関西出身の女房vs東北出身の料理人

大竹:奥さんが、料理のうまい上田さんに遠慮していただけではないのですか。

上田:いやいや、当時は本当にひどかったんだよ。味噌汁やうどんでも、ことごとくダメ出しをしたね。

 実は、妻は関西出身だから、そもそも味噌汁は白味噌が主流だし、僕の方はうどんといえば味噌ベースの味の濃い鍋焼きうどんだったから。そもそも東北出身の私とは文化が違ったの。今では、悪いこと言っちゃったなと反省しているんだけど。さすがに結婚して2〜3カ月したら、「だったら、あなた作ってみてよ」となったんだ。「望むところだ。俺が作ったら、お前なんかな、毎日俺に作ってくれと言うぐらいうまいぞ」と、こう言ってしまった。「そうですか、ならやって見せてください」となって、今に至る(笑)。

大竹:そこからですか。

上田:そこから買い物にもついて行くようになった。というよりも、むしろ連れて行くという感じだな。「じゃあ、ちょっと魚を買いに行こう、肉を買いに行こう」という具合に。

 それで買いに行くと、「これを買え、あれを買え」と指示をする。「お父さん、これどうするの」と聞かれても、「いいからこれを買え」と。

 「いやお父さん、切り身で買った方が手間が省けるわよ」

 「ダメ、魚の鮮度が落ちるだろう」

 「こんな魚、見たことないわよ。どうやって食べるのよ」

 「いいから黙って買うんだ」

 そんなやり取りを繰り返して、家に帰ると台所で僕の後ろに女房を立たせて、僕が料理をする。「これはこの皿の上に並べろ」「これはあっちの皿に乗せろ」「これは鍋に入れろ」「これには塩を振っておけ」「これは酒に漬けろ」とか言いながらね。

大竹:奥さん、泣かなかったですか。厳しく言われた挙句、完全に上田さん言いなりになって。

上田:いや、よくよく考えると、僕は女房にはめられちゃったんだな、たぶん。「お父さん、あなたは天才的ね。こんなおいしい料理食べたことなかった」とか言うわけだよ。失敗したかなと思っても、「おいしい」と言うんですよ。「あなたなんかもう、伊藤忠を辞めて、私と料理屋をやった方がいいわね。私はね、その料理屋の女将でずっとやっていくから」とか言うのね。もう、こっちも「うん?そうか?」なんて、その気になっちゃう。

大竹:奥さんの方が、一枚上手だったと。

上田:うん。朝食だってね、いろいろあった。

 僕が、「朝ごはんはあっさりでいい。納豆と味噌汁と漬物とご飯でいいから」と言ったら、びっくりした顔をして「あなた、納豆なんか朝から食べるの?」と聞くんだよ。関西の人は納豆が嫌いなのは知っていたけど、あまりにも反応が不自然だったので「いいから買ってこい」と。

 で、翌朝、食卓を見てびっくりしたよ。味噌汁とおしんこ、そして皿にはなんと甘納豆が載っておったんです。

 「これ何だ!」

 「あなたが納豆だと言ったじゃないの」

 「これは甘納豆だろうが」

 「甘納豆とも言いますが、私らは納豆と言ったらこれを指すんです」

 「こんなもの、ご飯のおかずになるわけない」

 「だから、私もこんなもの食べるの?と聞いたじゃないの」

 もう、朝からケンカですよ(笑)。

大竹:まるで漫才ですね(笑)。

上田:いや、お互い本気でしたよ。

 というわけで、話がそれましたけど、料理を巡って僕は女房と結婚してから数カ月の間、もめにもめたわけです。それで結局、僕が作るところを見せたら、やたらと褒めるもんだから、豚もおだてりゃ木に登る。週末のたびに、「あなた、今日は何料理?」「じゃあ、材料を買いに行くか」と、完全に僕は女房の操り人形になったわけです。

 そこから本当に、自分自身も料理にちょっと工夫を凝らすようになりました。

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