ユニー・ファミマHD相談役、上田準二さんの「お悩み相談」。今回は入社3年目の広報担当の女性から。自分の思いを伝えるのも相手の意見を理解するのも下手だと悩んでいます。そんな彼女に上田さんが「自己嫌悪に陥るのはムダ」とエールを送る。
悩み:新卒入社2年目(相談受付時点)、広報を担当しているにもかかわらず、自分の思っていることをうまく伝えることも、相手の意見を正しく受け止めることもできずに腹が立ちます。私はどうしたら正しく伝え、相手の意見も正しく受け止められるのでしょうか。
いつも楽しく拝読させていただいております。新卒で入社して2年目になりますが、人とのやり取りがうまくいかず困っています。私は社内の広報部門におり、広告関係全般(画像の編集や広報文の作成)を行っているのですが、上司や他の方と意見を交わす際に自分が思っていることをうまく伝えられなかったり、相手の言っている意味を正しく理解できなかったりすることが多いです。いわゆる雑談をする際は特に問題なくコミュニケーションが取れていますし、むしろ上手な方というありがたい評価もいただくのですが、仕事のことで意見を交換する場になると途端にうまくいかなくなってしまうのです。
例えば○○という企画に対してA案とB案とC案があるとすると、一度自分の中でA案とB案とC案を比較検討して自分は最終的にA案が良いと思った際にも、B案とC案が良いのではないかという思いが残ってしまい、上司にB案で行こうと言われた際にA案を推した自分に腹を立てて、上司から見るととても不満そうに見えるらしいのです。
かといってそれを放置するでもなく、怒るでもなく、上司は理由や根拠を懇切丁寧に教えてくれます。また、上司の言葉のニュアンスをうまく感じ取れず指示違いのことをしてしまうこともあり、復唱して自分の理解を確認するとそのたびにしっかりと説明し直してくれます。忙しい上司なのでこのような手間をかけさせるのは申し訳なく、自分の思っていることをうまく伝えられない、うまく理解できない自分に腹が立ちます。私はどうしたら正しく伝え、正しく受け止められるのでしょうか。
(24歳 女性 会社員)
1946年秋田県生まれ。山形大学を卒業後、70年に伊藤忠商事に入社。畜産部長や関連会社プリマハム取締役を経て、99年に食料部門長補佐兼CVS事業部長に。2000年5月にファミリーマートに移り、2002年に代表取締役社長に就任。2013年に代表取締役会長となり、ユニーグループとの経営統合を主導。2016年9月、新しく設立したユニー・ファミリーマートホールディングスの代表取締役社長に就任。2017年3月から同社取締役相談役。同年5月に取締役を退任。趣味は麻雀、料理、釣り、ゴルフ、読書など。料理の腕前はプロ顔負け。(写真:的野弘路)
上田準二(ユニー・ファミリーマートホールディングス相談役):新人2年目。相談を受け付けたのは新年度が始まる前だから、きっと3年目に入ったばかりの女性ですね。しかも広報だ。広報の悩みなら、記者の大竹さんが答えたほうがいいんじゃないの?
大竹剛(日経ビジネス 編集):いやいや、相談を読むと仕事との向き合い方、上司と部下の関係についての悩みなので、やはり上田さんの範疇ですよ。
一言で言えば、上司や周りの人とのコミュニケーションがうまく取れないという悩みですね。雑談のコミュニケーションはうまく取れていて、むしろ上手な方という評価をもらっているけれども、仕事での意見交換となると途端にうまくいかない、ということです。
上田:大した悩みじゃないよ(笑)。
大竹:ただ、彼女にとってはすごく重要な悩みでしょう。しかも広報という、対外的にも社内向けにも思いを伝える仕事をする部門にいながら、なかなかそれができないということで、真剣に悩んでいます。でも、いい職場のようですね。上司に恵まれ、非常に優しく、懇切丁寧に教えてくれるのこと。ただ、なかなかうまく仕事ができない自分に腹が立ちますと。
上田:まだ新卒2年目、この4月からは3年目に入ったばかりでしょう。そのくらいの頃は、いろいろな案が出たら全部、それぞれによく見えるものだよ。逆に、それぞれダメにも見えることもある。自分の判断基準というものに、まだぴんと1つの線が出てないわけよ。
だから、仕方がない。どれもよく見えるし、逆にどれも何か物足りなく見える。今はまさしく
、そういう時期であり、それを何遍か経験して、ようやく「これだ」と決められるようになるんです。今は、そうなれるように努力するときです。判断力を磨いていく時期なんですよ。
あなたはものすごく恵まれているよ。優しく懇切丁寧に教えてくれる立派な上司もいるんだから。なかなかいないよ、そんな上司。だいたい忙しぶって、「お前の意見なんて期待していない。そんなことはどうでもいいんだ。これでやると決めたんだから」なんて言われるもんだよ。
自己嫌悪に陥りそうになったら感謝の気持ちを思い出す
上田:この上司は、「何でこの案だったのか」「何でこれをするのか」という彼女の疑問に対して、丁寧に説明してくれているんでしょう? それを教えてもらっているのに、何て自分はダメだったんだろうと、そう思ってしまっているんだよね。
だけど、そう落ち込む必要はないんだよ。そういうことを何遍も、何遍も繰り返して、判断力を磨いていく時期なんだから。自分の思っていることをきちんと、「これだ!」という意見を決めていける訓練を今、これからしていくんだから。自己嫌悪に陥るなんてダメよ。前向きにとらえていかないと。
大竹:きっと、この方はとてもまじめなんです。
上田:うまく伝えられないのは、まだ経験が浅いからですよ。普段、仲間とはもう、楽しくうまくやっているんだから。
大竹:きっと、職場を明るくしているんでしょうね。だから、周りからも良い評価をもらっている。
上田:コミュニケーションはちゃんと取れている。だから話すことが苦手というわけじゃないわけ。ただ仕事上の判断、1つの線を何で出していくかということの経験がまだ浅い。今まさしく経験を積んでいく時期なので、自己嫌悪に陥る必要はまったくありません。それが常に嫌だ、嫌だとなると先に進まない。
自己嫌悪じゃなくて、この上司に感謝するという気持ちを持って、上司の言葉をどんどん吸収する。疑問があれば、臆せずそれを聞いてみる。懐の深い上司は、それを受け止めてくれますよ。
大竹:個人差はいろいろでしょうけど、だいたいそういう判断の線というか軸ができてくる時期はいつ頃ですか。
上田:まあ、3年以上はかかるだろうね。5年くらいは必要かもしれない。
大竹:やはり後輩がある程度できて、自分にも先輩としての自覚ができてくる頃なんでしょうか。
上田:そうだね。それまでにたくさんの失敗からいろいろなことを学ぶんだよ。まあ、5年もたって自分なりの判断の線を見出せないようだと、逆に何やってるんだ、とさすがに懐の深い上司もイラッとするかもしれないけどね。
大竹:まだ、24歳。
上田:まだ若いから、何も心配したり自己嫌悪に陥ったりすることはないよ。しかも、素晴らしい上司がいるんだから。3年目に入ったことだし、これまで以上に、自分の思いやアイデアを上司にぶつけてみて下さい。それが、採用されることもあれば、されないこともある。それで良いんですよ。そういう経験を繰り返しすることで、自分の発想も磨かれるし、相手に思いを伝え、説得する技術だって養われていくんです。
もう、自己嫌悪だとか、自分に腹を立てるとか、そういうことはやめましょう。自己嫌悪に陥りそうになったら、まず、上司への感謝の気持ちを思い出す。そうすれば、腹も立たなくなるよ。
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