上田:社長を続けていたら、こんなことやっていないで、仕事をしろと怒れられたかもしれないな。でも、もう相談役ですからいいでしょう。私も昨年末で70歳。本来なら、もうとっくに定年している歳だし、だから勝手に答えるよ。

 この間も山形大学で1時間講演をやってきたんですよ。大学側も元気が出る話をしてほしいということで、「元気」「勇気」「夢」が大事だって話をしてきたんです。私の人生、振り返ってみたら挫折、挫折、挫折ばかり、失敗と挫折しかしていなかった。そんな話をしたら、学生も「わー、そんなことをやっていたのか、そんな失敗をしているのか、それをそうやってくぐり抜けてきたのか」と元気になるかと思ってね。結構、ウケたよ。

大竹:なんという偶然!その意気込みで、このコーナーも盛り上げてください。どんどん、勝手に答えていいですよ。

 それでは、記念すべき最初の相談です。上田さんと同じように、大学を卒業して東北から東京に出てきた男性の悩み。昨年4月から東京のメーカーで働き始めて、自分が田舎者であることに劣等感を抱いています。

上田:まったく、僕と一緒じゃないですか!僕も21歳まで、東北(秋田県・山形県)に住んでいました。東京に出てきて伊藤忠商事に入社して、同期の連中が同じ課に何人か配属されたんですが、やっぱり彼が悩んでいるように、同期の連中はものすごく仕事の要領がいい。女性との付き合い方も、やっぱりスマートだったね。当時は合コンなんて呼び方はなかったけど、ある時、女性3人、男性3人の飲み会に呼ばれたんですよ。

 お前も来いと。誘われたから行きましたよ。だけど、彼みたいにコンプレックスを感じるとか、カルチャーショックを受けるということはなかったですね。そう言ってしまうと答えにならないか。でもね、そこで僕は、こう思ったんです。東京者は確かに仕事も女性も要領がいい。だけど、意外と根性がないなと。

大竹:生まれは長野ですが東京で育った私には聞き捨てならない意見です。

上田:だってそうでしょう。東京者は、女性との付き合い方が極めて刹那的。飲み会の席ではいちゃいちゃしているけど、ちょっと時間が経ってその女性がほかの男性に魅かれていることが分かると、俺はあの女が嫌だったとか、そんな無駄なことを言ってばかり。仕事の要領もすごくいいけど、決して結果がいいわけではない。

 僕なんかは、やっぱり要領が悪かった。与えられた仕事を飲み込むのに時間がかかる。これでいいのかと疑問に感じながら仕事をやっていた。違うんじゃないかとか。そうすると、どうしても仕事は遅くなるよね。明日までに伝票を作れと言われたのに、時間がかかる。上司から見れば瞬間的に、あいつは仕事が遅いという評価になる。

大竹:ようするに、とろいやつだなと。

上田:東京者のあなたに「とろい」とは言われたくないな。ただ、それが半年、1年と続くと、どうも上田がやった仕事の方がきっちりしているという評価になったんだ。そうすると、さらに次に難易度の高い仕事を与えられたわけ。そういうのがステップアップになっていった。

 僕はその時、どう思ったか。田舎者の僕は、女性と付き合った経験もなかったし、そういう環境にもいなかった。それはもう、どうしようもない。仕事も要領が良くて女性との付き合い方もスマートな東京者で有名大学を出た同期と、能力を比較したって意味がないと。もう秋田県出身者らしく、辛抱強く、我慢強く生きていくしかないとね。23歳のこの男性にも、僕はそう言いたい。

 辛抱強く生きているあなたのことを、誰かが必ず見ていますよ。周囲の人も、上司もね。俺は田舎者だ、と思って自分の殻に閉じこもってしまうと、それこそ本当に田舎者になっちゃうね。人生70年の経験者が言っているのだから、それは間違いないよ。刹那的な都会の学生よりも、田舎の人の方が大成しますよ。晩期大成と思って仕事や自分流の生き方に集中すれば、絶対に大丈夫。まさしく僕は、そういう環境から会社人生をスタートしましたから。