問題解決の共通言語であるトリーズの発明原理を学ぶことで、自分の問題解決力を向上すると共に、自分のキャリア(=過去の問題解決経験)を活かしやすくする“キャリアのアンチエイジング”を目指すこの連載。今回は久々に新しい発明原理<#5組み合わせ原理>をご紹介します。まずはお悩みからまいりましょう。
総務担当:「最近、マナーモードにしない人が増えてきて困っています」
どうしました?
総務担当:「弊社では、たびたび大勢の社員を集めての会合があります。そこで携帯電話はマナーモードの設定をお願いしているのですが、最近、守られなくなっているのです」
よく聞く話ですし、程度問題もあるかと思いますが、何かきっかけでもあったのですか?
総務担当:「実は最近、営業部が大事な取引先からの注文を大量失注してしまったのです。その際の言い訳として“会合でマナーモードにしておいたら、戻し忘れてしまい、その後の大事なお客様からの連絡に気付きそびれた”という話をしたのです」
うーむ。ありそうな話ですね。
総務担当:「その時以降、“大事な取引先がある営業部員はマナーモードにしなくてもいい”というような暗黙のルールができてしまいました。それで会同中に音が鳴るのが当たり前になってくると、今度は社内全体でもマナーモードにする人がどんどん少なくなってしまいました」
どうやらここは<#5組み合わせ原理>の出番のようですね。この発明原理は、「何かと何かを組み合わせる」という非常に広い意味のあるものです。その中でも特に「今あるものと補い合うものを組み合わせる」という勘所があります。
総務担当:「相補的なもの・・・ですか?」
といっても今回の解決策は至極簡単です。今まで、「会議開始時にマナーモードにすること」はお願いしていたと思いますが、「会議終了時にマナーモードへの協力の御礼」は述べていましたか?
総務担当:「そういえば、終了時は退出時の人の流れを説明することだけしか考えていなくて、そんなアナウンスは考え付いていませんでした。確かに、御礼を述べることで、“マナーモード”の一言があれば気付くことも多いですものね。」
実はこれ、私もコンサート主催者の方に提案して採用され、喜ばれた内容です。世の中に広まればよいな、と考えています。
ついでながら、私自身はマナーモードの解除し忘れを防ぐために、マナーモードを設定したときはついでに自分宛てにタイトル「マナーモード」でメールを出しておきます。通常、何度もメールはチェックしますので、この自分宛てのメールで思い出して解除したことは多くあります。
メールをあまりチェックしないという方であれば、アラームを使うのも手です。マナーモードをセットすると同時に、数時間後(会議やコンサートが明らかに終わっているとき)にアラームが鳴るようにセットしておけば、そのアラームで気づきます。少し前の携帯ですと、マナーモードをセットするとアラームまで鳴らなくなるものがありましたので、ご自分の携帯の機能を確認しておく必要はあります。
総務担当:「なるほど、試してみたいと思います」
並べ連ねて力を出す
上記の解決策は高木誠が出しました。ここからの解説は、高木芳徳の方でお送りいたします。
今回ご紹介するのは、<#5組み合わせ原理>です。「アイデアとは既存の要素の組み合わせでしかない」という言葉が有名ですが、2つ以上のものを組み合わせてみる、という創造における基本中の基本ともいえる原理です。
身の回りにある例でいえば、消しゴム付きの鉛筆やシャープペン、赤+青鉛筆、匂い付き消しゴム――などなど。料理も組み合わせの宝庫ですね。天ぷら+そば、カレー+ライス、オムそば(オムライス+焼きそば)。またドレッシング(油+酢)や各種カクテルなど。どれも組み合わせる前よりも魅力がアップしています。
発明シンボルは、「合」の字と、「五角形」と「5」の字を組み合わせた形になります。三角形と5の2画目と合わさった四角形とで、五角形を作った形に、「5」の文字を重ね合わせたものになります。
「同じ場面で利用するものを密接に組み合わせる」ことで1+1以上の効果を上げていることが<#5組み合わせ原理>の特徴です。ハンガー+洗濯バサミともいえる洗濯ハンガーなどもその好例です(シンボルもそう見えてきませんか?)。
また飲食業の業態にも多くありますね。例えば「宅配ピザ」は「宅配便+ピザ屋」ですし、「メイド喫茶」の「メイド+喫茶」。また最近は「コンセプト居酒屋」として「居酒屋+様々な物語(海賊、不思議の国のアリス、戦国時代など)」が組み合わせてあるようですね。
異種同士だけでなく、ほぼ同種のものを隣接・並列に組み合わせる、というのも<#5組み合わせ原理>になります。例えばモップや櫛、ピアノのような物です。「歯が2本だけの櫛」とか「1オクターブだけのピアノ」を考えてみると、それだけではあまり意味がなく、並列にする効果が分かると思います。
また<#5組み合わせ原理>は物に限らず「作業」などの無形のものにも応用できます(コンピュータの並列計算など)。ゲームの世界でもアクション+RPG、カード育成+パズルなど異なるジャンル同士の「組み合わせ」によって、常に新しいジャンルが切り開かれてきました。
このように、<#5組み合わせ原理>では「相補的なものを組み合わせる」と「同じものを並べる」の2つがポイントですが、その両者を兼ね備えた例(しかも特許!)が、東京大学の授業で取り上げられていたので最後に紹介します。
LEGOブロックのスタッド&チューブ構造
それは、2014年の機械設計学、小林卓哉さんの発表資料「ブロック玩具のスタッド&チューブ構造」で紹介されていました。私も「スタッド&チューブ構造」という名前はこのときに初めて知りました。左の図は米国特許3005282号として公開されている図面です。
このスタッド&チューブ構造がない1950年代のレゴの裏側はスカスカ(参考写真はこちら)で、下に支えのない状態では積み上げることができませんでした。積み上げると底にある部分が重さに耐えられずつぶれてしまうのです。
しかし、この裏側についたチューブ(円筒)が、表側のスタッド(凸部分)のうち外周と接していない側と<相補的に支えあう>ことで、Fig.4~6のように下のブロックとずらした位置でもレゴを積み上げられるようになりました。その結果、レゴをそれまでの組み合わせ以上に連結して並べることができるようになり、多くの独創的な形が作れるようになりました。
機械設計学(2014・東大)、小林卓哉氏「ブロック玩具のスタッド&チューブ構造」より
このように、ある物事に対して、相互補完的な「相方をつくる」という「問題解決の勘所」は効果を生むことが多いです。
発明原理も「便利な一方、覚えにくい」という意見がありましたので、「歌」という相方をつけて「発明原理覚え歌」を作ってみました。
♪ 碁盤(ごばん=5番)に石を組み合わせ、並べ連ねて、力出す
歌の意味:碁盤と(碁)石を組み合わせると、囲碁というゲームとして遊ぶことができるようになる。囲碁では自分の石を並べ連ねることで、自陣としての力を出す。同様に、並べたり連続させたりすることは新たな力が出る
今のところ、歌は1~20番まで作ってありまして、8歳の次女には意味が通じている上、3歳の長男は毎日喜んで歌っております。
実は、トリーズ自身もまた、利用者の置かれている問題解決の段階や持っているスキルセットによっては、単体で利用するよりも、QFD(品質機能展開)やTM(タグチメソッド)といった別の問題解決手法と<組み合わせる>ことでより大きな効果を発揮することも少なくありません(具体例はTRIZシンポジウム2015内でも「あなたにとって最も良かった発表」をはじめいくつも紹介されています)。
何か困った時には、「いい相方はなんだろう?」と考えてみると、悩みが解決することが多いですし、身の回りや自分のキャリアでの「いい相方に恵まれた最高の組み合わせ」を観察することをお薦めいたします。その積み重ねが、自分のかつての問題解決経験(=自分のキャリアの一部)を今、目の前にある様々な分野に転用して<組み合わせる>能力の向上につながります。そのことは、自分のキャリアの価値を若々しく保ち続ける“キャリアのアンチエイジング”につながっていきます。
今回は、以下のことをご説明させていただきました
- マナーモードの戻し忘れによる被害を防ぐには、「マナーモードへの協力」と対になる「マナーモードへの協力ありがとうございます」という終了時アナウンスを行うと効果がある。
- <#5組み合わせ原理>は、特に同じ場面で使う者の相補的な組み合わせや、直列・並列的な組み合わせを想定するとアイデアがよりわきやすい
- その例が赤青鉛筆、消しゴム付き鉛筆。また宅配ピザや洗濯ハンガー
- LEGOのスタッド&チューブ構造は、相補的な組み合わせによって、LEGOの直列・並列的な組み合わせを実現しており、<#5組み合わせ原理>を体現したもの
- トリーズもまた、ほかの問題解決手法を組み合わせて更なる力を発揮する例がある
今回もお読みいただき、ありがとうございました。
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