読書の蓄積は大きいですよ。100冊の本は100人の人生、1000冊の本は1000人の人生を経験すると言いますよね。生きている間に経験できる人生には限りがあるけれども、本だったら100冊は100回の人生、1000冊の本を読んだら1000人の人生を体験できる。主役だけじゃなくて脇役まで入れたら、1000人じゃきかないですよ。

 だいたい読書をするときは、主役に自己投影することが多いですよね。歴史上の偉大な人物だとか、芸術家、科学者、哲学者、いろいろありますね。でも僕は、成功していく主人公の話より、どちらかというと脇役、特に挫折していく敗残者とか悪党とかに自己投影するんです。

 悪党だったら、こいつは悪党やな、だけど、こんな考えでやったら、いずれにこういう結末が来るぞとか。

大竹:だんだんと、上田さんが悪人顔に見えてきました。。。

上田:僕はやっぱりそういうのが好きなんだよ。脇役もこういう考え方をしたら、これよりも成功する、上に行けたはずだとか、ここの部分がターニングポイントだったなとか。脇役に自己投影しながら、やっぱりこういうふうになってはいけない、何で相手が勝利者なんだろうかとか、そういうのを常に考えながら本を読む。脇役における喜怒哀楽、哀愁、失恋とかが好きなんです。

大竹:本を読んだ時の妄想が、取引先の悩みを聞いた時に生きてくるんですね。

上田:妄想しておくと、会話の中に何か出るんですよね。ただ、そんなことはなかなか難しいよと、相談してきた彼は言うかもしれないですよね。だから、大切なのは、まずは気の利いたことを言えなくてもいいと、開き直ることです。とにかく、相づちを打つ。「それは困ったものですね~」とか、「そこまでご苦労されたんですか!」とか、「それは本当にうまくいったんですね」とか。これだけでも、相手は営業マンに対して親近感、信頼感を持ちます。

 「いや、社長さん、すごいですね。そんな大変だったんですね。今も大変なんですよね。だけど、それほど大変なものを抱えながら、これだけの経営実績、事業を拡大していったのは、社長さん、すごいですね」

 こんなこと言われた方は、自分はダメだな、ダメだなと思っていたけど、俺にはそういうことを抱えても、これだけやっているんだ、という元気が湧いてきますよ。もっと頑張ろうと思って、前向きに、気が大きくなってくる。そういう時を見計らって、「ところで、来月の牛肉は何トンにしましょう」と聞けば、「おお、50トン。どーんと買ってやるで」となるわけです。

大竹:乗せといて、気持ち良くなったところで、初めて、営業マンとしての本題を切り出す(笑)。

上田:人聞きが悪い!乗せるんじゃなくて、寄り添うの。必死に営業をしに行って、取引条件をだーっと、とにかくしゃべって取引が成立すると思ってはダメ。競争相手だっていっぱい来ているわけだから。だいたい条件というのは、競争相手とそんな大きな差はないものなんです。例えば、保険の勧誘は自宅まで来て、何かとわーっといろいろしゃべるでしょう。でも、しゃべった内容を聞いて、そこに加入するかという判断するというのはまずあり得ないよね。結局、そこで加入するかは、この人がどれだけ自分の質問に答えてくれたかどうか、自分が気にしていることに答えてくれたかどうかでしょう。

 だから、質問者の彼には、まず一生懸命、相手に会いに行くこと。そして、だーっと説明して商売を取ろうと思うのではなく、相手に寄り添う。ビジネスの話だけではなくて、相手が穏やかな気持ちになって、自分に心を開いてくれるような関係を築く。それには、とにかく話を聞いてあげる。相槌を打つ。これから始めたら、商売はうまくいくと思いますよ。じわじわと、焦ってはいけない。営業は、ただしゃべればいいというものじゃないよ。

読者の皆様から、上田さんに聞いてほしいお悩みを募集しています。仕事、家庭、恋愛、趣味など、相談の内容は問いません。ご自由にお寄せください。

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