僕もパワハラのターゲットにずっとなっていた

大竹:この方の周囲にいるお偉方の発言、「俺もサラリーマンだ、分かってくれ」「精神的な苦痛と引き換えにお金をもらっていると思うしかないと」というのは、なんだか悲しくありませんか?

上田:確かに、情けないしつらいよな。僕もかつて、上司から今でいう相当なパワハラを受けたことがあったからよく分かる。だいたい入社5年から10年の間。まるで目玉商品みたいに、課長や部長から目を付けられていた。

大竹:何が原因だったんですか。

上田:こういうのには理由はあまりないと思うよ。きっと僕がやられやすい顔をしておったからだろうね(笑)。みんな、サーっとうまいこと逃げているのに、僕はボーっとしていたからね。

大竹:それで上田さんに?

上田:うん。東京や大阪から出てきた社員はみんな賢かったからね。東北の田舎から来た僕なんかは鈍くさいから、うまく逃げるのに慣れてなかった。

 その時、ある人が言ってくれたんだ。「上田、お前、会社を辞めたいだろう? そんなバカバカと言われるのは、お前ばかりだもんな。だけどな、それで給料をもらえると思ったら、いいもんやろう」とね。いいかげんなことを言うなと思ったけど、一方で、いいこと言うなとも思ったね。

大竹:どうしてですか。

上田:ほかの会社へ行ったところで、ろくにやりがいのある仕事なんて、そう簡単に回してもらえないでしょう。ところがここは、人の分までバカだと言われて、へいへいと頭を下げていれば給料がもらえる。これは楽だなと(笑)。

 ちなみに、僕が課長の時はこんなだったよ。部長会をやると、各課長がばーっと一同に集まって席についていくんだけど、みんな開始時間の10分ぐらい前に行って、良い席を取っちゃうわけ。最後まで空いているのが部長、本部長の前。僕はだいたい時間ピッタリに行っていたから、そこが僕の席となるわけよ。

 説明する順番も僕が最初になるんだよね、そうなると。部長や本部長から格好の餌食になるわけね。1時間の会議だとしたら、だいたい45分くらい、僕への文句で過ぎてしまう。そうするとほかの業績の悪い課長連中は助かるわけだ。部長や本部長とあまり目線の合わないところに座って、やり過ごしちゃう。

大竹:なんで俺ばかり怒られなければならないんだ、とか思いませんでしたか。

上田:まあそう思ったこともあったけど、同僚の課長からはものすごく評価されたから、それがよかったね。「上田さんのおかげで助かった」と。業績が悪かったりなにか失敗したりしている課長はいっぱいいるんだけど、時間がなくなっているかたそこまで深いところまで突っ込まれない。一方、僕のところは結構利益を出しておっても、最初に説明するもんだから、いちいち細かく文句を言われる。ちょっと説明しただけで、それはどういうことだと(笑)。

 上司からは意味もなく目の敵にされたけど、そのおかげで同僚から感謝された。ほかの課との連携が必要なことも仕事をしていると出てくるでしょう。そんな時、みんな応援してくれたんです。

次ページ 「鈍」の心根は読書で身につける