批判をしているだけではダメだ
大竹:この方によれば、ヘッドハンティングされてきた人も、周りは素人集団だから意欲を失っているそうです。
上田:それがね、この方からはそう見えるのかもしれないけれども、本当にそうかな。ヘッドハンティングされた人は、専門知識を持たない周囲の人を指導する立場なんだよね。いきなり、ばりばりと具体的なプロジェクトを回すというわけにもいかないかもしれない。周囲の人のスキルや意識を変えていくには時間がかかるからね。そうした状況が、やる気を失っている、あきれてしまっている、と見えるということもあり得るのではないかな。
この方は非常に客観的に、冷静に分析しているようだけれども、もう少し相手の立場に立って、この役員やヘッドハンティングされてきた人が何をやろうとしているかを理解しようとしてみて下さい。そうしたら、ちょっと違った世界が見えてくるかもしれない。
そして、その動きの中に、あなた自身も入ってみて下さい。もしも「いやいや、もうこの会社はみんなおかしいなやつばかりだ」と思ってしまっては、あなた自身にとってマイナスにしかならないよ。
大竹:この相談内容を読むと、この方はかなり冷めきってしまっています。天下りの役員が持ってきたA事業を、全くダメだと切り捨てつつ、この方が働く子会社自身も、新たな事業を創造する力はないと言い切っています。だから、ほかにやることがないのでA事業をやらざるを得ないと。
上田:だけど一方で、この方に自覚してほしいのは、あなたもその会社、チームの一員なんだということです。ご自身だけ部外者、圏外にいて、報酬を得るというわけではないんですよと。
大竹:そうですね。
上田:それと、役員が作った計画書を「虚偽だ」と言っているけど、計画通りに行かないから「虚偽だ」言っているのか、事業を継続させるために全くのデタラメや何らかの不正があって「虚偽だ」と言っているのか。もし後者の方であれば、親会社に告発すべきですね。
だけど、事業計画を書くときというのは、誰だって「この計画で成功させるんだ」という意気込みで書くものです。つまり、誰だって鉛筆を舐めるものなんですよ。それを「虚偽だ」と決めつけるということが、やっぱりちょっと冷めすぎているよ。
大竹:将来の見込みなんて、結局どうなるか分からない要素も多いので、どこかで腹をくくって、数字を決めなきゃいけないということですか。
上田:僕もファミリーマートの社長のときに、国内店舗数がまだ6000店前後だったころに、「5年以内にグローバルで1万店を達成する」と宣言したんです。その目標は、達成しました。できなかったら、この方に言わせれば虚偽だったかもしれない。そして、1万店を達成したときに、今度は「2015年度までにグローバルで2万店体制に持っていく」と言ったんです。でも、それは達成できなかった。
大竹:相談してくれた方に言わせれば、「虚偽」の計画だった。
上田:それで決算発表のときに、その目標を2020年に延長したんです。社員が本当に頑張ってくれて、現在の店舗数は世界で2万4000店を超えていますよ(国内は約1万7400店)。2020年に2万店という目標に、ほぼ近いでしょう。
大竹:サークルKサンクスと統合しましたからね。
上田:やっぱり事業計画というのはそんなもんだよね。それを、うそつき、虚偽だ、とか言われたら、たまらん。
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