効果の1つ目はこの水蒸気が持つ「過度な熱」です。コーヒー粉とお湯の混合物に対し、水蒸気による「過度な熱」が加えられることによって「蒸らし時間が長くなっても、温度が下がらない」という矛盾2が解決されています。これは、第14回の<#16アバウト原理>のうち“過度な作用”を用いることで解決しています。「過度なお湯=水蒸気」と考えればイメージがしやすいのではないでしょうか?

 また、実はこの水蒸気が上に登ろうとする力が、コーヒーが下に落ちようとする力と<つりあう>ことによって、湯を注いだ時にコーヒー滴下部にあるコーヒーがひたひたの状態のままになります。

 ここは特許原文【0032】の一部を第8回の<#8つりあい原理>で述べた「浮力の利用」にフォーカスして取り出しました。

本発明に係るコーヒー抽出器によれば、水蒸気82の圧力がコーヒー粉84に印加されるため、局所的に過剰に供給された湯83は重力により滴下することはない。よって、その余分な湯83は、まだ濡れていないコーヒー粉84を濡らし、それを蒸らす役割を果たすことになる。

 そして、コーヒー容器中の水蒸気が無くなり、加熱を切ると・・・

【0033】
コーヒー粉84の「蒸らし」が抽出者の好みの時間にわたって行われた後、水蒸気82の供給が止められる。すると、コーヒー容器90は外気に接触しているので、コーヒー容器90内部に充満した水蒸気82は急激に凝結する。注ぎ口部23は、コーヒー滴下部40と蒸らされたコーヒー粉84により塞がれているので、コーヒー容器90内部の圧力が急激に減少する。すなわち、コーヒー容器90内部は、(準)真空状態になる。従って、水蒸気82の供給の停止後、コーヒー滴下部40に抽出用の湯83を注ぐと、抽出されたコーヒー85は、コーヒー容器90の吸引力によりコーヒー容器90へ急速に吸引される。すなわち、コーヒー抽出時間は短縮され、コーヒー85の雑味が少なくなる。

のように、コーヒー容器中が準真空になることで吸引力が発生し、コーヒーの抽出が<#21高速実行>されることになります。

 このことにより、前掲の

・矛盾1:抽出時間を短くしたいが、(エスプレッソのような高温高圧を用いない)ドリップ式で実現したい。
・矛盾2:蒸らし時間は長くしたい(=普通は温度が下がる)が、温度は下げたくない。

の2つの矛盾は、紹介した機構によって、水蒸気(=過度なお湯)による加熱(<#16アバウト原理>)、水蒸気による浮力(<#8つりあい原理>)、水蒸気の凝縮による吸引力(<#21高速実行原理>)が提供されることにより、「ドリップ式で抽出時間を短く」出来た上に、コーヒーが薄くならないよう「蒸らし時間は長いのに、温度は下がらない」という解決済みの矛盾(SC:前々回参照)になりました。

 詳しく述べるのはこの3つの発明原理までにしますが、すぐに思い浮かべられる発明原理が増えるほど、自分の持っている問題解決経験や、世の中にある「解決済みの矛盾(SC)」から切り出して、他の人に紹介・応用しやすいことを感じていただけましたでしょうか?

 参考までに、さらに多くの発明原理を適用した場合を掲げておきます。

 上記の<つり合い>状態は、水蒸気がなくなるまでは続きますが、水、すなわち水蒸気がなくなると、コーヒーにとっては下に落ちる際の障害(バリア)であったものが<バリアフリー>(←<#12等位性原理>:第12回)になり、下に落ち始めます(←<#2分離>の始まり)。

 しかも、加熱をやめて少し冷ますと、水蒸気がこれまでと<逆>に水に戻ります(←<#13逆発想原理>:第13回)。すると、コーヒー容器の中の圧力が低くなり、バリアフリーになった以上に、さらに吸引力を増しています。つまり、矛盾として問題視されていた「冷めてしまう」という<マイナスをプラスに転じて>いる(←<#22禍転じて福となす原理>:第2回第3回第4回)ともいえます。または、それまで用いていた水自身を用いることで、<自ら後片付け>をしている(←<#25セルフサービス原理>:第9回)ととらえることもできます。

 このように、それまで「コーヒーの原料の1つ」でしかなかった水を、様々な用途で<汎用的>に使っている(←<#6汎用性原理>:第16回)ことが、装置の簡便性につながっています。

 ほかにも、水は、加熱装置からの加熱は、そのままでは温度が高すぎる可能性があるものを、水蒸気という形で<仲介して>マイルドに伝えている(←<#24仲介原理>:第6回)ともいえますし、加熱装置がコーヒー滴下部に<触れなくて>も加熱できている(←<#28メカニズム代替原理>:第15回)ともとらえられます。

 さて、ここまで読まれた方には、「本当にそこまで考えた特許なのだろうか?」と疑う方もいらっしゃるかもしれません。しかし、実は、作成者が「本当にそう考えていたか否か」は問題ではありません。「上記のように考えて、自分や他者への問題解決に役立つような知見が得られたか?」が大事です(※)

(※)実際に発明者(高木誠)がどう考えてこの発明を思いついたかの経緯についてはこちらへ