ここまで、特許という代表的な技術的文章から、トリーズを介して「解決済みの矛盾」や「発明原理1つ分」として話しやすい単位に切り出す例を紹介させていただきました。
特許の文章というものは相当な長文です。ですが、世の中で発表されている工夫や発明というものは、その特許の文章を読んだり書いたりする時間よりもはるかに長い時間をかけてたどり着いたものです。
実際にその解決策までこぎつけた技術者や担当者はそうした苦労全体を一気に語りたくなってしまうものですが、それではたいていの場合、相手に「なるほど、苦労したんだねぇ」ということしか伝わりません(私も何度も体験しました)。
しかし、工夫からトリーズを介して「解決済みの矛盾」や「発明原理1つ分」として1つずつ切り出せれば、相手に伝わりやすくなりますし、そこから相手にとっても、営業トークや異分野への応用も考えやすくなる「プレゼント」になります。
異分野への応用について例示しましょう。先ほど説明した「コーヒー抽出方法」全体の話ですと、コーヒー以外への応用を考えても「コーヒーと似て、何かを液体を抽出するもの」くらいにしか応用例が考えにくいものです。しかし、これを<#16アバウト原理>を意識して、
水蒸気を当てれば、<過度な>熱で保温することができる。
と切り出せば、
→対象物を熱した「気体(蒸気)」を当てれば、保温することができる。
と一段抽象化しやすくなります。
すると、コーヒー以外の場でも(アサリなどの)酒蒸しに熱したアルコール蒸気を当てて保温するとおいしさがより保てるかもしれませんし、肉の丸焼きに熱した油の蒸気を当てて保温すると、新しい料理につながるかもしれません。さらに料理の範囲を飛び越して「冷めないうちに加工しないといけなかった工業製品」に対して「熱風を吹きかけながら加工する」という解決策を考え付くかもしれません。
そのような話を聞いてそうした発想が刺激されれば、相手の営業側も商談のアイデアが浮かぶでしょうし、またもう1つ追加で技術者側の「シンプルな工夫」の話を聞いてくれるかもしれません。
特許で紹介されている工夫がこのレベルの粒度になれば、それらからさらに2つを組み合わせて、「水蒸気を下から供給すれば保温すると共に液体がしたたり落ちることをも支えることができる」というヒントも得やすくなります。あるいは、逆に営業側が他で仕入れてきた需要やアイデアと<組み合わせ>て新たなアイデアや営業先につながる、ということが起きやすくなります。そうなれば、あなたは話を聞くと「素敵なプレゼントがもらえるアイデアクリエーター」として重宝されるようになるでしょう。
それでは、今回のまとめです。
- 特許の文章は構成がある程度一定であり、構造を知れば技術的文書としてはヒントを得やすい形となっている
- 特許をはじめとした技術的文章や、製品の技術的差異化部分は、一まとめにして話すよりは、発明原理を介して「シンプルな工夫」1つ分に分けて話した方が、相手には伝わりやすい
- シンプルな工夫1つ分の話にすれば、元の技術分野から、より離れた異分野への解決策のヒントとして役立つプレゼントになりやすい
でした。いかがでしょうか?
お時間があれば特許原文の内容と発明原理で切り出した内容を比べていただき、トリーズを駆使すれば今までよりも提案しやすくなっているか、を考えてみていただければと思います。そして、何か「ピンとくる」発明原理を1つでも選んでいただき、分かりにくいと言われていた技術から、「シンプルな工夫をプレゼント」として切り出すナイフとして使っていただければ幸いです。
今回も、ここまでお読みいただき、ありがとうございました。次回も、どうぞよろしくお願い致します。
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