好評連載中の“ファミマの黒幕”、上田準二さんの「お悩み相談」。連載13回目は、36歳男性(契約社員)の悩み。不正を見つけて内部告発したら、握り潰されて、しかも解雇された。幸いにも別の部署で採用されたが、そんな会社で働き続けるべきか。上田さんは、「まずは社長に直接、手紙を書け」とアドバイス。その真意は?
悩み:「社内で不正を見つけ、内部監査の担当者に通報したが、握り潰されて解雇されました」
契約社員で勤務していた際に、不正を見つけ社内の内部監査担当に相談したところ、不正は黙認され、自分だけでなく同僚の雇用契約も解除されてしまいました。運良く社内に異動先が見つけられましたが、今後の会社との付き合い方を悩んでいます。やはり社外に道を求めたほうが良いのでしょうか。
36歳 男性(契約社員)
大竹剛(日経ビジネス 編集):上田さん、長い間お疲れ様でした。先週の株主総会で、ついにユニー・ファミリーマートホールディングスの取締役を退任なさいました。
1946年秋田県生まれ。山形大学を卒業後、70年に伊藤忠商事に入社。畜産部長や関連会社プリマハム取締役を経て、99年に食料部門長補佐兼CVS事業部長に。2000年5月にファミリーマートに移り、2002年に代表取締役社長に就任。2013年に代表取締役会長となり、ユニーグループとの経営統合を主導。2016年9月、新しく設立したユニー・ファミリーマートホールディングスの代表取締役社長に就任。2017年3月から同社取締役相談役。同年5月に取締役を退任。趣味は麻雀、料理、釣り、ゴルフ、読書など。料理の腕前はプロ顔負け。(写真:的野弘路)
上田準二(ユニー・ファミリーマートホールディングス相談役):ありがとう。これで僕も、自由の身だ。
大竹:とはいえ、相談役は続けるのですよね。最近は、相談役や顧問という肩書に対して、役割が不透明だという指摘もあります。“会社の黒幕”として、院政を敷いているのではないかとか。
上田:そうだね。相談役が現社長の経営判断に口を挟むというのが、相談役制度の問題だということになっている。確かに、一部でそういう人もいるな。OBが相談役になって、いちいち今の社長にああだこうだと圧力をかけたり、制約をつけたり。有名大企業の中でも、そういうことが非常に多かったからね。
大竹:そうですね、ここ最近はそんな話をよく聞きました。
上田:うん。僕はそういうことをやるべきじゃないし、やめるべきだと思うんだよね。僕が社長を退任するには、会社との関係に区切りをつけるんだから、会長だとか最高顧問だとか、そういうことはまったく考えなくて相談役にしてもらったんだよ。会社が決める相談役というのは、一般的に”功労職”みたいなものだから。新体制の経営陣には、きっちりと自分たちの考えで新たな改革をやっていってもらいたいからね。だから僕は、決して問題になるような相談役ではないですよ。
大竹:5月23日に発売した「黒幕引き丼」は、その決意の現れですか。「ファミマの黒幕、ファミマのドン。上田元会長引退の置き土産」として、上田さんが発案したという「ファミチキ」を使った丼ぶり弁当が登場しました。会社自ら「ファミマの黒幕」と上田さんを呼ぶのは、異例の悪ノリだと思いますが、キャンペーン動画に登場する社員(?)は、「もう戻ってこないでくださいね」と懇願しています。
上田:そうなんだよ。あそこまでされたら、もう戻るわけにはいかないだろ。ようするに、黒幕引き丼は社員が僕に突きつけた引導だな。絶対に戻らないよ。さようなら。これからは会社とは決別した人生を歩みます(笑)。
大竹:さようならだなんて、この相談コーナーはやめないでくださいよ。楽しみにしている読者の方々がたくさんいるんですから。
上田:うれしいですね。これは続けさせてもらいますよ。僕の耳にも、いろいろと心待ちにしているという読者もおるらしいということは、風の便りで聞いています。
大竹:ありがとうございます。それでは、いつものように始めさせていただきます。今日の相談は、大企業にお勤めの36歳、契約社員の方からです。社内で不正を発見し、内部監査担当に相談したところ、逆に雇用契約を解除されてしまったそうです。
一度もみ消されたくらいで諦めてはならない
上田:この相談とちょっとポイントがずれるかもしれないですけれども、こういう問題については、倫理法令順守方針や内部報告制度、それから外部の法律事務所にも窓口を設けて対応している会社も多いよね。やっぱり現代の企業のガバナンスの在り方というものは、こういうことを徹底してやっていかないと、いろいろな不祥事が起きてしまう。これは経営トップの意識の問題ですよね。
大組織になってくると、臭いものにはふたをしてしまおうという力が、どうしても働く部分がある。よって、僕は内部告発制度や外部のホットラインに加えて、何かあったら社長に直接メールしろと言ったことがあるんですよ。相談者が報告したという内部監査の人が、どこまで調査をして事実関係を把握しておったのかは知らないけれども、トップに伝える前に止めてしまったということもありえる。まあ、いろいろな企業でトップ自らふたするというところもあるんだけど。
本当にその営業メンバーの不正というものがコンプライアンス上、許されない範囲のものなのか、それとも日常の営業活動の中で必要な部分だったのか、そこら辺はよく分かりません。けれども、仮に明らかな不正だったとして、内部監査担当のところで止まってしまったということであれば、僕だったら社長に直接、メールしますね。
大竹:一度、もみ消されたくらいで諦めるとな、ということですね。
上田:「内部監査の方にご相談を申し上げましたけれども、逆に私たちは配置換えさせられました。どこの部署においても、私たちは一生懸命、契約社員として頑張ります。しかし、やはりこういった不正は、会社がきっちりと防止していく必要があるのではないでしょうか」と、社長に直訴する。
大企業であれば、正規社員であろうが派遣社員であろうが、また契約社員であろうが、そういった法令、コンプライアンス順守ということに関しては、全部同じ対応をしているはずです。
大竹:そうあるべきですね。
上田:あるべきですよ。ただ、僕はこういうようなことは、ほかの会社に行っても、起こり得ることだと思うんです。法令、倫理順守を100%できている会社は、まだないでしょう。
大竹:何かしら、違反はあるものだと。
上田:ええ。だから、この件だけで会社を辞めようと考えず、しばし、様子を見た方がいいと思うね。ただし、自分の正義感を曲げる必要はない。不正にふたをしてしまうような会社で働きたくないということであれば、まず社長にメールしてみることですよ。経営トップの姿勢がどうなのかを確認してから、判断してもいいと思いますね。
不正でなくても、上司には説明責任がある
大竹:上田さんもこれまで、社員からいろいろ相談を受けてきたと思うのですが。
上田:それはもう、これだけ長いこと会社人生をやっているとたくさんあるよ。ただ、告発した人の思い違いということもあるんですよね。その場合も、「お前は何てことを言ったんや」と意見を退けるのではなく、逆にちゃんとそれに対して説明してあげることが必要なんだ。「あなたからは不正行為と見えるかもしれないけど、これは通常の営業活動なんだ」とか。もちろん、明らかな不正のときは、不正をした人は処罰をせざるを得ないし、僕が上司だったとして部下が不正をしていたら、それはもう徹底的に戒める。
大竹:不正でも、不正ではなかったとしても、部下が深刻に捉えて訴えてきたことについては、上司にはしっかりと説明責任があるということですね。
上田:そのとおり。僕はそれが正常な企業のあり方だと思う。社員から訴えがあれば、その内容をきっちりとチェック、調査する。「臭いものにはふた」といった姿勢では、不正の芽が組織内にどんどん芽生えて、それが大きくなっていってしまう。「あの程度は俺もやっていいのか」と、不正は伝染していくんですよ。やっぱり、経営者の立場からしたら、不正は告発してもらわないと。
大竹:経営者自身が不正に手を染めていたら、どうしようもないでしょうけどね。
上田:それはどうしようもないですね。そんな経営者だったら、もうほかで働こうという判断をされてもいいと思いますよ。しかし、まずは経営のトップにメールでも何でもしてみてください。内部告発は匿名でもいいんですから。
実際、この度の経営統合時にも、いろいろなお手紙が来ましたよ。その中のいくつかは、本当に会社を変えていかなきゃいけないと思われる話でしたし、またいくつかは誤解から生じた話でした。そういったことにも全部、真摯に耳を傾けて、問題があれば解いていくのが経営トップの仕事ですよ。
大竹:誰かをはめてやろうということで、怪文書が飛び交うこともありますよね。
上田:そういう陰謀なんかは、余計に経営トップがきっちりと把握し、判断していかなきゃいけない。経営という観点からは、そういうことがトップの耳に入らなくなることが、一番のリスクなんだ。
社長宛に「親展」と書いて出せば、秘書も見ない
大竹:ただ、社内にホットラインがあったり、トップが「直接メールして」といったりしても、実際にはどうやって伝えるべきか、社員は悩むのではないですか。直接伝えたくても、それこそ途中で誰かに見られて、もみ消されるばかりか、報復されるのではないかと。
上田:手紙でもいいんですよ。社長宛に直接、手紙を出せば、大丈夫です。
大竹:社長宛の手紙は、本当に社長に届くのですか。社長室の誰かとか、秘書とか、そういう人が途中で開封してしまうということはないのでしょうか。
上田:僕の場合は、全部届いていたぞ。「こんなものまで読ませるなよ」というものまで届いていた(笑)。
大竹:本当ですか?大会社ともなれば、途中で秘書がピッと開けて、これは社長に上げる、あれは上げない、なんてやっているんじゃないですか?
上田:そういう心配がある場合は、封筒に「親展」と書いて出せば良いんだよ。僕宛に親展というスタンプを押されていた手紙は、普通秘書でも開封しませんよ。秘書が気を使って開けやすいように半分ぐらいまでハサミを入れたとしても、開けるまではないね。
大竹:中を見るということはないと。
上田:ない。
大竹:他の会社でも、同じような状況だといいのですが…
上田:まあ、相談に戻ると、やっぱり経営のトップに、こういった実情を知ってほしいと思う気持ちは、僕は大事だと思う。親展で、しかも匿名でも結構だから、手紙を出してみたらどうですか。それによって社内の動きが少しでも変わるようであれば、法令・倫理順守という経営者の意志があると判断したらいいでしょう。逆に、何のリアクションもなければ、あなたの正義感からして、こんな会社では働きたくないと判断してもいい。
大竹:不正があるのではないかと思ったら、臆せず、匿名でもいいからトップに親展で手紙を出そうということですね。ちなみに、日経ビジネスにも情報をお寄せいただければ、責任を持って調査します。
上田:経営トップからしたら、先に日経ビジネスにタレコミをされては困るけどね(笑)。
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