専門知識なんていらない。必要なのは計画と復習

上田:ようやく、ここで相談の回答に話が戻ってくるんだが、みんな優秀な人ばかりで、休みなしに働く。でも、僕はもうこれで1カ月仕事しないと決めたんだよ(笑)。まあ、そこまでやるとちょっとやり過ぎだから、赴任していたアメリカにちょっと挨拶に行くことにした。だって、アメリカにいる先輩たちは、もう怒って僕に国際電話をかけてくるんだから。

 デンマークで1200トンの豚を上田が買い付けしたということは、Aメーカーはアメリカの豚肉をその分だけ買う余力がなくなったということになるんですよ。

大竹:なるほど、そういうことですね。

上田:アメリカの駐在員からしたら、何ということをするんだと。アメリカ時代にお世話をしてやったのに、上田は恩を仇で返すのかと。

 それで、「お詫び」と称してヨーロッパからシカゴに飛んで、1週間ぐらい何もせずに遊んでいた。僕はあまり無理しないの(笑)。

大竹:いやいや、1200トンの契約をとるまでの行動自体は、かなり無茶をしてますよ。

上田:そう見えるでしょう。でもね、自分としては最初から、何日以内にこれとこれはやると決めて準備をしていたことだから、別に頑張り過ぎてはいないんだよ。総裁も実は最初から捕まえてやろうと思ってデンマークに行ったわけだし、あった時の交渉の仕方だって、頭の中で準備をしていた。

大竹:その準備の過程で、専門知識は必要なかったのですか?

上田:専門知識があったって、この商売が決まったと思う?

大竹:上田さんだから、まとめられたのかもしれない…。

上田:だって、担当じゃなかったんだから専門知識なんてない。デンマークの豚肉事情だとか、ヨーロッパの取引慣行だとか、全然知らない。デンマークの豚をやったことがないから、そういった人々とも会ったこともない。コネクションもゼロ。

大竹:でも、道は開けた。

上田:そう。もちろん、B商社にAメーカーの担当者を拉致されちゃったのは、誤算だった。でも結局、僕のやることはあまり変わらなかったんだよ。

 大事なのは、何でそうなったのか復習をして、打開策を練ったこと。それが、オフィスの玄関で朝、待ち伏せするということ。そんなに難しいことじゃない。「復習」って言っても、相手をやっつける「復讐」じゃないよ。結局、B商社に対しては、それに近い結果になったけど(笑)。

 今回、相談してくれた彼女に言いたいのは、毎日悶々と仕事の成果なり結果なりが出ないことを長々と続けていく必要はないということなんです。できないことは、もう区切りをつける。私がやるのはここまでと。そういうものは、もうずるずる残業したからできるというものじゃないんだから。

 僕はデンマークに行けと言われたときに、専門知識をそこから身に付けて勝負をしようとは、全く思わなかった。どうやったって、デンマークポークの専門知識においては、Aメーカーの担当者にも、B商社の担当者にも勝ち目はないから。だから、自分ができることを、期限を決めて、ようするに大晦日に出発して正月の最初の1週間くらいだけでケリをつけると決めてやった。

大竹:伊藤忠の周りの優秀な人たちも、そもそも、上田さんが契約を取るなんて期待していなかったし。

上田:そう。周囲だって、自分が思うほど期待していないんだよ。だから、頑張り過ぎて自分自身を追い込んじゃダメなんだ。周りだって、それほどあなたを追い込もうなんて思っていないよ。言われたことを、自分なりにケジメを付けてきちんとやり遂げれば、それでいいんです。

 自分の資質、能力、キャパがどれくらいのものかを考えず、周りの優秀な人と同じところまでやらないといけないと思ってしまうと、プレッシャーに押しつぶされてしまうよ。だから、まず1回自分のキャパをしっかり、自分で判断してみましょうよ。その自分の等身大の姿に、正直であることが大事なんです。

 それで、そのことを周りの人にも上司にもきっちりと伝えましょう。自分の能力を正直にさらけ出せばいいんですよ。

大竹:そうすれば、目の前の仕事が怖いということもなくなるんでしょうね。

 ちなみに、それでシカゴで遊んで東京に戻ったら、上司の反応はどうだったんですか?

上田:これがひどいんだよ。僕がアメリカで遊んでいる間に、デンマークの王女様が日本に来てレセプションを開いたらしいんですよ。そのレセプションで、デンマークの輸出振興に多大なる貢献をしたということで、Aメーカーと伊藤忠が、何とか賞というのをもらったんです。

 それで僕が戻ってきたら、伊藤忠の部長は何と言ったと思いますか、Aメーカーの部長に?

 「この商談をまとめるために、うちの部ではこいつしかいないという一番優秀な上田をアテンドさせました」と(笑)。

大竹:調子が良いなぁ。

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