ユニー・ファミマHD相談役、上田準二さんの「お悩み相談」。 今回はトップダウンの社風に悩む33歳女性から。自発的に提案する気が失せ、モチベーションが下がっています。上田さんは「ジンギスカンの肉」のエピソードを披露。そのワケは?
悩み:トップダウンの社風で、上司の指示に従わないと評価されません。自分から提案することもほとんどなくなりました。このままだと、自分の能力も上がらない気がします。転職を考えたほうがいいでしょうか。
メーカーでマーケティング部署にいますが、トップダウンの社風で、大抵の物事は「社長がこうおっしゃったからこうだ」「常務のご命令だからこうしろ」と言った感じで決まっていきます。
中途入社で6年目、この社風にも慣れてしまい、自発的に提案することはほとんどなくなりました。提案しても採用されることはなく、上司の指示どおりに動けないと評価されないからです。同年代の他社の人と話した時に、自分の能力のなさに気づき愕然としたことがあり、このままこの会社に居続けるべきか、自分で考えて仕事を出来る会社に移るべきか悩んでいます。
給料は前職より100万円下がり、33歳で額面400万円です。管理職にならない限り上がる見込みはなく、休みの取りやすさだけは魅力です。
(33歳 女性 会社員)
上田準二(ユニー・ファミリーマートホールディングス相談役):まずね、社長がこう言ったから、常務の命令だから、というのは、多かれ少なかれ、どんな組織にもある話だよ。
大竹剛(日経ビジネス 編集):そうですね。上田さんも常々、そう言ってきました。
1946年秋田県生まれ。山形大学を卒業後、70年に伊藤忠商事に入社。畜産部長や関連会社プリマハム取締役を経て、99年に食料部門長補佐兼CVS事業部長に。2000年5月にファミリーマートに移り、2002年に代表取締役社長に就任。2013年に代表取締役会長となり、ユニーグループとの経営統合を主導。2016年9月、新しく設立したユニー・ファミリーマートホールディングスの代表取締役社長に就任。2017年3月から同社取締役相談役。同年5月に取締役を退任。趣味は麻雀、料理、釣り、ゴルフ、読書など。料理の腕前はプロ顔負け。(写真:的野弘路)
上田:社長の方針や常務の方針といったものが、末端の社員まで伝わらないような会社ではそもそも困るわけですよ。
大竹:トップの方針が伝わらないと、逆に社員は文句を言う。ビジョンがない、方針がないと。
上田:そう。ただ、この場合の問題は、トップダウンが現場の社員のモチベーションを下げてしまっていることだね。この会社は、下に指示を出すコミュニケーションのやり方が極めて下手なような気がする。ただ、これが社風だとも書いてある。
だから、彼女には、上からの指示を実行していくときに、自分はどのような考えでやったらうまく結果を出せるのかを考えてほしいな。今は、指示されたことに対して「自分は違う」と思って、指示通りに動いていないのではないかな。その結果、「評価されない」ということになってしまっている。指示通りに仕事をこなしてないから、上司からすると評価できないということにつながっているわけだよね。
ですから、一度、指示通りに徹底的に仕事をやってみてください。
大竹:なるほど。思いっきり指示通りに動いてみる。
上田:そう、指示通りに。ただし、指示を実行に移すときに、指示通りの結果が出るように、このような考えでやりたいというようなことを発言するんです。自分はこのような考えで指示された結果を出していきたいと。
大竹:指示されたゴールを目指すけれども、そのやり方については自分なりに工夫する、ということですか。
上田:そう。やり方について自分の考えを伝えながら、指示されたゴールを達成するんです。例えば、どんなサッカーチームだって、いろいろな指示が監督やコーチから飛んでくるでしょう。その時、「俺はあっちへ走りたいのに」とか言っておったんではチームは強くなれないでしょう。フォーメーションやポジションが決まっているのに、自分は指示通りに動くのが嫌だと主張されては、組織として動けないよね。
ただ、その行動の仕方については、自分はこのように行動をしたらもっと結果が出せる、と言ったふうに、どんどん発言していったらいいと思うんです。
今のような状況でほかの会社に転職したところで、何の解決にもなりません。こういったことはどの会社にも必ずありますよ。だから、転職を考える前に、まずは上司の指示通りにまずは動いて、それで結果をしっかり出してみてください。そして、そこから上司に指示された結果を出す上での、自分なりのより良い動き方を提案してみてください。
会社というのは、社長の方針、本部長の方針があって、それに従ってそれぞれの部なり課なりチームなりが、どうやって成果を出すかを考えていくんです。それが、会社組織なんです。
「ジンギスカンの肉」の成功体験
大竹:ちなみに、上田さんは33歳ぐらいの時は、どんなふうに仕事をしていましたか。もう、上からの指示は絶対、といった世界だったんですか。
上田:そうだね。当時、例えば、「今年中にマーケットシェアを3%アップしろ」みたいな指示が上司から飛んできたっけ。北海道でシェアを3%アップしろと。
大竹:それは何の商材ですか。
上田:ジンギスカンの肉。北海道は一番大きなマーケットですよ。そこが、非常に我が社は弱いからなんとかせえ、というわけです。
ジンギスカンの肉は、ほとんど輸入ですからね。北海道のマーケットでシェアを30%まで高めれば、ニュージーランドやオーストラリアから専用船を回せるようになると。すぐには無理でも、毎年3%ずつ上げていけば、3年以内に専用船を回せるようになるとね。やりましたよ、3年で。
大竹:さすがですね。その時の上田さんは、上からの指示通りに動いたんですか。
上田:それはもう、上司はいろいろなことを言いますよ。だけど、上司自身もどうやったらいいのかわからないんだよね。そもそも自分でやったことないんだから。
だから、「分かりました!」といいながら、自分なりにどうやって目標を達成するかを考えるわけです。上司の指示通りは動かなきゃいけない。だけど、上司が言ったようなことで、毎年シェアを3%上げるのは無理だと思ったから、「わかりました。3%は達成します。そのために、これをやらせてください」とやり方を提案したんですよ。
大竹:どうやって提案したんですか。
上田:まず経費は今までの5倍かかります。月に3分の1は北海道に出張します。その過程においては、売上利益の増加率よりも経費の増加率が高くなります。だけど、シェアがアップしたら、その分の経費は必ず吸収できます、といった具合だったかな。
それで3年で3%ずつシェアをアップさせとシェアは30%ぐらいになって、そうするともう1000トン級のジンギスカンの肉の専用船を出せますよ、と提案したんですよ。
大竹:その時、上司に、そのやり方ではダメですとはっきり言ったんですか。
上田:さすがにダメですとはっきりは言わないけど、暗にダメだと言ったようなものだよね(笑)。
指示を受けて、僕はそれを絶対に達成しますと言うわけです。課長が僕に指示を出すということは、課長は部長からそう言われているわけで、だから僕も言われた通りにやりますと従うわけです。だけど、それを実現するためには、このようなやり方が必要ですと、提案もする。
上からの命令は実行します、だけど、実行するためには、このようなことが必要ですという提案をすればいいんですよ。
上司は、とにかく結果が出れば満足なわけだから。
大竹:経費5倍、月3分の1の北海道出張、よく認められましたね。
上田:まあ、1年で成果が出なかったら、「お前もう行かんでいい」と言われたと思うけどね。
大竹:楽しそうですね、北海道出張(笑)。
上田:そりゃそうだよ。そこが実は大切なんだ。上からの指示を楽しむんですよ。
指示を受けて、それを実行して、結果を出すことが楽しいと思いましょう。「ああ、また上から指示された。私は違うことをやりたいのに、こっちをやれと言われた」と不満を感じてばかりいたら、仕事はいつまでも楽しめないですよ。指示を楽しみましょう。
大竹:なるほど。上司からの指示を楽しめと。
上田:楽しめ!
この方の場合、今の状態では、周りからの評価が上がるというのは、なかなか難しいでしょう。だから1回、今言ったようなことで、上司からの指示に従いつつ、どうやってそれを楽しみながら実行するか、自分なりのやり方で上司からの指示を達成するかを考えてみてください。
そうやって少しずつ成果を積み重ねていけば、管理職になるチャンスも来ます。今の状態でほかの会社に転職しても、おそらく、その転職先でもあなたは同じような思いをするでしょう。だから今は、この会社でもう1回、上司の指示に従って自分の能力を磨いてみてください。転職するのは、その後です。
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