ライバル商社に出し抜かれ、絶体絶命の危機

上田:ええ。来たんだよ。かっこいいジェントルマンが、美しい女性秘書を連れてね。クルマを降りてきて、僕のことをぱっと見ると、向こうから歩いてきた。秘書が「何なんだこいつは」という感じで「Who are you ?」と聞いてくるから、「私は伊藤忠の上田で、日本から豚肉の買い付けに来たんだ」と。

 「Aメーカーが商談に来ると言っていたけど、それはあなたか?」(秘書)

 「私がアテンドして来た」(上田)

 「え? それはB商社じゃないのか」(秘書)

 「いえいえ、伊藤忠です」(上田)

 「だけどAメーカーはB商社が担当ではないのか。何で伊藤忠が来るんだ」(秘書)

 「Aメーカーは今年から私とやることを決めて一緒に来たんだ」(上田)

 「本当に決めたのか」(秘書)

 「私と取引を開始しようと思わない人が一緒に来るわけがないでしょう」(上田)

 「だけど、彼らはうちの主力工場のところにB商社と一緒にいるよ」(秘書)

 「ん????」(上田)

大竹:とんずらしたと思っていたAメーカーの担当者は、上田さんを騙してB商社と一緒に行動していた、ということですか?

上田:そうなんだ。B商社を出し抜こうと思って多少、ハッタリをかましていたら、実は僕が騙されていた(笑)。

大竹:ひどい…(笑)

上田:ただ、そこからまさかの大逆転が始まった(笑)。

 その総裁が、今、オフィスには誰もいないし、年頭の方針発表の原稿を書きにきただけだから、まあとにかく中に入ろうと誘ってくれたんだ。部屋で話し始めると、テーブルの上に小さな日本の国旗とデンマークの国旗を交差して置いてくれて、すぐに宴会が始まった(笑)。生ハムやチーズ、ワインとかを、ものすごく美人の秘書がワゴンでだーっと運んできて。それでこっちも気分が良くなって、適当にあれこれ話していたら、総裁は「ミスター上田は根性があるな」と思ったんだろうね。

 伊藤忠は指定商社じゃないのに、Aメーカーについてきて自分が商談するというんだから大したものだと。それで後日、商談に応じてくれることになったんだ。だけど、本当にAメーカーはそういう気持ちはあるのかどうか、それが疑問だなと言うわけ。

大竹:上田さんの約束を破ってとんずらしていたわけですしね。

上田:結局、その担当者とは3日間ぐらい連絡取れないしね。置き手紙はありまたしよ、ちょっと用事が入っているので3日間ホテルに戻りませんと。結局、その担当者はB商社に裏で拉致されて、ほとんどもう裏契約みたいなことをされているという状況だった。

 それで僕と総裁の商談の日。総裁がこれは重要な取引であると切り出してきた。事前の交渉がどうなっているかは関係がない。これはデンマーク王女の今年最初のビジネスになると。当時、王女は輸出組合の名誉理事長か何かだったんだね。

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