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「私A社の○○と申します。ご挨拶だけでもしたいと思いまして、お電話させていただいたのですが、ご都合はいかがでしょうか」
私がオフィスで仕事をしていると、A社の営業マンからこんな電話がかかってきました。
私は、A社の営業マンにこう返答しました。
「そうですね。今ちょっと業務が立て込んでいる時期ですので、また別の機会にお願いいたします」
「かしこまりました。では、またの機会にこちらからお電話させていただきます」
私はかつて「ご挨拶だけでも」と電話をかけてきた営業マンに、ものは試しと、実際に会ったことがありました。商談内容はピンと来なかったので、結局その時はお断りしました。
今回も、わざわざ来てもらってから断るよりは、売り込みの時点で断った方が良いだろうと思い、このように私は答えたのです。
同じ売り込みでも印象に違い
ところが、別の機会に今度はB社の営業マンから電話があり、同じように「ご挨拶だけでも」と言ってきました。私はA社同様、断り文句を伝えました。
すると、B社の営業マンはこう続けました。
「そうでございましたか。お忙しいところ申し訳ありません。じつは今回電話させていただいたのは、お客様がお使いになっていると思われるXXのシステムについて、御社と同じような会社様でコスト削減に成功されている事例についてお伝えしたいと思っていた次第です。ちなみに、現在はどういったサービスをご利用されているのですか」
電話を切ろうとしていた私は踏みとどまり、そのまま会話を続けました。
「そうでしたか。まあ、今使っているサービスについては、もう少しこうだったらいいなと思うことはあるのですが、御社の特徴について簡単に少し教えていただけますか」
数回のやり取りの末、B社の営業マンは私のオフィスへ来て提案するチャンスを獲得したのでした。
さて、A社の営業マンとB社の営業マンの違いについて整理してみましょう。
A社の営業マンは「挨拶だけでも」というセリフに対して私が断りを入れると、そのまま電話を切ってしまいました。
相手の立場に立った会話を
一方で、B社の営業マンは私が断りを入れると、端的な価値の訴求(コスト削減)をし、私に現状のサービスへの不満について聞いてきました。
これは一言を付け加えるかどうかの差でしかないように見えますが、受け手としては感じ方が大きく異なります。
「挨拶だけでも」と言われても、顧客にとって直接的なメリットはありません。しかしB社の営業マンのように、一歩踏み込んでもらうと、多少の会話が生まれ、「この人に会ったら有益な情報がもらえるかもしれない」との思いにつながるかもしれません。
「一歩踏み込んで、気の利いた一言を加える」ことは非常に重要です。
具体的に、どんな一言を伝えるかについて、次の図に整理してみましょう。
とっさの場面で「気の利いた一言」を
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今回B社の営業マンが話していたのは、ニーズや課題に関する質問でした。その他にも、お客様の事業展開におけるポイントについての質問があります。
ただ挨拶だけの営業マンよりも、「少しでもお客様のことを知り、何かお役立ちしよう」と考えてくれる方が、顧客にとっては魅力的なのです。
引っ越しの挨拶、あなたは何と言う
ここで具体例として、「引っ越しに伴う近所の方への挨拶」という場面を考えてみましょう。これも、言い回し一つで印象やその後の結果も変わってきます。
例えば、「最近こちらに引っ越して来た○○です。よろしくお願いいたします」との言葉。悪い気はしませんが、形式的に対応をするだけで、相手がどのような方かはよくわかりません。
ところが次のように言われてみたらどうでしょうか。
「最近こちらに引っ越して来た○○です。小さい子が2人いるもので、少し騒がしいこともあるかと思いますが、どうぞよろしくお願いいたします。ちなみに、お宅もお子さんがいらっしゃるようですが、おいくつぐらいですか」
仮に自分にも幼稚園に入ったばかりの子供がいるとすると、どこかで会った際に会話を交わすかもしれません。
最近は引っ越しに際して近所に挨拶をする機会は減っていると言われますが、うまく挨拶をすると付き合いも円滑に進みやすくなります。
さて、冒頭のケースに話を戻してみましょう。
もし読者の皆さんがA社の営業マンだったら「ご挨拶だけでも」で終わりにせず、どう話しますか。
私なら「XXについて、すでにサービスをご利用かもしれませんが、最近は費用対効果を見直される会社さんも増えてきています。その成功事例などお伝えできないかと思います。御社ではそういった費用対効果について見直される機会はございますか」と質問するでしょう。
そして顧客から情報を引き出せたタイミングで「ぜひ現状お使いのサービスや御社の状況についてお伺いしつつ、成功事例などもご紹介したいので、お訪ねしてもよろしいでしょうか」と伝えます。
そうすると、顧客は「ひょっとしたら現状を改善できるような情報を提供してくれるのでは」と感じ、会うことに価値を見出してくれるかもしれません。
挨拶だけをする営業社員ではなく、この人は何かしら価値を提供してくれるかも、とお客様に思って頂けるような存在を目指しましょう。
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