ユニー・ファミマHD相談役、上田準二さんの「お悩み相談」。今回は産休を終えて職場復帰した女性から。引き継いでいた案件が自分の元に戻ってこなくて苛立っています。上田さんは「それはサラリーマンの宿命だ。悩むな」と喝を入れる。
悩み:
産休を終えて仕事に復帰しました。ところが、産休中に引き継いでいた仕事が自分のところに戻ってきません。新たな案件を獲得したくても、育児があるので夜遅くまで仕事ができず、そう簡単にはいきません。どうしたらいいでしょうか?
こんにちは。いつも楽しく拝読させていただいております。4月になり、育休明けで仕事に復帰した者です。世の中では待機児童などで、うまく復帰できていない方もいらっしゃる中、すんなりと復帰できただけでも十分だと思われそうですが、復帰後の仕事について悩んでいます。
もともとは産休に入る1年半前からプロデューサーとして現場を仕切り、やっとキャリアを積み始め、会社に来る案件と私自身に来る案件とを回し始めたところで産休入りになりました。当たり前ですが、会社に来る私の担当案件は、他のプロデューサーに引き継ぎました。そして、育休が開けてみると、どの案件も私のところに引き戻されず、引き継いだプロデューサーが進行しています。
自己都合で休業しておきながら、「自分の案件(売り上げ)が取られてしまった」という思いを拭えないでいます。また、新規で営業して、新たな案件を獲得すべきということも分かっているのですが、もともとコンビニ弁当を食べながら朝から夜中までやっていた仕事です。子供がいる今、夕方に保育園に行って、家事をし、寝かしつけなど、家庭での時間を大切にしたい反面、クライアントがこのような状況にいるプロデューサーと一緒に仕事をしたいと思うとは到底思えません。
会社から「売り上げを!」と言われているわけではないのですが、気持ちと行動の折り合いをうまくつけられない自分がいます。行動を変えるべきか、気持ちを切り替えるべきか、どっちもかもしれませんが、どうしたらいいでしょうか? ちなみに、会社は20人規模のマスコミ業です。
(32歳 女性 会社員)
1946年秋田県生まれ。山形大学を卒業後、70年に伊藤忠商事に入社。畜産部長や関連会社プリマハム取締役を経て、99年に食料部門長補佐兼CVS事業部長に。2000年5月にファミリーマートに移り、2002年に代表取締役社長に就任。2013年に代表取締役会長となり、ユニーグループとの経営統合を主導。2016年9月、新しく設立したユニー・ファミリーマートホールディングスの代表取締役社長に就任。2017年3月から同社取締役相談役。同年5月に取締役を退任。趣味は麻雀、料理、釣り、ゴルフ、読書など。料理の腕前はプロ顔負け。(写真:的野弘路)
大竹剛(日経ビジネス 編集):これまでも産休明け、育休明けで仕事に復帰した女性からのお悩みは、何度かありました。バリバリ働きたい、という思いと、育児にしっかり時間を割きたい、という思いのバランスに関する悩みは尽きませんね。
上田準二(ユニー・ファミリーマートホールディングス相談役):まずは、悩みのスパイラルに入らないことだね。今回の女性も、悩む必要はまったくないよ。そういうことを考えるから、どんどん悩みの枝が広がっていって、深くなっていく。まずは、こんなものは大した悩みじゃないと、自分に暗示をかけなさい。
大竹:暗示をかける。
上田:そう。やっぱり育児休暇を終えて職場に復帰すると、誰しもこういう思いを持つことはあるよ。だけど、こんなものは別に何も気にする必要はないと思うことが第一だね。
それに、誰かに引き継いだ仕事が復帰後に自分の元に戻ってこないというのも、これは当たり前です。復帰したから仕事を返せ、なんて言ったら、相手はどう思いますか。産休中に仕事を引き継いでくれた相手の立場を考えてみてください。
もし、仕事をあなたに奪われたら、相手はあなた以上に、「何なんだ!」と悩みますよ。
誰かに引き継いだ仕事はもう戻ってこない、というのは、仕事の常識だよ。
夜中まで働かなくてはならないというのは思い込みだ
大竹:そういうものですよね、組織で働いていると。
上田:それが“仕事WAY”なんだから、まずはきちっと割り切ってください。
そのうえで、もう1つ。あなたは、家庭の時間を大切にしたいので定時に帰らなきゃいけない、と悩んでいますが、あなたのやっている仕事は本当に残業をしなければできない仕事なのでしょうか? 夜遅くまでクライアントとお付き合いをしなければいけないんですか?
大竹:マスコミ業でプロデューサーと言っているので、映像関係か広告関係のお仕事をされているのかもしれません。
上田:マスコミだから夜遅くまで働かなければならないというのは、単なる思い込み、過去の慣習に縛られているだけなんじゃないの? プロデューサーの仕事というのは、いろいろあるかもしれませんが、本当に深夜までやらなければクライアントが付かないものなのでしょう。プロデューサーの仕事の価値とはなんでしょうか。 少なくとも夜遅くまでクライアントと付き合うことではないはずです。どんな仕事でも、いちばん大事なのは時間の長さではなく、仕事の中身、質ですよ。
大竹:そのとおりですね。時間じゃない。
上田:時間じゃありませんよ。夜中にどうしても急ぎの事案が発生したとしても、電話でもメールでも何ででも、今はどこにいたって連絡はつくわけで、考え過ぎてはいけません。夜、オフィスにいなければプロデューサー業ができないというようなことではないでしょう。それは考え過ぎで、自分で制約を作ってしまっているんですよ。
大竹:要するに、プロデューサーの働き方とはこういうものだと、産休に入る前の自分の働き方を前提に決め付けてしまっていると。
上田:そう。
大竹:そこから抜け出しなさいということですね。
上田:そうです。やっぱりクオリティーの高いもの、いいものであればクライアントは開拓できるわけですよ。それが深夜、夜中まで働かなくてはダメだというようなことは、あなたの考え過ぎです。中身の問題だと思う。
大竹:仕事のクオリティーと働く時間というのがごっちゃになってしまうのは、よく聞く話ですよね。しっかり自分の仕事をこなしている部下に対して、上司が「なんであいつは早く帰るんだ」といった不満を抱くというのは、以前の悩みにもありました。
上田:そうそう。長く働いているやつが偉いみたいな風潮が、多くの職場に未だにあるんだよ。
あなたは、「行動を変えるべきか、気持ちを変えるべきか」と言っていますが、要するに両方変えてください。
産休に入るまでは、コンビニ弁当を食べながら朝から夜中まで働いていたということですが、それは変えないとね。
もちろん、コンビニ弁当は新鮮でおいしくて安全・安心、メニューも非常に豊富だから、私としては大いに食べてほしいんですが(笑)。
それはサラリーマンの宿命だ
大竹:自分で企画した仕事だと、プロジェクト自体に愛着があって、なかなか他の人に引き継ぐことに割り切れない気持ちを抱いてしまうのは、よくあることだと思います。そういう気持ちは、上田さんはどのように割り切ってきたんですか。
上田:特になんとも思わなかったね。自分が手がけた案件1つで、長い会社人生を終えるなんていうことは、あるわけないんだから。案件というのは、常に作っていくものでしょう。成功したら、それはもう終わりなんですよ。
引き継いだ後も同じ案件を1年や2年フォローすることはあるでしょうが、あくまでもどんな案件でも組織の中の1つの業務としてやっていく、それが仕事ですから。
大竹:そうですね。
上田:だから引き継いだ案件に関しては、もうそれで1回区切りを付けて、あなたはまた新たな案件を作っていくんですよ。それがまさに、プロデューサーという仕事でしょう。
大竹:引き継いだ仕事を振り返らない。引き継いだら、もう前を向いて次のことを考えましょうということですね。
上田:そうです。引き継いだ仕事をいつまでも気にしていたり、口を出したりしていては、それは産休中にフォローしてくれた相手に大変失礼ですよ。
大竹:そう割り切れば、もう悩むことはない。
上田:こんなことを悩んでいることが、あなた自身にとってムダです。限られた思考の時間をムダなことに取られています。客観的に、自分を見つめ直してみてください。
大竹:4月に職場復帰したということですが、きっと自分の手掛けていた案件が産休中にしっかり動き始めていて、面白そうに見えたのではないでしょうか。復帰した瞬間は、やはりあまり仕事はないわけですよね。これから作っていかないといけない。そうすると、片やかつて自分が手がけていたプロジェクトが軌道に乗っていたりすると、華やかに見えて気になってしまう。
上田:会社人生というのは、定年までずっとそれの連続ですよ、僕だって入社してすぐに転勤や担当する仕事の変更なりがあったけれども、それ以来、ずっとそうですよね。僕から変わったからといって、それまで担当していた仕事自体が終わるわけじゃないから、当然、誰かが引き継ぎますよ。それがものすごく大きなプロジェクトだったとしても、取られたなんて思ったことはありません。
新たな部署へ行ったら、今度は僕が、それまで他の人がやっていた仕事を引き継いでやるわけです。誰かに引き継げば、今度は誰かから仕事を引き継ぐ、会社人生はその連続です。
サラリーマンにとって、それはもう、1つの宿命的なルーティンなんです。
大竹:サラリーマンである以上、そういうものだと。
上田:そういうものだし、組織で働く以上は、そうあらねばならないんです。もし、この引継ぎがなければ、あなたは産休を取れなかったはずですよ。
そして、家庭の時間があるから新しいクライアントを見つけられないというのは、あなたの思い込みです。あなた自身の気持ちの問題です。そう思って、自信を持って仕事と育児を両立させてください。
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