これでは、顧客にしてみれば「完全にオープンな聞き方をしているので、どうにでも答えられる分だけ、どんなニュアンスで答えるかをかえって迷ってしまう」質問になってしまいます。「この微妙な迷いを反射的に表現するのは難しいから、無難なせりふで返しておこう」と、顧客側としては考えやすいのです。

「チョー気持ちいい」を聞きたいわけではない

 皆さんも、TVでオリンピックなどを観ていると、こんなシーンを見かけたことがあるのではないでしょうか。

インタビュアー「メダル獲得おめでとうございます! 今の気持ちを一言!」 選手「…(若干困惑して)ええ、素直にうれしいです。お世話になった方々に感謝を伝えたいです。本当にありがとうございます!」

 ただ、オープンな質問に対する答えとして出てくる、ふとしたせりふは、ときに私達の胸を大きく打ちます。

 アテネ五輪100m平泳ぎで金メダルを獲得した北島康介選手(当時)は、レース後のインタビューで「チョー気持ちいい、鳥肌ものです」とコメントしました。この「チョー気持ちいい」はこの年の流行語大賞を獲得しましたね。

 オリンピックのメダル獲得場面でのインタビューであれば、アスリートとしての想像を絶するような苦労やドラマが裏側にありますから、シンプルなせりふが私達の胸を大きく打ちます。

 ただ、最近では、「今の気持ちを一言!」といった質問は、話題性のある選手やメディア慣れしている選手には向けられますが、そうでない場合は、「この喜びをどなたに一番伝えたいですか」といった質問が増えてきていますね。

 やはり、無難なせりふが返ってきてしまうと、何となく場が持たないというのもあるのでしょうし、喜びを伝えたい相手が誰なのかを先に聞いた方が、メダル獲得までのドラマチックな道のりを話題として引き出しやすいのでしょう。

「どう迷っているのか」「何が足りないか」

 さて、ビジネスの場面に話を戻して、「クロージングをかけようとする営業マンから顧客への質問」という場面だと、どうでしょうか。

 「今、検討中ですので、追って連絡します」というシンプルで無難なせりふが顧客から返ってきても、営業としては「待つ」以外に次のアクションが見えづらいですね。

 もし仮に、冒頭のシーンで私(顧客側)が「どちらかというと御社を断る方に傾いているが、御社を断るのをこの場で決めることはまだできないんですよ」とA社の営業マンに対して伝えたとします。

 まだここでは「迷っている」という状態ですから、A社の営業マンが私に対して「どう迷っているのか」「何があればB社を逆転できるのか」に関する情報をうまく聞き出し、そこを訴求できれば、もしかしたらA社の劣勢は解消されるかもしれません。

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 また、もし私がB社の営業マンに対して「どちらかというと御社を選ぶ方に傾いているが、御社に発注するのをこの場で決めることはまだできないんですよ」のように伝えたとします。

 そこでは、「どう迷っているのか」「何があればB社にすぐ決められるのか」に関する情報をB社の営業マンが私から聞き出し、そこを追加プレゼンできれば、B社に発注する可能性は大きく高まるでしょう。

 しかし、これらは「仮に」という想定の話です。実際には私自身、両社の営業に対して「もう少し待ってほしい」と返答している状況なのですから。

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