好評連載中の上田準二さん(ユニー・ファミリーマートホールディングス相談役)の「お悩み相談」。連載9回目は、入社2年目を迎えたばかりの24歳の女性(会社員)の悩み。最重要取引の営業担当として地方に赴任。しかし、その「ド田舎」の環境に馴染めず、会社を辞めたい。そんな女性に、上田さんが「喝」を入れる。
悩み:「田舎が嫌い」という理由で転職してもよいでしょうか
「勤務地が死ぬほど嫌い」は転職理由になりますか。私は24歳、社会人2年目を迎えた営業です。1年目から重要取引先を担当に持ち、先方の本社に近い田舎へ転勤になりました。友人もいない(できない)、パッと見る景色から得る情報がない、取引先が巨大過ぎてほとんど末端の仕事しかしていない、田舎過ぎて結局大型案件のある都内へ毎週のように通う、など。オンでもオフでも、どちらを考えても、こんな田舎で暮らしているのがアホらしく思ってしまいます。正直、自分の中では会社を辞めようと答えが出ていますが、非常に良くして下さっている上司を思うと、辞表を出す踏ん切りがつきません。上田さん、自分の人生に責任を持つための喝を入れてください。
24歳 女性(会社員)
大竹剛(日経ビジネス編集):上田さん、怒らないでくださいよ。「田舎者」を自認している上田さんにとっては、「田舎での暮らしがアホらしいから転職したい」などという相談は、理解しがたいでしょう。
1946年秋田県生まれ。山形大学を卒業後、70年に伊藤忠商事に入社。畜産部長や関連会社プリマハム取締役を経て、99年に食料部門長補佐兼CVS事業部長に。2000年5月にファミリーマートに移り、2002年に代表取締役社長に就任。2013年に代表取締役会長となり、ユニーグループとの経営統合を主導。2016年9月、新しく設立したユニー・ファミリーマートホールディングスの代表取締役社長に就任。2017年3月から同社取締役相談役。趣味は麻雀、料理、釣り、ゴルフ、読書など。料理の腕前はプロ顔負け。(写真:的野弘路)
上田準二(ユニー・ファミリーマートホールディングス取締役相談役):この方は、女性なの?
大竹:女性ですよ。
上田:勤務地が死ぬほど嫌い、というのが転職理由になりますか、と?
大竹:喝を入れてください、と上田さんにお願いしています。きっと、この女性は上田さんに叱られたいのかもしれません。
上田:この、東京者がー!とか(笑)。
大竹:東京出身かどうかは分かりませんが。
上田:他の会社でもいいですが、彼女が会社員としてキャリアを伸ばしていきたいという意識があるのであれば、今の経験はいずれ彼女の力になるよ。最大の取引先の本社への営業を担当しているというのは、上司も期待してのことだろうし、彼女にとっても重要取引先の内部事情なり、本社の構造なりが一番よく分かる機会だから。
もしくは、3〜4年働いたら、まあ、恋愛でもして結婚して。あるいは自分が好きな個人営業でもやって生きていくということなら、田舎が嫌だという理由で辞めても結構だと思うけれども、彼女はそれで本当にいいのかな。「喝を入れてください」と僕にお願いしてくるということは、きっと本心はそうじゃない。
この会社でキャリアを積んでいくんだという意思があるのなら、僕は逆に田舎での生活の楽しみを見つけながら、業務上も最大取引先のすべてを知るチャンスだと思ってやるべきだと思うね。
僕なんかは、田舎とは言えないかもしれないけれども、東京本社に配属されて1年目で大阪に行かされて、5年大阪で仕事をして、次はシカゴに行ってシカゴで2年ぐらいだったかな。それで東京、それから茨城に工場を持っている食鳥処理会社に行ったんですよ。
大竹:食鳥処理会社?
上田:ようするにブロイラーの処理・卸販売会社で、その会社に出向したんです。伊藤忠の本社は青山。オシャレな街ですよね。そこから比べると、だいぶオシャレさは劣る場所でしたが。
大竹:青山と比べると・・・。
上田:まあ、男と女は違うからね、何をオシャレと思うかは。そもそも、僕ら男はオシャレだろうがなんだろうが、関係ない。
大竹:少なくとも、上田さんには関係ないでしょう(笑)。
「キラキラ女子」に都会も田舎も関係ない
上田:ともかくだ、僕はまず、彼女が社会人として、会社人としてキャリアを積んでいきたいのであれば、もう少し頑張ってみることだね。ただし、彼女がずっとそこにいるというのが心配なのであれば、上司に期限を区切ってほしいとお願いしてみなさい。2年なら2年、3年なら3年と。
大竹:とりあえず、希望が聞き入れられるかどうか分からないけれども、言ってみると。
上田:まず、意思表示をしてみないと、何も始まらない。まだ彼女は24歳なんだから、2年、3年そこにいたってまだまだ若い。やっぱりそこで人間を磨けば、女性としての魅力にも磨きがかかってキラキラしてくる。そう、キラキラ女子だ。
大竹:キラキラ女子には、都会か田舎かは関係がないということですか。
上田:もちろん、全く関係ないね。僕なんかオシャレな青山から、入社1年目、2年目に「そやんけ」「そやろ」という言葉が飛び交っている大阪に行ったんですから。あそこは決して、都会じゃなかったですよ(笑)。
大竹:いいんですか、東北出身の上田さんが大阪を都会じゃないと言い切って。
上田:まあ、確かに東北から見れば、どこに行っても都会になっちゃうか(笑)。
大竹:きっと、この女性は学生時代も都会で過ごしたんでしょうね。
上田:そうだろうね、たぶん。だからこそ、田舎に行ったら田舎でのプライベートライフは違った楽しみ方もできるということも経験したほうがいいね。
大竹:勤務先の田舎から、仕事のために頻繁に都内に帰ってきているのも不満のようです。こんな仕事の仕方は非効率だと。
上田:だけど、僕は逆に上司が彼女のことを配慮して、都内に戻ってくる機会を与えているんじゃないかと思うんですよね。「毎週帰ってきていいよ」なんていうのは、上司の優しさでしょう。考えてもみてください。仕事のために地方に赴任しているのに、毎週東京に帰ってきているなんていったら「ふざけるな」となるのが普通ですよ。
だって入社2年目の人が、大手の取引先に派遣されて、しかも毎週東京に戻ってこられるなんて、何という好待遇。毎週戻ってくるのが大変だというのであれば、月2回か1回にしてくださいと上司に相談してみてください。喜んで受け入れるんじゃないかな。
さっきも言ったけれど、まずははっきり自分の意思表示をするべきだね。それを悶々と考え込んで、仕事がはかどらない、成果も出ないということでは、取引先にも会社にもいいことではないから。
この女性は、僕に喝をいれてほしいんだよね。
大竹:はい、自分の人生に責任を持つための喝を入れてくださいと、上田さんに期待しています。
この、東京者が!
上田:「入社3年間というのは、いろいろなチャンスをもらえるんだ。この期間は、自分がもっとステップアップしていく、成長していくためのステージだと考えなさい。楽しく都会で遊んでいたら、ステップアップなんかできないぞ。この、東京者が!」
大竹:やはり、決め台詞はそれなんですね(笑)。
ただ、少し気になるのが、田舎が単に嫌いなのではなく、「死ぬほど嫌い」と強調しているところです。景色も嫌いだと。相当な嫌悪感です。「会社を辞めようという答えは出ている」とも言っていますよ。そんな彼女が、前向きな気持ちに変われますか。
上田:どこの田舎なんだ、これ。気になるな。
大竹:そこまでは、情報がありません…
上田:本当に、そんなひどい田舎があるのかね。
大竹:感じ方は人それぞれですから。
上田:食べ物と一緒だよ。納豆が嫌い、嫌いと言いながら、実は食べたことがないとか。食わず嫌いなのかもしれないよ。それとも、本当に思い出すのも嫌な体験をしたことがあって、それがトラウマになっているというぐらいのことなら、上司にはっきり言いなさいと。
例えば、高校時代にひどいやつがおって、ぞっとするような目に遭ったとか。その場所が、修学旅行で行った田舎で、田舎に行くたびにそのときのことを思い出して具合が悪くなるとか。
その死ぬほど嫌いという思いが、食わず嫌いなのか、それともトラウマなのかで、結論は違ってくる。食わず嫌いならもう少し頑張る、トラウマがあるのであれば、それを上司にはっきり言う。
大竹:末端の仕事しかしていないという不満も、1年目ですからある程度は仕方がない。
上田:ええ。どんな超一流企業でも、入社3年間は基本中の基本、やっぱり現場のルーチンの仕事をまず最低限取得してもらうための期間だと位置付けているよ。だから、そういう仕事が向いていないのなら、私がさっき言ったように、都会で結婚して、旦那と一緒に幸せに暮らすのか、あるいは自分で自営業をやるか。
でもまだ24歳でしょう。末端の仕事ばっかりというのは、だいたいどの会社も一緒ですよ。僕なんて毎日、港に行って船積みの手伝いをさせられたり、取引先に集金に行ったり、こんなパシリみたいな仕事ばっかりでしたよ。
大竹:彼女が何かのトラウマで田舎嫌いになったわけではないことを祈りましょう。
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