まず、値下げは、最後のひと押しの武器として営業マンに認識されています。多くの営業マンは、顧客が迷った際に「今回は特別にお安くしますので…」というクロージングをすることで、受注が取りやすくなるという成功体験を過去にしてきているのです。

 値下げは、売れ残りを避けたい営業マンにとって、いわば「最終兵器」なのです。

顧客にとって心理的負担が少ない「先延ばし」

 ここで、顧客側の心情に視点を移してみましょう。買いたいとは思っていても価格表を見つつ決断しない顧客は、次のように迷っています。「このサービスを導入したいとは思っているが、この価格が妥当だと今この場で判断がつかない」。

 「導入したい」「判断がつかない」。どちらも、顧客の頭の中で考えていることです。しかし、導入をするには判断しなければなりませんし、判断がつかなかったら導入ができません。この2つは矛盾している(両方同時には成り立たない)のです。

 さて、読者の皆さんが顧客だったら、この状況でどういう行動を選択しますか。

 おそらく、多くの方は「決断を先延ばしにする(もう少し考えてみる)」という選択肢を選ぶはずです。それが、自分(顧客側)にとっていちばん心理的負担がかからないからです。

 しかし、ここで、「『今だけ特別に』安くしますよ」という営業のプッシュがあったらどうでしょうか。「今だけ特別に」という情報が加わることによって、価格に関する迷いが払拭されやすくなります。

 ちょうど「買いたかった服、高いと思って我慢していたけど、バーゲンで安くなっているなら、お得だから買ってしまおうか」と、多くの消費者が購入に踏み切るのに似ています。

「1日当たりにすると、たった○○円!」

 このような心の動きを、心理学の専門用語で「認知的不協和」と言います。

 認知的不協和というのは、どちらにするか決めきれない(=選択肢に矛盾が発生している)場合に、人はその矛盾に耐えきれず解消したがるという心の動きです。

 たとえば、ここに、「部屋を片付けなきゃいけないと思いつつも、掃除は面倒くさい」と感じている人がいるとします。「もう少したってから、後で掃除を始めよう」という先延ばしは、よくありがちですね。

 しかし、こういった状況で「先延ばしにできない理由」が追加されると、途端に結論が変わってきます。「部屋を片付けなきゃいけないと思いつつも、面倒くさいと感じる。でも、明日、人が遊びにくるから、この部屋のままにはしておけない」→「今日中に部屋を片付けよう」。

 営業マンによる、「今回は特別にお安くしますので…」という最後のひと押しもこれですね。要するに、顧客の「買うことに対する先延ばし」を防ごうとしているわけです。

 しかし、先延ばしを防ぐ手段は、実は「新しい情報を追加する」だけではありません。両方同時に成り立たないように思える2つの認知のうち、片方を変更するというアプローチもあります。