「商社は小説すら読まない人が活躍する会社なんですか?」

上田:それでもいいんだよ。それで買ってみると、僕がいつも心にイメージしている元気、勇気、夢とはまた違った部分から元気について考察している。だけど、なるほどと思うところも多かった。非常に心に残る本でしたよ。ところで、この人は何に悩んでいたんだったかな。

大竹:忘れられては困りますよ。何を読んでいいか分からない。そもそも、本は役に立つのかということです。

上田:さっき言ったように、必ず役に立ちますよ。自分の血となり肉となります。これから世の中を渡っていくうえにおいてね。

大竹:上田さんは伊藤忠商事の入社面接のとき、読書について聞かれて面接官にケンカを売ったとか。

上田:ケンカを売ったんじゃなくて、1日目に筆記試験があって、決して出来がいいとは思わなかったんですけど、2日目、面接に来てくださいと言われたんですよ。集団面接で、だいたい5人1組だったかな。今でも大学名は覚えていますが、有名国立大学が2人、有名私立大学が2人、そして山形大学の出身者が1人、つまり僕ね。

大竹:みんな東京の大学ですか。なんだか、アウェーな感じ満載ですね。

上田:みんな東京の大学かどうかを言ったら、どこの大学がいたかがだいたい分かっちゃうから、これ以上は言わないよ。当時、伊藤忠も地方の時代だなんて言っていて、地方の支店を非常に強化していたから、僕みたいな地方出身者も面接に残してくれたんでしょう。

 面接はまず、口頭試問から始まりますよね。僕なんかは法律学科だから、会社法がどうだとか、憲法がどうだと、そんな話を聞かれました。だいたいが学部で勉強してきたことについての口頭試問。最後は、全員に同じ質問が出るんだけど、それが、最近読んだ本の中身と感想というようなものでした。

 有名国立大学の人は、マックス・ウェーバーがどうしたとか、ケインズがどうしたとか、そんな話をしたんだよ。僕はどれも知らなかったから、そんな作者がいたかなぁと思いながら聞いた。都会の有名大学に通っている奴は、変わった本を読んでいるんだなと思ったの。それで、はい、上田さんどうぞ、と面接官が言うから、思わず、山形から東京に出てくるときに電車の中で時間つぶしに読んでいた太宰治の『走れメロス』を読んだと答えたわけ。

 そしたら、人事担当の役員さんが、「うちの会社をどういう心構えで受けに来ているんですか」と言うんですよ。「上田さん、私どもの会社は決してそういう会社ではありませんが、世間では生き馬の目を抜く商社と言われている。そういうところを承知の上で就職に来られたんですか」と。ようするに、『走れメロス』なんて読んでいる奴は、伊藤忠でまともに仕事をしていけないと思ったんでしょうね。

 僕は初日の筆記試験だって満足にできなかったし、面接まで来たけれども人事担当役員に嫌われたなと。本当は、「『走れメロス』とは、兄弟愛、友人との約束、命をかけた家族との信義がある中で、俺はこれだけ頑張ったから、もうそれを守れなくても、みんな世間は許してくれるだろうという妥協、自己弁護の保身の心が芽生えて、だけど、それをさらに乗り越えなければいけないときがある、ということを書いている小説です」と答えれば、少しは説得力があったんでしょうが、なぜかそうは言えなかったんです。

大竹:なんて言ったんですか?

上田:「この会社は文学書、小説すら読まない人が活躍する、活躍できる会社なんでしょうか」(笑)。

 山形から上野までの往復の特急券と、2泊3日の宿泊券までもらって、面接に行ったんですよ。そこまで伊藤忠にしてもらったのに、黙って帰るのは失礼だなと思って、最後にごあいさつのつもりで何か言おうとしたら、そう言っちゃった。そこで面接が終わったと思いました。