
日経ビジネスベーシックについてはこちら
「それでは、弊社の概要についてご紹介します。こちらのパンフレットに沿って説明させていただきたいのですが」
私を訪ねてきたA社の営業マンは、そう言いながら、持ってきたパンフレットを広げて、書いてある文章を読み始めました。彼の口から出てくる言葉は、ほぼ全てパンフレットに記載されている内容です。
「読めば分かる内容」は耳に入らない
「これは、読めば分かるような内容では」と思った私は、途中から次の会議のことについて考えを巡らせていました。
説明を終えたA社の営業マンは、締めくくりに「何かご不明な点がございましたら遠慮なくおっしゃってください」と言いました。
私は「ご丁寧にご紹介くださり、ありがとうございました。社内で協議して、後ほどご連絡させていただきます」とお伝えし、その日の商談を終えました。
元気よくその場を後にした営業マンに対し、私はA社に発注をするかどうか検討をすることはありませんでした。なぜなら、彼の説明から得るものがなかったからです。
さて、このA社の営業マンの何が問題だったのかを考えてみましょう。A社の営業マンは自社のサービスの良さを顧客に理解してもらおうと、必死に説明していました。しかし、内容はパンフレットを読めば理解できることばかりです。また一方的に話すばかりでした。
顧客に対して重要なのは、「営業が一方的に話しすぎず」「お客様にとって意味のある情報を分かりやすく伝える」ことです。そうした対話を通じて、円滑なコミュニケーションをするのです。
その際、活用したいスキルが「質問力」です。適切な質問で、相手の情報を得て、顧客は何に関心があるのかというポイントを知ったうえで、会話を運ぶことが大切です。
もう1つ、顧客に「これは関係があるな」とか「この情報は大切だな」と思ってもらうことも重要です。難しいのは「お客様にとっての具体的な有益情報」は、会社案内やパンフレットに書かれているものではありません。そこで「プラスアルファの情報を自分の言葉で伝える」ということをお勧めします。
自分だけのエピソードを話せますか
下の図は、「資料に書いてある内容に対して、どのぐらい自分の説明を合わせるか」について示したものです。
黒枠が「資料に書いてあること」です。もし資料を棒読みするだけだと赤枠となり、黒枠と重なってしまいます。これでは、お客様の関心を引き出す説明とはなりません。そこで、資料から少しだけ脱線(緑枠)して、資料にない情報を自分の言葉で話すというのはいかがでしょうか。
例えば、既に使用している顧客の好評の声を伝える。または具体的なPRポイントとして、前モデルからの改良点を伝えるといったことです。営業の社員が自分の言葉で話すことにより、会話に躍動感が生まれます。
さらに、ここ一番の勝負どころでは、図における青枠のように、別のお客様との間であったエピソードや、自分自身がこのサービスを扱うに至った経緯などの想いをぶつけてもいいかもしれません。
質問力を高めて、お客様との会話を円滑にして、「プラスアルファ」を加えられると、先方の印象もグッと高まるはずです。
Powered by リゾーム?