依頼主:「うーん、10%増しの1100円!と言いたいところですが、他社もいますからおそらく価格は据え置きでしょうね」

 そうですね。さて、そうなると、シェアが奪えたらいいのですが、実は世の中も同じように技術開発の結果「10%増しの蛍光灯」くらいなら作ってくるでしょう。自社技術100%で作っているならまだしも、今は水平分業の時代ですから。となると、売り上げは長期的には何倍になっているでしょうか?

依頼主:「ええと、寿命が10%増し=1.1倍になったのですから、1年あたりの買い替え人数は1.1分の1(11分の10)になります。となると今までは1億本売れていたのが、約9090万本。909億円。なんと、10%寿命が延びると9%も売り上げが下がってしまいますね!? 売り上げ9%ダウンとなると利益率にとってはそれ以上に大きなダメージです」

寿命延びても売り上げ伸びず

 そうなのです。実は、商品がほとんどすべての需要に行き渡ると、技術革新で製品寿命が延びるほど、売り上げは下がってしまうのです。ここでは寿命というパラメータを例にしましたが、明るさが2倍になって、必要な蛍光灯の数が半分でよくなる、という方向も、製品の性能を向上すればするほど売り上げが下がるということでは同じです。

 あまり企業の決算報告などでは触れられることはありませんが、これこそ、私の恩師である小宮山元東大総長が「21世紀の本質的な課題」の1つとして提言する「人工物の飽和」がもたらす一側面なのです。先進国では「需要がすでに行き渡っている(飽和している)ため、買い替え需要しか存在しない」→「(業界での)製品の性能が上がれば上がるほど企業収益は下がる」というジレンマです。おそらく、企業にお勤めの皆さんも「前よりも機能が向上しているのになぜ売れない…」と思ったことありませんか?

依頼主:「確かに、私も常々、前よりも自社の商品の機能が向上しているのに売れないなぁ、と思っていました。景気のせいかと思っていましたが、言われてみれば私も一消費者としてみれば、テレビや家電製品など少し機能が向上したからと言って買わないですね。買うのは今使っているものが調子が悪くなってからです。とはいえ、一社員としてはどうしたらいいのでしょうか?」

 そこで「製品ではなく、ソリューションを売る」、という問題解決の出番になります。蛍光灯が解決している問題とは何でしょうか? ここで<#2分離原理>を1度使います。蛍光灯を購入した顧客が、家の中で手に入れた<有用な作用だけを分離>してみてください。

依頼主:「<有用な作用だけを分離>ですか? 前に社長が言っていた『ドリルを買う人が欲している人が、真に欲しているのはドリルの穴である』の“ドリルの穴”にあたるものですね。となると“明るい部屋”ですか?」

 いいですね。「蛍光灯を買っている人が、真に欲しているのは、明るい部屋」、さらに分離すると「部屋を明るくした状態」ということですね。ですから、蛍光灯の中から「明るくする」という<有用な作用だけを分離>して、考えてみます。つまり、「蛍光灯を売る」から「明るいという状態を売る」というように発想を変えます。

依頼主:「なるほど、“蛍光灯という製品”ではなく、暗いという問題を解決した“明るいというソリューション”を売る、ということですね」