そして、それは社員の気心を知り、自分を知ってもらう、いい機会でもある。
大竹:中小企業の事業継承を取材すると、2代目や3代目の若社長が古参の社員から見下されて苦労すると言った話もよく耳にします。
上田:そういうこともあるよね。でも、そうした古参社員には、若手社員も不満を持っていることも少なくないよ。だから、彼の会社が何人の規模かは分かりませんが、全社の懇親会だけではなくて、若手、中堅社員、古参社員といった具合にいくつかグループを分けてホワイを聞き出すといいんだよ。
やってみれば分かることですが、出てきますよ、不満がどんどん。古参社員なら蓋をしてしまうような問題なんかが、若手や中堅の社員からはばーっとね。現場に近づくほど、マグマはいっぱいたまっているものです。だから、現場からホワイを吸収して、それに答えるハウを出すことが、求心力を高める上で非常に有効なんですよ。
大竹:逆に言えば、現場に耳を傾けないと、いつまでたっても古参の社員に好き放題やられっぱなし。
上田:そうそう。例えばこれまでAメーカーと取引していて、古参社員はそのことに全く疑問を持っていなかったとしましょう。実際、古参の幹部に聞けば、Aメーカーとの取引では売り上げが1億円あって利益が5000万円、粗利が5割もあると主張する。だけど、現場に聞けば、Aメーカーとの取引は業務量がとにかくたくさんあって大変な上に、それにかかる人件費などの経費が実は別のところに付いていた。見かけ上は粗利はいいけど、実際は全く儲かっていないということは、よくある話だけど、そういう実態は現場に聞かないとなかなか把握できないものなんだよ。
だから、そうした実態を社長自らが把握して、古参社員にはトップダウンで「こういう理由だからAメーカーとの取引は採算が悪すぎる。むしろ、これからは新しいマーケットに挑む必要があるので、Bメーカーとの取引にシフトしたい」といった指示を出すしかないんです。
大竹:懇親会でうまく社員の不満を引き出す上田さん流のコツは何かありますか。
上田:まずは、自分がトップだからということで、懇親会などで一方的にしゃべる人がいるんですよね。社員の声を直接聞きたいと言っておきながら、ほとんど社長が話しているとか。それでは、もう何も意味はないよね。だから、もう社員に対して、お願いしゃべって、話して話して、という姿勢で望むべきだね。
大竹:ただ、そうは言っても社長にどこまで話していいのだろうと、社員はなかなか心を開いてくれないんじゃないでしょうか。
上田:その通りだと思うよ。だいたい、懇親会でばーっと意見を言う人は、準備して意見を言っている場合が多いよね。例えば10人集まったら、そういう準備万端な人を除いて、だいたい3〜4人は発言しないんですよ。
だから、第2ラウンドをやるんだよ。時間が来たら、「さあこれから2部ダイレクトミーティングをやる」と宣言する。「今日、意見を言っていない人がおったよね。酒、さかな付き、管理職は1人なんぼ。その他の社員はタダ。ただし、泥酔する人は、意見を忘れてしまうと困るから、メモとペンだけ持っておけ。翌朝、忘れたとは言わさんぞ」と(笑)。
大竹:泥酔している社員にメモとペンを持ってこさせても、書くことすらできないかもしれないですよ。
上田:もう、そんな会も回数を重ねてくると、そういう社長の雰囲気が周囲にも伝わってくるから、「社長、すみません、ペンを忘れたので、ワイシャツに書いて下さい」なんて言う社員も出てくる。
大竹:それ、実話ですか。
上田:実話だよ。どうかと思うよな。でも、「記念に書いてくれ」とせがまれるから書いたわけ。そうしたら、その話が他にも伝わったんだね。四国かどこか別の場所でも、最初からワイシャツを差し出してきた社員が3人もいた(笑)。
大竹:それぐらいの雰囲気になってくれば、もうしめたもの。
上田:太鼓持ちばかりみたいな感じになると危ないけどね。だけど、僕だって商社からコンビニの会社へ来て、何もない中で、しかも社員が全国に散らばっていて、なかなか直接対話をする機会がなかった。懇親会で偉そうに経済ビジネス書を読むような話をしたって、信頼してくれないでしょう。まずは、やっぱり知りたい、知ってもらいたいという関係を作っていかないと。
大竹:今回相談してくれた方も、まず、そこからやれば大丈夫だと。
上田:はい、絶対に大丈夫です。
読者の皆様から、上田さんに聞いてほしい悩みを募集します。悩みの投稿は日経ビジネスDIGITALの有料会員か、もしくは日経ビジネスオンラインの無料会員になる必要があります。日経ビジネスオンラインの無料会員の場合は、投稿に会員ポイントが必要です。
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