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拘束時間が長く、ムダに回数が多い「非効率会議」への不満は尽きることはありません(前回参照)。よく、こんな声を耳にします。
- 決まった人しか発言しない
- 参加者の目に輝きがない
- 遅刻者が多い
- 会議自体が形骸化
- 上司の顔色だけ気にして、合意形成に至らない
- 前回の会議決定事項が、1つも実行されない
会議は、コミュニケーションツールの1つです。ただ、メールやチャット、テレビ会議というテクノロジーの発展に伴い、コミュニケーションは、革命的と呼べるほどの変化がありました。一斉に配信することができ、形に残りやすい。後から検索しやすいなど、メールやチャットは現代のビジネスシーンでなくてはならないものです。
しかしながら、会議に対する不満の声は後を絶ちません。チャットやメールなどのコミュニケーション革命で、効率は上がったのでしょうか。「非効率会議」は減ったのでしょうか。
そこまでしてでも「会う」メリット
メールやチャットの発展に伴い「非効率会議」が減少したのかどうかを確かめる術はありません。しかし、オフィスの会議室が減少した、もしくはなくなったという話を聞いたことがありません。
私は企業研修などで、多くの企業に出入りしますが、いつも、どこも会議室は予約で一杯です。企業に勤めるビジネスパーソンなら、会議室が取り合いになる、確保するのに四苦八苦した経験があるはずです。
そういう状況を見るに、「チャットやメールのコミュニケーション革命は、会議の本質的課題を解決してないのではないだろうか」との疑問が湧いてきます。
では、「会わなくてもいい」チャットやメールが発達した現代、そもそも「会わなければならない」会議の必要性は何でしょうか。
会議は、メールやチャットほどラクではありません。会議を招集する側も、招集される側も多大な労力を要します。それなのに、なぜ会議をするのか。そこまでしてでも「会って」会議をするのは、会議だからこそ得られるメリットがあるからです。
会議ならではのメリット、それは関係者の「プライオリティ(優先順位)」を上げることです。メールやチャットより、はるかに効果があります。言い換えれば、会議参加者の「優先順位」を上げることだけに、対面する会議を活用し、そうでない事務連絡などはメールやチャットに任せた方が効率的です。
1つ事例を挙げましょう。
2017年2月10日、安倍晋三首相は、アメリカのドナルド・トランプ大統領とゴルフを交えた会談を行い、共同声明を発表しました。国家の首脳同士のことであり、一般のビジネスマンが参考にできることはないと考えると、大きなヒントを見逃してしまいます。
安倍首相は、トランプ氏が大統領に「内定」した昨年11月にも緊急渡米しているので、4カ月間で2度の訪米という異例の頻度です。安倍首相とトランプ大統領の会談は、労力が少ないメールやチャットではダメだったのでしょうか。
安倍首相の狙いからして、その代替案(チャットやメール)では絶対にダメなのです。ここに会議の本質があります。
「どうでもいいこと」を最優先事項に格上げする
メールやチャットでできず、対面会議でこそ得られるメリットは、関係者のプライオリティ(優先順位)を上げることです。トランプ大統領も就任直後、山積する問題を抱えています。そこで日本が最優先する事項が、後手に回らないようにすることが必要だったのです。
結果として、
- 日米同盟による安全保障の確認
→ 尖閣諸島の防衛につながる
- 経済分野での分野横断的な対話の合意
→ 日本製品の輸出先確保や駐米日本企業の安定経営につながる
- TPPに関し、最善方法を探求し、議論していく
→ これまでの合意事項を遵守してもらうことにつながる
ということを文書に盛り込むことに成功しています。
日本にとっての優先事項を形にしたのです。文書に盛り込む、共同声明を発表するということは、合意事項が多く円満に会議が終わった証です。
日本が文書に盛り込みたかった事項は、アメリカファーストを標榜するトランプ大統領には、二の次、言葉悪く言えば、「どうでもいいこと」だったかもしれません。しかし、それらを優先度高く位置付け、合意に至ることは、メールやチャットではなし得ないことなのです。会議を構成する3ステージ分析においても、理想的なことがわかります。
トランプ大統領も会談が終了し、安倍首相が帰路に就くやいなや、会談内容もどんどん新鮮味がなくなってしまいます。山積する問題に取り掛かり始めなければならないからです。
だからこそ、なのです。
議事録たる合意文書を作り、共有することが大事なのです。議事録を当日配布することは、関係者と共同声明を発表することと同じです。
テーマと人員選定を慎重に選び(会議前ステージ)、短い時間で雰囲気良く会議を運び(会議中ステージ)、成果を文書化すること(会議後ステージ)は、会議を行う上で大いなる手本になります。
「3つの欠如」が生まれるのはガンがあるから
2大国家の首脳会談をヒントに自分ごとに置き換えてみてください。あなたの会社で会議を使い倒し、他人を巻き込んで優先順位を上げている人はいるでしょうか。
上述の「安倍・トランプ会談の分析」のように、会議前にテーマと人員選定で事前招集し(会議前ステージ)、効率よく会議を取り仕切り(会議中ステージ)、全員がうなずいたことを議事録として即日共有(会議後ステージ)しているでしょうか。
もしくは、会議に招集される側として、理想的な会議運営になるよう「不平」を「提案」へと改善活動しているでしょうか。
会議で拘束される時間が長いことには意味があります。いや、意味を持たせるためにもメールやチャットでできないことを会議で行いましょう。それは、関係者を巻き込んで優先順位を上げることです。
国家の経済・安全保障という大きなテーマ、会社の小さな問題解決などサイズは異なっても会議を効率的に使い倒すステージと原則はまったく同じです。原則は同じですが、我々ビジネスパーソンの会議が非効率会議であれば、そちらの方が深刻です。トップ会談のように時間制約のプレッシャーがない分、日常ゴトとして甘えて改善放棄されてしまうからです。
もし、あなたの会議が非効率なままでしたら、前回の記事で掲げた3つの欠如が改善されていないことになります。
3つの欠如を生み出すのは、「ガン」があるからです。ガン細胞なら除去すればいいのですが、非効率会議におけるガンはやっかいです。その多くが「人」に関することだからです。
次号以降、ガンを慎重に除去するためにその実態を見極めていきます。
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