上田流「3日寝ないで働き、2日はズル休み」のススメ

上田:さっきも言ったように、まず、上司に自分の計画を宣言するんですよ。40歳ぐらいまでは、「3日以内にあそこの取引先を、競合商社から全部、私が奪ってきます」とか、だいたい宣言していた(笑)。

 そう言ったら、3日間、寝ない覚悟で取引先の社長を追い回す。朝までカラオケ、しまいには「うちで飲んで行ってくれ」と自宅に呼んじゃう。別に賄賂とか癒着じゃないよ。けど、しつこいな、だけど、お前の話は面白いな、と思ってもらうまで、徹底的にやる。要するに、さっきも言った対人関係で徹底的に勝負する。それで最後には「まあ、伊藤忠の上田でやるよ」と言ってもらう。

 3日間、寝ないで仕事をしたら、そのあと2日ぐらいは会社に行かない。1日目は布団から出ない。2日目はスーパー銭湯にでも行ってリラックスする。出社は3日目から。

 当然、「上田、お前は何だ」となるよね。ウィークデーに2日間も休みやがって、何様だと。そう言われたら、「違うんです、僕は3日で1週間分、目を開いていました」と言い返していた。だから、「今週は終わりです」と(笑)。

大竹:やっぱりモーレツだ。でも上田さん、3日間寝ないで仕事をするなんて、もう、今では会社は認めませんよ。

上田:もちろんそうでしょう。働き方改革の時代だからね。これはあくまで、昔の話ですよ。CMでもあったでしょう。「24時間戦えますか」。そんな時代でのことです。

 ただ、ここで僕が言いたいのは、人にはそれぞれ、違った働き方があって、それぞれの強みも異なるということ。だから、この彼女も周囲と同じ働き方で勝負しようとしないで、そのことを上司にもしっかり伝えたほうがいいよ、ということなんだよ。

 僕の場合も、自分が勝負できるのはまさに、彼女がそれで乗り切っているという対人関係でしかなったよ。専門知識じゃなくてね。そういう働き方を上司に宣言したら、上司は最初、お前は生意気だと言っていたよ。けど、次第に上司もむしろ、僕を使いやすくなったんだろうね。誰が行ってもダメそうな商談を、「お前行ってこい」とどんどん任されるようになった。

 特に商社みたいな会社の場合、取引先の方が専門知識じゃ上だからね。僕がいた食肉業界だって、専門知識ではメーカーの方が当然、たくさん持っていますよ。

大竹:専門知識がなくても勝負できるのは、よほどの話し上手か聞き上手か、いずれにしても高いコミュニケーション力が必要なのではないですか。言うは易く行うは難し、ですよ。

上田:確かにそうかもしれんが、専門知識がないなら、そこで勝負しても仕方がないんだから。

 こんなこともあったな。僕はあるとき、デンマークにベーコン用の豚肉を買い付けに行ったことがあるんですよ。

大竹:デンマークに、ですか。

上田:そう。年末、除夜の鐘を聞いてからモスクワ経由でコペンハーゲンまで行って元旦に着いた。ある大手Aメーカーさんがベーコン用の豚の買い付けに行くのに、同行したわけですよ。実はそのAメーカーさんは、それまでデンマーク産の豚肉は競合商社から買っていた。伊藤忠はゼロ。そこをひっくり返すというのが、僕に与えられたミッション。

 ヨーロッパの人は、年末年始はバカンスに行くのが普通だけどね、さすがにデンマークの輸出組合のトップとなると年末年始でも本拠にいるわけですよ。そこへ、Aメーカーの担当者と押しかけようという話だった。ところが、翌朝ホテルに迎えに行くと、その担当者がいない。もぬけの殻なんですよ。

 コペンハーゲンについた初日、その担当者が正月なので日本食が食べたいというから、僕は必死に探したわけですよ。電話帳をひっくり返して、ジャパニーズレストランを。そうしたら、たまたま日本食の店をやっている明治生まれのおばさんがおったのよ。

 「あなた、元旦に日本から何しに来たの?」と目を丸くして聞くから、「いや、実は豚肉の買い付けで来たんだけど、私の連れが餅を食わせろとか、年越しそばをまだ食ってねえとか、いろいろ言うから何とかしてほしい」と頼み込んだ。それで、1月10日まで休みだった店をわざわざ開けてもらって、その担当者と一緒に押しかけたんですよ。それなのに翌朝、その担当者を迎えに行ったらいないんだ。

 しょうがないから、僕は1人で輸出組合のヘッドクオーターに行ったんですよ。正月でも、絶対に総裁は出て来るはずだと思って、玄関で1人で待つことにしたんです。

大竹:記者の「夜討ち朝駆け」みたいですね。それで、来たんですか?

次ページ ライバル商社に出し抜かれ、絶体絶命の危機