ユニー・ファミマHD相談役、上田準二さんの「お悩み相談」。今回は外資系を渡り歩き、現在は“昭和な会社”で孤立してしまっている女性から。上田さんは「昭和の良さはインタレスティングだ」とアドバイス。そのワケは?
悩み:外資系大手3社を経て昭和な会社で働いていますが、上司の転職を機に孤立してしまっています。部下との信頼関係は薄く、このまま居続けるべきか、悩んでいます。私が今、一番すべきことは何でしょうか。
外資系の、いわゆる大企業といわれる会社を3社渡り歩き、現在の会社に営業事務課長として仕事を始めて3年目になります。現在の会社も外資のグループ傘下になり、はや10年以上経っています。しかし、まったくの昭和な会社で、いまだに日々、驚くことばかりです。
4年前に引き抜かれて会社のトップになったGM(ゼネラルマネジャー)が、売り上げの不振や離職率が昨年15%にもなったことなど様々な理由から、今年になって更迭されてしまいました。GMが要求するデータを出したり、レポートを作成したりすることがメーンの仕事だった私は、完全に会社から孤立した状態になってしまいました。
残念ながら部下との信頼関係も薄く、このまま会社に居続ける気力がありません。とはいえ、せっかくご縁があって入った会社をこのまま去るのはもったいない気もいたします。この状況を打破すべく、私が一番にすべきことを教えていただければと思います。
(45歳 女性 会社員)
1946年秋田県生まれ。山形大学を卒業後、70年に伊藤忠商事に入社。畜産部長や関連会社プリマハム取締役を経て、99年に食料部門長補佐兼CVS事業部長に。2000年5月にファミリーマートに移り、2002年に代表取締役社長に就任。2013年に代表取締役会長となり、ユニーグループとの経営統合を主導。2016年9月、新しく設立したユニー・ファミリーマートホールディングスの代表取締役社長に就任。2017年3月から同社取締役相談役。同年5月に取締役を退任。趣味は麻雀、料理、釣り、ゴルフ、読書など。料理の腕前はプロ顔負け。(写真:的野弘路)
大竹剛(日経ビジネス 編集):今回は、昭和な風土が強く残っている会社で浮いてしまっている、元外資系社員の方からの相談です。会社を辞めるべきかどうか、悩んでいます。上田さんは、かなり昭和体質でしょうから、今回の相談者のような悩みを抱えたことはないでしょうね。
上田準二(ユニー・ファミリーマートホールディングス相談役):孤立したというのは、かわいがってくれていたGMがクビになったから、その部下として雇われた自分が浮いてしまったということ?
大竹:そうですね。
上田:それは、そういうことは多少あるかもしれないけど、あなた自身の思い込みだな。
大竹:孤立しているというのが、思い込みということでしょうか。
上田:そう。この人は、営業事務課長でしょう。
大竹:そうですね、3年やってきていると。
上田:営業事務課長という職におって、上司のGMが代わろうが何だろうが、やっぱり組織で仕事をしている以上、事務課長という仕事はあるんじゃないのかな。
GMが代わったから、じゃあ、事務課長が仕事をしなくていいとか、孤立するだとか、そういうことで仕事は回るのかな。だから、本人が思い込み過ぎているんじゃないかと思う。そこをもう一度、自省してみてください。
外資系気質vs昭和系気質
大竹:今置かれている状況なり仕事なりを、もう一度冷静に見たほうがいいということでしょうか。
上田:営業事務課長というのは、やっぱり必要な業務なんじゃないのかな。今まで通り新たなGMの下での事務課長としての仕事をきっちりとまずこなして、それでなお、冷たくされている、仕事が回ってこない、やらせてくれないということであれば、転職を考えてもいいかもしれない。だけど、まだ決めるのは早いのではないかな。
大竹:まず新しいGMと信頼関係を築く、それも必要ですよね。
上田:そう。新しいGMの方針なり、仕事の仕方なり、これを逆に事務課長としてサポートしてやると。その姿が部下に対する信頼にもつながってくるよね。
大竹:部下からの信頼も薄いと書いています。これまで外資系の大企業を3社渡り歩いてきたバリバリの外資系気質の持ち主なんだと思いますが、昭和っぽい、日本的なカルチャーの会社の中では浮いてしまっているのではないでしょうか。
上田:そういう面もあるだろうね。「あなたたちのやり方はおかしい」と部下たちに対して思っているのかもしれない。
大竹:「まったくの昭和な会社で、いまだに日々、驚くことばかり」とも言っています。おそらく、「昭和的な会社」に対して、ちょっとバカにしてしまっているようなところもあるのかもしれません。
上田:ああ、そうかもしれないね。外資系の働き方が普通の職場、社会環境だと思っていて、外資傘下のこの会社もきっと同じだろうと思って転職してきたけれども、実際は極めて日本的な、昭和な会社だったと。
きっと、この上司だったGMは引き抜かれてきたということだから、おそらく、彼女と似たような外資系気質の方だったのかもしれない。だとすれば、外資系気質と、昭和気質の社員の間で溝ができてしまっていた可能性はあるね。
そういうことであれば、まずあなた自身が、昭和な会社というのは非常にインタレスティングだと思って、その環境に積極的に入ってみるのも、いろいろ考えるきっかけになると思う。「ああ、昭和のムードというのは素晴らしいね」と、昭和社員の輪の中に入っていってみてください。きっと「昭和ムード」の中にも、あなたが知らなかった素晴らしい面が見えてくるかもしれない。
昭和は意外とインタレスティング
大竹:これを機に、昭和を思い出す。この女性も昭和生まれですから、響くところがあるかもしれません。
上田:昭和な会社というのはインタレスティング、面白いねと。外資系とは違うけれども、いい面もあるねと。
まずは、昭和的な会社の長所に目を向けて、そこに興味を持って、そして今のポジションの業務をきっちりとやっていくということを1回トライしてみてください。
大竹:これまでの3年間はそうじゃなかったけれども、これを機に、ですね。
上田:僕、最初にこの相談を読んだ時、正直、よく意味が分からなかったんですよ。僕自身が完全に昭和だから、かわいがってくれた上司がいなくなったという理由だけで完全に孤立するという状況が、今ひとつ想像できなかった。
だけど、外資系と昭和系で職場の溝があったのなら、上司がいなくなったのを機に、あなたがまずは昭和に寄り添ってみるのも、突破口になるかもしれないよ。
昭和を嫌うのではなく、昭和の長所なり、利点なりを、インタレスティングだという気持ちを持って、仕事をしてみてください。それでも、やっぱりもう無理だ、というのであれば、その時はまた、次を考えたらいいでしょう。
大竹:そうですね、もう転職は慣れているわけですからね。
上田:この状況を打破すべく、私が一番にやるべきことを教えてください、というのが相談なので、今回の答えは、「昭和は意外とインタレスティング」と思うことだよ。
大竹:そういう視点で相談を読み返すと、「せっかくご縁があって入った会社をこのまま去るのはもったいない」とも感じているということは、昭和的な職場の居心地の良さも勘付いているのかもしれません。
上田:僕のように、昭和に染まるまでもう一息だ(笑)。
大竹:上田さんから見ると昭和の良さはなんでしょうか。
上田:昭和の良さ、それは、みんな前向きだったことだよ。とにかく将来に向かって、今より良くなる、今より良くなると信じて、働いてきた。
大竹:なるほど。
上田:昨今の世の中、この先どうなるんだろうと不安も多くなっているけれど、昭和はもうとにかく、みんなワーッとやっていれば先は良くなる、給料は上がると思っていた。
大竹:ある意味、うまくすればそういうマインドを引き出せるのが、昭和な会社のいい面だ、ということでしょうか。
上田:そうだと思うよ。そういうエネルギーを引き出すのが、上司の役目だな。
なにしろ、昭和は何事も「みんなで渡る」という世界だったからね。
大竹:「みんなで渡る」という感覚は、個々人の働き方が重視される外資とは正反対でしょうね。
上田:まあ、みんなで赤信号を渡ってしまってはダメなんだけど、昭和の感覚が残っている組織なら、そういうエネルギーを引き出していくことも、一つのやり方なのではないかな。
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