勝手にやっていいこととダメなことの境界を見極めろ

大竹:保険やリスクヘッジですか。

上田:その役目を担うのが、上司であり組織なんだね。だから、上司を保険にすれば、何も怖いものはない。

 学校からクレームがきたらどうするかと心配しているようだけど、どこの大学も厚生課や就職課があるはずなので、そこにあらかじめ、上司から正式に「プレゼンに行きたいのですがよろしいでしょうか」と打診してもらう。こうした準備をしないでいきなり行くと、学校からクレームが来たときに、当然、会社から怒られてしまう。

 勇気を持って行動しなきゃいけないけれども、勇気というのは、ただアホみたいに突っ込んでいけばいいというものじゃない。その勇気を出すための、きっちりとしたリスクヘッジを、事前にしておかなければいけない。

大竹:上田さんのデンマークのエピソードも、たぶん彼はすこし誤解をしてしまったのかもしれませんね。上田さんは、そういうリスクヘッジの考えなしに、デンマークに突っ込んでいったと。

上田:うん。あれはまず伊藤忠として、デンマークの豚肉取引の扉を開けることが目的だった。そして、Aメーカーと競合商社の取引をひっくり返し、伊藤忠に持ってくるというのが、次の目的だった。

 じゃあ、具体的にどういう戦術でこの2つの目的を達成するかというのは、決まっていなかった。まあ、僕が考えろということになっていたわけ。そこで、輸出組合のトップを待ち伏せしたことで、交渉の扉を開けるという、最初の目的は達成できたんだ。しかし、そこから契約にこぎ着ける条件が、年間契約1万2000トンという、従来の戦術にはないものだった。だから僕は急いで本社に国際電話をかけて、事前に許可を取った。

 つまり、交渉の扉を開けるまでの手段は、待ち伏せするということだったから、特に許可はいらないし、失敗しても怒られない。だけど、前例がない年間1万2000トンという豚肉取引を勝手にまとめたら、さすがに怒られる。だから、リスクヘッジのために事前に上司に電話をかけた。どこまで自分で勝手にやれて、どこから上司や会社の許可がいるのかという、線引きをきっちりして行動していたんだよ。

大竹:本社に電話をしないで契約書にサインしてしまったら、さすがにマズイ。

上田:待ち伏せして、よし、扉は開いたとなった。扉をこじ開けるという目的で来たんだから、そこで一つの目的は達成したんだ。しかも、ここでサインすれば、もう取引がスタートできる。だけど、そこの部分は、どんな手段でやってもいいということじゃない。

 だから相談してくれた彼も、学校訪問して優秀な学生を採用するという目的はいいけど、どんな手段でやるかが、最終的には問われるわけだよ。

大竹:そうですよね。考えていることを実行する強い気持ちは重要だけれども、強い気持ちだけではダメ。リスクをヘッジした、しっかりとした手段、戦術が必要だというわけですね。

上田:そう、手段、戦術を考えましょうよ。

 全てを自分で勝手に決めてしまうのではなくて、節目節目で、やっぱり上司に裁定、判断、承認を得ながら続けていくのが大切だな。上司から「それはダメだ」と言われたって、その上司はいろいろとアイデアを出してくるあなたのことを、「あいつ、よく頑張っているな」と評価するはずです。

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