ユニー・ファミリーマートHD相談役、上田準二さんの「お悩み相談」。今回は、27歳男性の悩み。中途入社1年目で新卒採用を任され、いろいろとアイデアは浮かぶものの、新しい取り組みに挑戦するのが不安だと悩んでいます。そんな相談者に、上田さんは、「上司を保険として使え」とアドバイスする。
悩み:「中途入社1年目で、新卒採用を任されました。新しいアイデアは浮かぶものの、失敗して怒られるのが怖く、実行に移す勇気がありません」
今、私は採用活動を一任されており、未経験の中途入社1年目ながら責任と権限のある立場に置いていただいています。その中で「学校を訪問する」という正攻法だけではもはや学生を集められず、何か対策を打ち出していかなければなりません。しかしながら、その企画を打ち出すことに非常に怖さがあります。「あいつは何をやっているんだ」「そんなことにお金や労力を使って結果が出るのか」と思われることが恐ろしいです。
また、「学校を訪問する」という選択肢の中でも、例えば、学校で学生に話しかけて取り込んでいくといった、ズレているが結果に結びつきそうな方法があります。しかし、そこでも学校からクレームが来たら同僚や上司に白い目で見られる、といった不安がどうしても出てきてしまいます。
上田さんのデンマークでの豚肉の買い付けのお話を拝見いたしました。あのようなやり方を、もしかしたら自分でも考えとしては浮かぶかもしれません。ただ、実行に移す勇気が出るかというと想像できません。考えていることを実行する強い気持ちが欲しいです。ご経験の中でのお話、あるいは叱咤激励いただければと思います。
27歳 男性(会社員)
大竹剛(日経ビジネス 編集):今回は、27歳の男性会社員のお悩みです。未経験で採用された中途1年目だとか。それでも、採用活動を一任されているということは、きっと、上司の信頼を勝ち得たんですね。
1946年秋田県生まれ。山形大学を卒業後、70年に伊藤忠商事に入社。畜産部長や関連会社プリマハム取締役を経て、99年に食料部門長補佐兼CVS事業部長に。2000年5月にファミリーマートに移り、2002年に代表取締役社長に就任。2013年に代表取締役会長となり、ユニーグループとの経営統合を主導。2016年9月、新しく設立したユニー・ファミリーマートホールディングスの代表取締役社長に就任。2017年3月から同社取締役相談役。同年5月に取締役を退任。趣味は麻雀、料理、釣り、ゴルフ、読書など。料理の腕前はプロ顔負け。(写真:的野弘路)
ただ、採用活動の一環として学校訪問などをしているのだけれど、従来通りのやり方でいいのかと疑問も持っているようです。とはいえ、何か新しいことをやろうとすると、上司から怒られるのではないか、学校からクレームがくるのではないかと、不安を抱いています。
上田さんのデンマークの話とは、大みそかにデンマークに飛んで、現地の輸出組合のトップをビルの前で待ち伏せして捕まえて、たった一人で交渉したというエピソードですね。ハプニングもあったものの、競合商社からベーコン用豚肉の輸入ビジネスを奪うことに成功しました。その時の機転を利かせた行動に、この相談者はちょっとした憧れを抱いているようです。色々とアイデアは浮かんでいるようですが、それを上田さんのように実行に移す勇気がないとのこと。上田さん、助けてあげてください。
上田準二(ユニー・ファミリーマートホールディングス相談役):デンマークでの話は、なかなか好評だったようだね。だけど、まあ運もあるのだから、それをまねようとしても、いつもうまくいくわけじゃないよ。
それで、今回の相談を寄せてくれた彼は、とにかくやる気はある、頑張りたい、だけど結果を恐れている。失敗したらどうしよう、学校からクレームがきたらどうしよう、上司から怒られたらどうしよう、ということだよね。
結果を恐れるということは、よくあることだ。経営者は「失敗を恐れるな」「前向きにチャレンジしろ」なんて言いますけど、社員からしたら、あれはやっぱり、失敗したら怒られるのではないかと思ってしまうものだからね。
大竹:そう言う上司ほど信用できないということもありますから。
上田:うん。そもそも経営者や上司が「失敗を恐れるな」というのは、方針や戦略が決まっても、実際に現場で戦う兵士、つまり会社なら社員が失敗を恐れてしまったら、もう最初から戦いにならないからなんだよ。ただし、ここで注意しないといけないのは、戦い方、つまり戦術を決めるプロセスだね。これさえ間違えなければ、怒られることはないよ。
この会社の場合、採用が非常にしづらくなってきた中で、いろいろな形で優秀な学生を確保しようと考えているということだよね。それが、おそらく一つの方針、戦略なのでしょう。しからば、その戦略を実現する戦術、つまりやり方としては、何があるかと考える。
例えば、いくら今までの方法では採用が難しいからといって、自分で学校へ行き、手当たり次第に学生を捕まえて、うちの会社へ来ないかと声をかけたら、さすがに学校からクレームも受けるだろうし、いろいろな問題が生じる危険性もある。
こういったことについて、失敗する前に上司なり決定権限者なりに、私はここの大学の学生をできるだけ確保したいので、こういう内容の活動を大学構内でやろうと思っていますと、伝えてみたらどうかね。まず、これからやろうとしていることを、あらかじめ上司に伝えてから実行に移せば、失敗したって怒られることはない。ただ、そういうことを上司に言わないで自分勝手に行動して、失敗したら、それは怒られますよ。
大切なのは、失敗してもいいように、ちゃんとリスクをヘッジしておくことです。ようするに、保険をかけるんだ。
勝手にやっていいこととダメなことの境界を見極めろ
大竹:保険やリスクヘッジですか。
上田:その役目を担うのが、上司であり組織なんだね。だから、上司を保険にすれば、何も怖いものはない。
学校からクレームがきたらどうするかと心配しているようだけど、どこの大学も厚生課や就職課があるはずなので、そこにあらかじめ、上司から正式に「プレゼンに行きたいのですがよろしいでしょうか」と打診してもらう。こうした準備をしないでいきなり行くと、学校からクレームが来たときに、当然、会社から怒られてしまう。
勇気を持って行動しなきゃいけないけれども、勇気というのは、ただアホみたいに突っ込んでいけばいいというものじゃない。その勇気を出すための、きっちりとしたリスクヘッジを、事前にしておかなければいけない。
大竹:上田さんのデンマークのエピソードも、たぶん彼はすこし誤解をしてしまったのかもしれませんね。上田さんは、そういうリスクヘッジの考えなしに、デンマークに突っ込んでいったと。
上田:うん。あれはまず伊藤忠として、デンマークの豚肉取引の扉を開けることが目的だった。そして、Aメーカーと競合商社の取引をひっくり返し、伊藤忠に持ってくるというのが、次の目的だった。
じゃあ、具体的にどういう戦術でこの2つの目的を達成するかというのは、決まっていなかった。まあ、僕が考えろということになっていたわけ。そこで、輸出組合のトップを待ち伏せしたことで、交渉の扉を開けるという、最初の目的は達成できたんだ。しかし、そこから契約にこぎ着ける条件が、年間契約1万2000トンという、従来の戦術にはないものだった。だから僕は急いで本社に国際電話をかけて、事前に許可を取った。
つまり、交渉の扉を開けるまでの手段は、待ち伏せするということだったから、特に許可はいらないし、失敗しても怒られない。だけど、前例がない年間1万2000トンという豚肉取引を勝手にまとめたら、さすがに怒られる。だから、リスクヘッジのために事前に上司に電話をかけた。どこまで自分で勝手にやれて、どこから上司や会社の許可がいるのかという、線引きをきっちりして行動していたんだよ。
大竹:本社に電話をしないで契約書にサインしてしまったら、さすがにマズイ。
上田:待ち伏せして、よし、扉は開いたとなった。扉をこじ開けるという目的で来たんだから、そこで一つの目的は達成したんだ。しかも、ここでサインすれば、もう取引がスタートできる。だけど、そこの部分は、どんな手段でやってもいいということじゃない。
だから相談してくれた彼も、学校訪問して優秀な学生を採用するという目的はいいけど、どんな手段でやるかが、最終的には問われるわけだよ。
大竹:そうですよね。考えていることを実行する強い気持ちは重要だけれども、強い気持ちだけではダメ。リスクをヘッジした、しっかりとした手段、戦術が必要だというわけですね。
上田:そう、手段、戦術を考えましょうよ。
全てを自分で勝手に決めてしまうのではなくて、節目節目で、やっぱり上司に裁定、判断、承認を得ながら続けていくのが大切だな。上司から「それはダメだ」と言われたって、その上司はいろいろとアイデアを出してくるあなたのことを、「あいつ、よく頑張っているな」と評価するはずです。
会社は最終的に味方になってくれるのか?
大竹:その提案が却下されたとしても・・・・・・
上田:こいつ、そこまで必死にやっているのか、とね。
大竹:そんなアホなことを考えるぐらいまで思い詰めて頑張っているのか、と思ってくれるということですよね。だから、考えたことは、どんどん言った方がいい、上司に、周りに。
上田:その通りです。
大竹:その中で、一つでも上司の気持ちを捉えられれば、「よし、やってみよう」となる。だから、恐れず、ただし、しっかりリスクはヘッジする。組織というのは、そのためにある、ということですね。
上田:そうです。
大竹:やはり、最終的に会社組織は自分の味方になってくれるという考えを、サラリーマンとしては持ち続けた方がいいと思いますか。
上田:ええ。基本的に組織というのは、課長代行がおって、課長がおって、部長代行がおって、部長がおる。そういう、ピラミッド型のチームで成果を上げていくということになりますよね。そうした中では、みんなが個人プレーでいいなんていうことはない。
従って、自分はこれをやりたい、ということに出くわしたとき、上司に相談してみることが大切ですよ。課長も部長も、いろいろなアドバイスなり知識なりを与えてくれるでしょう。逆に、20代であるあなたの意見が、上司にとっていい判断材料になるかもしれない。組織とは、そういうものなんだ。
大竹:ただ、上司の中には分からず屋もいるかもしれないですよ。
上田:そうだよね。だからこそ、日頃から味方になってもらえるように、自分から行動しないと。自分から行動すると、味方になってくれる上司は必ずや現れますよ。いつも、仕事をやらされている、という気持ちでいたら、そうした上司とは出会えません。やらされ仕事、やらされ感ばかりを抱いていたら、いい仕事はできないよね。
大竹:組織の中で生きていくには、そこが大切だと。
上田:そう。組織の中で、自ら上司に働きかける。
そうすれば、精神的に楽になるし、自分の仕事が楽しくなってくる。モチベーションが上がっていくんです。あれをやっちゃダメだ、これをやっちゃダメだと怒られる、と心配してばかりでは、仕事はつまらない。しっかりと、上司に相談し、リスクヘッジをしながら、自分のやりたいことを実現していく。今回、相談してくれた彼は、中途入社1年目ながら採用を任されているということは、上司に信頼されているんだな。何も心配することなどないよ。
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