ユニー・ファミマHD相談役、上田準二さんの「お悩み相談」。今回はアラフィフのシングルマザーから。キャリアを積み重ねてきたものの閑職に追いやられ、モチベーションが急降下。上田さんは「『心根は鈍』で行け」とアドバイス。
悩み:シングルマザーです。これまでバリバリ働いていましたが、ここにきて閑職に追いやられ、パワハラ的な扱いも受けています。息子を大学に進学させたばかりで経済的な負担も大きく、会社を辞める決心もつきません。どうしたらよいでしょうか。
某企業に勤めるアラフィフ・バツイチ・シングルマザーです。数年前までバリバリと働く部署にいましたが、現在は閑職に異動させられ、浮かない毎日を送っております。
年齢的にも以前のような働き方や立場を求められることはもうないと思いつつ、社長のパワハラ的な制裁を受け、現在の部署へと異動になっている感も否めず、何をやっても認められない毎日です。同部署の上司も同じような境遇で、いじめの対象になっているため、既にメンタルがやられてしまい、前向きな提案には耳を傾けず、トップの顔色だけを伺い、日々をやり過ごすだけの働き方になっています。
なぜ、こうなったのか……。自身に思い当たる節はなく、周辺の偉い方に状況を聞いても、「気持ちは分かるが、そういう役回りが来たのだと受け止めてくれ。仕方ない」「言及してやりたいが、俺もサラリーマンだ……。分かってくれ」という回答ばかりで、挙句の果てには「精神的な苦痛と引き換えにお金をもらっていると思うしかないのでは」とも言われる始末です。
これまで、似たような状況に追いやられた男性社員はみんな心を病み、休職・退職へと追いやられています。しかしながら息子を大学に進学させたばかりで、仕送りや学費など全ての負担が自身に降りかかっている状況で、ましてやこの歳で転職を考えることもできず、日々もんもんと過ごしております。
息子が卒業したら、退職して自身で起業しようかと本気で考える日々なのですが、それまでの数年間をどういう心持ちで過ごしてよいものか……。前向きな気持ちで日々を送れるアドバイスをいただけるとうれしいです。よろしくお願いいたします。
(51歳 女性 会社員)
1946年秋田県生まれ。山形大学を卒業後、70年に伊藤忠商事に入社。畜産部長や関連会社プリマハム取締役を経て、99年に食料部門長補佐兼CVS事業部長に。2000年5月にファミリーマートに移り、2002年に代表取締役社長に就任。2013年に代表取締役会長となり、ユニーグループとの経営統合を主導。2016年9月、新しく設立したユニー・ファミリーマートホールディングスの代表取締役社長に就任。2017年3月から同社取締役相談役。同年5月に取締役を退任。趣味は麻雀、料理、釣り、ゴルフ、読書など。料理の腕前はプロ顔負け。(写真:的野弘路)
大竹剛(日経ビジネス 編集):今回は、51歳のシングルマザーです。これまでバリバリ仕事をしながら、女手一つで息子を大学生まで育ててあげてきたそうです。ところが、ここにきてパワハラ的に閑職に追いやられてしまいました。
上田準二(ユニー・ファミリーマートホールディングス相談役):仕事でモチベーションが上がる部分が何もないような言い方をしているけど、あなたのモチベーションは息子を卒業するまで育てていく、守っていくことですよね。それが最大のモチベーションですよ。子供を立派な社会人に育て上げるために、私はこの会社で元気に頑張ろうと。まずは、単純に働く目的はそれ一つだと、頭を切り替えてみてください。
そのうえで、人から評価されてないから仕事は嫌だという気持ちは、一切忘れましょう。どんな部署の仕事だろうが、会社にとっては必要な仕事で貴賤はありません。誰かから評価されるからその仕事をするのではなくて、自分のために今の仕事をきっちりとこなすことに注力してください。人に評価されることより、自分で自分のことを評価しなさい。息子のために、自分はきっちりやっていると。
それと、トップの顔色だけを伺って日々やり過ごすだけの働き方と言うけれど、会社というのはある程度はそのような側面もあるものだと割り切ってください。会社の方針は、社長から役員、本部長、部長、課長と下に降りてくるものでしょう。社長の顔を見ないで動いている会社なんて、ないですよ。
大竹:そもそも、会社の求心力というのはそういうものだと?
上田:そう。社長の顔が見えないとか、方針がよく分からないとか、現場からそういう声が聞こえてくる会社は、うまく動かないよ。だから、僕はファミリーマートの社長になった時には、ボトムアップとトップダウンがみずみずしく流れる会社にしていこうと考えたんだ。みんなでワイワイガヤガヤ、ワッショイ、ワッショイやっていくような会社にしていこうと。
役員や本部長クラスと話をすると、時々がっかりすることがあるんだよね。適当にバイアスを掛けてトップの言葉を伝えている。それじゃあダメなんだよね。やっぱり、裏を返せば、会社としてはトップの方針なり思いなりが一直線につながって下まで降りていってほしいと思うのは当たり前のことです。
だから、あなたにも分かってほしいのは、トップの顔色だけを伺いながらと言っているけど、そこはあまり気にしてはいけません。
僕もパワハラのターゲットにずっとなっていた
大竹:この方の周囲にいるお偉方の発言、「俺もサラリーマンだ、分かってくれ」「精神的な苦痛と引き換えにお金をもらっていると思うしかないと」というのは、なんだか悲しくありませんか?
上田:確かに、情けないしつらいよな。僕もかつて、上司から今でいう相当なパワハラを受けたことがあったからよく分かる。だいたい入社5年から10年の間。まるで目玉商品みたいに、課長や部長から目を付けられていた。
大竹:何が原因だったんですか。
上田:こういうのには理由はあまりないと思うよ。きっと僕がやられやすい顔をしておったからだろうね(笑)。みんな、サーっとうまいこと逃げているのに、僕はボーっとしていたからね。
大竹:それで上田さんに?
上田:うん。東京や大阪から出てきた社員はみんな賢かったからね。東北の田舎から来た僕なんかは鈍くさいから、うまく逃げるのに慣れてなかった。
その時、ある人が言ってくれたんだ。「上田、お前、会社を辞めたいだろう? そんなバカバカと言われるのは、お前ばかりだもんな。だけどな、それで給料をもらえると思ったら、いいもんやろう」とね。いいかげんなことを言うなと思ったけど、一方で、いいこと言うなとも思ったね。
大竹:どうしてですか。
上田:ほかの会社へ行ったところで、ろくにやりがいのある仕事なんて、そう簡単に回してもらえないでしょう。ところがここは、人の分までバカだと言われて、へいへいと頭を下げていれば給料がもらえる。これは楽だなと(笑)。
ちなみに、僕が課長の時はこんなだったよ。部長会をやると、各課長がばーっと一同に集まって席についていくんだけど、みんな開始時間の10分ぐらい前に行って、良い席を取っちゃうわけ。最後まで空いているのが部長、本部長の前。僕はだいたい時間ピッタリに行っていたから、そこが僕の席となるわけよ。
説明する順番も僕が最初になるんだよね、そうなると。部長や本部長から格好の餌食になるわけね。1時間の会議だとしたら、だいたい45分くらい、僕への文句で過ぎてしまう。そうするとほかの業績の悪い課長連中は助かるわけだ。部長や本部長とあまり目線の合わないところに座って、やり過ごしちゃう。
大竹:なんで俺ばかり怒られなければならないんだ、とか思いませんでしたか。
上田:まあそう思ったこともあったけど、同僚の課長からはものすごく評価されたから、それがよかったね。「上田さんのおかげで助かった」と。業績が悪かったりなにか失敗したりしている課長はいっぱいいるんだけど、時間がなくなっているかたそこまで深いところまで突っ込まれない。一方、僕のところは結構利益を出しておっても、最初に説明するもんだから、いちいち細かく文句を言われる。ちょっと説明しただけで、それはどういうことだと(笑)。
上司からは意味もなく目の敵にされたけど、そのおかげで同僚から感謝された。ほかの課との連携が必要なことも仕事をしていると出てくるでしょう。そんな時、みんな応援してくれたんです。
「鈍」の心根は読書で身につける
大竹:とはいえ、誰しも怒られたり、理不尽な言い方をされたりすると多かれ少なかれへこむものです。上田さんは、よく平気ですよね。
上田:僕は鈍いの。
大竹:生まれつきですか?
上田:そう。だから相談してくれた彼女も、ちょっと鈍くなった方がいいかもしれないですよ。よく「打たれ強い」なんていう人がいるじゃないですか。普通ならノイローゼになったり、気力が失せたりしてもおかしくないんだけど、なぜか平気という人。
そういう打たれ強い人は、ようするにいい意味で鈍いんです。もちろん仕事が鈍いのは困るよ。でも、「心根を鈍く持つ」ということは何事においても重要なことだと思う。今の時代、必要なのは「鈍」です。「鋭」じゃなくて「鈍」。
大竹:「心根は鈍」でいけと。
上田:そう。「心根は鈍」。そのためには、まずは笑顔です。心で泣いて顔で笑うぐらい「鈍」でいきましょう。やりすぎちゃうと、「あいつ、頭がおかしい」と言われちゃうかもしれないけれどね(笑)。でもそれくらいの心持ちは必要です。
大竹:そういう意味で言うと、この相談を寄せてくれた方も、あと数年間は「鈍」で頑張れということですね。
上田:あと数年間、自分の子供をきっちり社会人に育て上げる。次に、今やっている部署での仕事については、周りからよく見てもらおう、評価してもらおうなんて意識を捨てて、自分で自分を評価する。
そして、笑顔。そうすると、自分で意識せずとも、きっちり働いていると評価される時期が、また必ず来ますよ。
大竹:ちなみに、心根を鈍く持つには、どうしたらいいのでしょうか。鈍くない性格の人が、鈍くなれと言われても、すぐには変われなそうです。ものすごく怒られたりすると、一人になったり、週末に家族といたりする時にも思い出してしまうものです。どうやって気持ちを切り替えるのがいいでしょうか。
上田:本を読むことだね。心沸き立つ本を。
大竹:小説ですか?
上田:小説でも、ノンフィクションでも何でもいいです。たくさんありますよ、ワクワクしたり元気が出たりする本は、世の中にね。そんな本の主人公に、自己投影するんです。そうすると、一人で悩んでいた心が解放されます。
大竹:上田さんは電子書籍でたくさんの本を持ち歩いていると聞きましたが、上田さんの「鈍さ」は読書から来ていたんですね。(参照:経営書より『走れメロス』が好きでも就活に勝つ)
読者の皆様から、上田さんに聞いてほしいお悩みを募集しています。仕事、家庭、恋愛、趣味など、相談の内容は問いません。ご自由にお寄せください。
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