ユニー・ファミマHD相談役、上田準二さんの「お悩み相談」。今回は44歳の女性から。面倒な仕事は常に後回し。それでも、最後は帳尻を合わせてきました。そんなだらしない悪癖を直したいという悩みに、上田さんは「諦めろ」と一刀両断。
悩み:
44歳の女性(会社員)です。これまで、面倒な仕事、嫌な仕事を後回しにして生きてきました。歳をとるにつれて、その傾向が顕著になり、いつか、重要な仕事の期日を堂々と破ってしまうようになるのではないかと、不安です。この癖、どのように直してたらよいでしょうか。
歳をとるにつれて、面倒なことや嫌なことを後回しにしてしまう癖が顕著になってきました。今始めれば今日中に終わるはずのことでも後回しにして、どうでもいい、ささいな仕事を優先させてしまいます。その結果、肝心のタスクは期限前日にドタバタで手を付ける、というようなことを繰り返しています。
「procrastinator」(やるべき仕事をぐずぐずと後回しにする人のこと)という単語があると知ったときは、「私のことだ!」と驚きました。世の中に似た性向の人は多数存在しているようですが、なぜ、計画的に物事を進められないのかと、我がことながら悲しくなります。
ひどいときには、提案書作成のために週末出勤したのに、全然作業をせずネットニュースを見て時間をつぶしたりしてしまったこともあります。提案書は月曜日に深夜まで残業して完了させました。もはや、自分で自分が理解できません。
今のところ、期限に間に合うぎりぎりのところで重い腰が上がるので、なんとか期限を守れていますし、この怠け癖は周囲にはばれていないようです。しかし、いずれ堂々と約束を破るようになってしまうのではないかという心配もあります。なんとか自分自身をコントロールして、時間を効率的に使える方法はないでしょうか?
(44歳 女性 会社員)
1946年秋田県生まれ。山形大学を卒業後、70年に伊藤忠商事に入社。畜産部長や関連会社プリマハム取締役を経て、99年に食料部門長補佐兼CVS事業部長に。2000年5月にファミリーマートに移り、2002年に代表取締役社長に就任。2013年に代表取締役会長となり、ユニーグループとの経営統合を主導。2016年9月、新しく設立したユニー・ファミリーマートホールディングスの代表取締役社長に就任。2017年3月から同社取締役相談役。同年5月に取締役を退任。趣味は麻雀、料理、釣り、ゴルフ、読書など。料理の腕前はプロ顔負け。(写真:的野弘路)
大竹剛(日経ビジネス 編集):遅ればせながら、あけましておめでとうございます。2018年最初の質問は、正月気分が抜けなくてダラダラと仕事をしている人にも、参考になりそうな悩みですね。
上田準二(ユニー・ファミリーマートホールディングス相談役):こちらこそ、今年もよろしくお願いいたします。
確かに、年始にふさわしい質問だね。こういう人は、多いのではないかな。
大竹:この方は、いずれ堂々と約束の期日を破るようになるのではないかと、恐怖感すら覚えています。なかなか、筋金入りのダラダラ人間のようです。
上田:意外とこういう人は結構多いよ。身近にいるからよく分かる。
大竹:奥様がそうだとか?
上田:いや、女房からしたら僕のほうがよほどだらしがない人間に見えるでしょう。朝は自分では起きないしね。誰かに急かされないと、動かない。だけど、誰しも思い当たるふしはあるんじゃない?
月曜日が締め切りの仕事があったとして、その前の週の水曜日くらいから取り掛かろうと考えていても、いざ、水曜日になると、「もういいや、明日にしよう」って後回しにしてしまう。それで、翌日になったら、「いやー、来週の月曜日だから、まだ時間はある」といってやらない。さすがに金曜日くらいになると焦ってくるんだけど、いや、だけど月曜日なら土日もあるぞと。それで、週末にやることにするんだけど、土日はまた遊びに行っちゃうんだよ。
大竹:大きな仕事を後回しにして、目の前のささいなことを先にやっちゃうんですよね。
上田:そうそう。みんな、そういうことを経験しているから、そういう癖を直したいと思って、「今回こそは早めに取りかかろう」とか考えるんだ。だけど、それで成功した人はいますか?無理でしょう。こういう人は、誰かに「それはいかん」だとか「直せ」だとか言われたって、直りません。自分で変わろうとしたって、もっと難しい。一生、そういう癖は変わらないんだよ。
ただ、それでも世話はない、大丈夫だと自信を持ってください。こういうパターンで生きてこられたあなたは、これまで期限内にそれなりに仕事を完了させてきたんですから。こういう人は、そういうリズム感の人なんだよ。それを悩み始めたら、全部自分を否定していかなきゃいけない。
まあ、それも一つの個性なんだな。そんな個性を自分で否定して、事前準備から何からぴしっとやれる人間に、明日からなれるかというと、無理、無理。
もはやその人は、そういうふうにプログラムされているマシンなんだよ。
仕事に取り掛かるのが遅くても問題ない
大竹:むしろ、すごく優秀なのではないかと。期日ぎりぎりに仕事に取り掛かっても、きちっと間に合わせられているのは、自分の仕事のスピードも、仕事の難易度もしっかり予測できているからこそ、なせる業ですよね。
上田:うん、そう。だからあなたは、ぎりぎりの時間まで来ないと、そこに集中できない人なんだと。
それなのに、1週間前、1カ月前からやれと言っても、逆に緩慢に物事を考えてしまって、きちっとしたものは出来上がらないよ。時間に追い詰められて、一気に集中してパフォーマンスを出し切るのが、あなたという個性なんです。時間的な余裕をもって仕事に取り掛かっても、頭の中を整理できないと思うんだ。
仕事に取り掛かるのが遅くても、それまでの時間も実は助走期間として重要な役割を果たしているということもある。あれをこうしようかな、これをこう、いやいやだめ、いや、これは面白くないな、ああ、こんなことをやってもうまくいかない、とか。本当はずいぶん前から、頭の中であれこれ考えて準備しているはずなんだよ。
で、彼女は週末に会社に出てやろうとしたのに、何をしてしまったんだっけ?
大竹:ネットニュースを見て時間を過ごしてしまったそうです。
上田:ネットニュースを見たんだね。これも実は、仕事のことを考えながら見ていたんだと思うよ。なかなか仕事の完成形が見えてこない中で、ちょっとニュースでも見ようかと。ニュースもね、仕事と完全に無関係かというと、そうではない。凶悪な事件のニュースを見て、何でこんな異様な事件が起こるのか、なんて考えるでしょう。でもそれは、異常なことは仕事でもあり得るなとか思いながら見ているんだよ。
こういう人は、何をやっていても、仕事のことを常に頭の隅で考えているんだ。だからこそ、時間ぎりぎりになって始めたとしても、無意識のうちに既に答えが出来上がっているから、間に合うんだよ。
何でこんなにリアルに分かるかと言うと、僕もね、かなりこれに近い状態だからね。一応、思いついた要旨やポイントは事前にメモをしておいたりするけれど、本格的に作業に着手するのは、いつもぎりぎりだね。仕事のことを考えつつも、怪我で4場所連続休場した横綱の稀勢の里は、初場所ではどんな活躍を見せるのかとか、いろいろなことがついつい気になってしまう。
大竹:気になっちゃう。
上田:そういう僕を見て、女房は文句を言ったりするんだ。「仕事をするならちゃんとやりなさい」と。だけど、決まって僕はこう言う。「お前はうるさいから2階へ行って好きなドラマでも見ておれ。これから本気でやるんだから」とね。
で、気が付くと「あなた」と女房に起こされるわけ。2時間も寝ていることなんてざら。当然、女房は嫌味を言う。「やると言って私を2階に追い出しておいて、寝ているじゃないの」ってね。でも、僕は寝ながら考えているんだ(笑)。
大竹:だから、この方の気持ちがよく分かるわけですね。
上田:簡単な仕事だったら、ぱぱっと済ませちゃう主義だけど、2~3時間集中しないといけないような仕事の場合は、あまりにも締め切りより早く着手すると、かえってああでもない、こうでもないと、ぐずぐずしちゃうよ。
大竹:どうしてもね。
上田:それで2日前だとか1日前になって、もうまとめなきゃいけないという中で、ぎゅっと集中できるものだよね。集中力がないから早く取りかかってもぐずぐずしてしまうのではなくて、逆に集中力があるから締め切り間際になって一気にまとめられるんでしょう。
だから、あんまりこのことで自分自身を嫌になる必要はありません。あなたはもう、早めに準備をしなくてはいけないということを、気になさる必要はないのです。あなたは、そういう人なのだから。締め切り間際になるまでの時間が、実は重要なんだと発想を転換してみてはどうですか。ダラダラと助走している時間の中で、曖昧模糊としていた仕事の完成形のイメージがだんだんと頭の中に浮かんできているんですよ。それに時間がかかるタイプの人間なんです。
ただし、締め切りの前日にはきっちりと仕事に取り掛かるという習性は、失わないようにしてください。もし、それがなくなってしまったら、もう会社を辞めた方がいい。
堂々と約束の期日を破り始めたら会社を辞めよう
大竹:確かにこの方も、いずれ堂々と約束の期日を破るようになってしまうのではないかと恐怖心に駆られているようです。
上田:だけど、そういうことはまずあり得ないと思うよ。
大竹:どうしてですか。
上田:実はもう、無意識に計算しているんだよ。自分の能力からすると、どれくらい時間がかかるのかと。実際、これまでもそれできちっとやってきたわけでしょう。もう、procrastinator と言ったっけ。この方はそのベテランの域に達しているよ。
それでも、やっぱりどこかで恐怖が出るものなんだな。それすらできなくなったらどうしようと。大丈夫ですよ。そのときには、会社を辞めればいいだけですから。
でも、あなたはそうはなりません。そういう人だからね。
大竹:これまで、そういう習性は周囲にはばれていないということですが、ばれると面倒臭いことになるかもしれませんね。上司や部下から、あいつはムダに残業しているとか、ムダに休日出勤しているとか、陰口をたたかれるかもしれません。
上田:そんなことを気にしてはダメだ。ばれても構わないし、ちゃんと期間内にやるべきことをきっちりとやれていれば、どう思われようが、それでいいでしょう。それが、あなたの仕事の完結させるために不可欠なプロセスなんだから。
ただ、実際にムダに残業したり、休日出勤したりするのは、よろしくない。仕事をしていないわけだからね。むしろ、家でリラックスして本を読んだり、相撲を見たり、思い切って仕事から離れて、助走期間までの時間を過ごしてみるといいよ。その方が、発想が豊かになる。
大竹:早く仕事に取り掛かれないことを悩むのではなく、むしろ、思い切って仕事から離れて遊べと。
上田:うん。周りからどう思われているとか、そんなことを気にしていたら、本当に仕事がどんどんできなくなってしまうよ。
こういう悩みを持っている人は、相当多いと思うんです。だけど、もう悩むのはやめましょう。そういう人なのですから。「それはいかん」なんて言われたって、直せないよ、この性格は。
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