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「…ご説明は以上となります。ご検討のほど、よろしくお願いいたします!
もし今回ダメでも、次も頑張りますので、何かありましたら気軽にご相談ください!」

 一通り、資料の内容をプレゼンし終えたA社の営業マンは、最後にこう締めくくりました。熱意あふれる営業のクロージング。提案内容のプレゼンも悪くなかったし、営業担当の方も真面目で一生懸命。好感が持てます。しかし、発注側にいる私は迷っていました。

 2社からのプレゼンテーションを受けており、A社と同様に、B社からも良い提案をもらっていたため、どちらに発注しようか、なかなか判断がつかないのです。

 B社の営業も悪くありません。しっかりと当社にカスタマイズした提案をしてきていますし、きめ細かい対応が期待できます。一方、A社の営業は、提案自体はパッケージに近いものの、会社としての実績はB社より上でした。担当者も頑張ってくれそうな気配を見せています。

 正直言って、甲乙つけがたいところです。「どちらを選ぼうか…」。迷った私は、1日おいて、両社の提案資料を並べながら、考えてみました。

それはトライアルのようなもので

 そして、決断した私は、A社の名刺に書いてある電話番号にコールしました。「はい! いつもお世話になっております!」。元気の良い声。コール音がなってから取るまでの時間も早い。会社から良い教育をされているのでしょう。

 「お世話になっております。XX社の高橋と申します。非常に良いご提案をいただいて、かなり迷ったのですが…」。私は、意を決して切り出しました。

 「ええ、迷われたのですね」。電話の向こうの相手の声が弾んでいます。おそらく、発注確定の連絡だと思ったのでしょう。私の胸は罪悪感にキュッと締めつけられました。しかし、言わないといけない…。私は、とまどいながらも続けました。

 「大変申し訳ないのですが、今回は、他社様に発注させていただくことになりました。御社の提案は非常に魅力的だったのですが、もう1社さんの方が、当社に対して、かなりきめ細かくご対応いただけるとのことで…。御社もかなり実績をお持ちで、サービスのレベルも高いと思うのですが、当社の事業も他の業界に比べて特殊性が高く、そこにカスタマイズをしてくださるご提案を今回は選ばせていただくことにしたのです」

 「そうなんですね…」。電話の向こうの相手の、落胆した雰囲気が伝わってきます。

 私は慌てて付け加えました。「でも、御社のご提案も非常にすばらしく、かなり迷ったんです。それに、ご担当のXXさんも、かなり熱意をもって取り組んでいただけそうな印象もありましたし…」。

 そして、用意していたせりふを私は急いで滑り込ませました。