皆様こんにちは、マイティの高木です。身近なお悩み解決を通じて発明原理を学ぶことで「キャリアのアンチエイジング」を目指すこの連載。本年もよろしくお願い致します。
では、早速に今回のお悩みを聞いてみましょう。
スマホを使って回覧物を管理
依頼主:「今度の上司、オフィスでの回覧物が今どれくらい回覧されているかをちょくちょくチェックしてくるのです。効率良く答えたいのですが、何かいい方法はありませんか?」
現在、回覧物の管理はどうされているのですか?
依頼主:「今は普通に回覧者の一覧とチェック欄を設けた紙を回覧物につけて、回覧しています。回覧したら印をつけてもらうので、その紙を見れば誰が読んだか分かる仕組みです。ただ、回覧物がどこにあるか、誰が持っているかも分からないので困ってます。また、毎回その紙を用意したり、手元で管理しておいたりするのも大変です」
なるほど、では今回はトリーズの発明原理の省力化グループの中から<#28メカニズム代替原理>を使ってみましょう。これは、「接触していたものを、非接触なものに変える」ことによって解決する発明原理です。
身近なところでは、磁気カードだった社員証が、SuicaやPASMOのような非接触ICカードになったことが挙げられます。スキャンする手間が減ったり、それに伴う装置のメンテナンスが減ったりしていますね。
依頼主:「なるほど、物理的な郵便が、電子メールになったことなどもその1つですか?」
そうです。そこで今回、回覧の通知を電子メールにしてしまいましょう。
まず、回覧を知らせる人を対象とした同報メールのアドレスを作ります。所属する課のメーリングリストのアドレスが使えればそれでもいいでしょう。
次に、そのメールアドレスを送信先として設定、件名には「回覧済」と「回覧物の名称」が自動的に入るパラメータを入れた2次元コードを作ります。
回覧する人は、回覧物を見たら、回覧物に添付されている2次元コードをスマホで読んで、メールをします。回覧物は、まだ「回覧済」のメールが送られてきていない人に回せばいいわけです。もちろん、送られてきたメールを集計すれば、回覧の有無がチェックできますね(2次元コードは、例えばこちらのサイトなどで容易に作成できます。作例はこちら)。
依頼主:「なるほど、これなら回覧物に触れなくても集計できるので楽そうです」
ちなみに、同報メールの送信先に上司を含めてしまえば、あなたが集計しなくても回覧状況は上司が把握できるようになりますよ。
依頼主:「そうなったら理想的ですね」
接触がなければメンテ入らずで衛生的
今回は、平成28年最初の回ということで、<#28メカニズム代替原理>を説明します。
メカニズム代替原理とは、またの名を「機械的システム代替原理」とも呼びます。何かの機械的な機構を置き換えることで、問題を解決します。特に、電子的な手段に置き換えることで、接触が多かった機構を非接触な機構にする(ことで様々な摩耗を抑える)発明が多いです。
オフィスの中でも様々な実例があります。例えば、前掲のように社員証が磁気カードから非接触型ICカードへの置き換え。磁気カードは、読み取りのために機械的な引っかかりがあるため、徐々に社員証(の磁気部分)が摩耗していきます。摩耗するのは読み取り側も同様で、ランニングコストがかかるでしょう。しかし、非接触ICカードであればそのような摩耗はなく、一度稼働させてしまえば、機械的な摩耗による故障が少なくなります。
実はこの「触れていたものを、触れないようにすることで解決する」、ことが最も多く実感できるのが最新式のトイレです。
- 便座が“触れなくても”自動的に上がる → 衛生的!
- 赤外線センサーに手をかざせば、“触れなくても”○○が流せる → 衛生的!
- 赤外線センサーに手をかざせば、“触れなくても”蛇口から水が出る → 衛生的!
- ジェットタオルに手を入れれば“触れなくても”手から水が切れる → 衛生的!
ですね。
発明シンボルでデジタルを表す
そんなメカニズム代替原理の発明シンボルは図のようにZ状の2と、離した8で表されます。メカニズム代替原理の肝は「非接触な構造にする」ことですので、これを「離した8」で示しています。
そしてもう1つ、Zの方は切り離すと三本の縦棒、つまり111となります。並べると11100。実はこれ、二進法で28を表しています(16+8+4+0+0)。機械的なものを、デジタルにしてしまうメカニズム代替原理のことを示しているわけです。
例えば、LPレコードは、レコード盤と針という「メカニカルな機構」によって音を読みだしていました。一方、CD(やDVD)は、音楽データを0/1のデジタルにして記録することにより、レーザー光線という「機械的には接触していない」方法で読みだしています。これもまた、LPに比べると(音質の好みは分かれるかもしれませんが)耐久性という意味ではCD以降の方が圧倒的に優れています。
光ピンセットに手術を期待
さて、LPで針だったものが、CDではレーザーになった。これと同様の発明品が、2013年の東京大学の授業でも取り上げられていました。システム情報学専攻の柴田昌彦さんの発表による「光ピンセット」です。
光ピンセットとは、レーザーを集光することによって、微小な物体をあたかもピンセットでつまむように捕まえる(トラッピングする)技術です。細胞の操作や、マイクロマシンの駆動などに応用できるものとのことです。
東京大学・先端研究所の
生田研究室提供による光ナノ駆動ロボット
詳しい作動原理となると光に対しての専門知識が必要となってきます。しかし、ピンセットが光ピンセットになるとどんな良いことがありそうかは、専門外で仕組みが分からなくても、同じ<#28メカニズム代替原理>を介し、先ほどの「レコード針とCDでのレーザー読み取り」から考えられます。光ピンセットはピンセットよりも細かいだけでなく、傷をつけにくい可能性もある、と推測できます。
こうした「専門外の先端技術でも、その効果や応用例が推測できる」というのはまさに「劣化しにくいスキル」です。まさに「キャリアのアンチエイジング」になります。
個人的には、この光ピンセットがさらに発展して、手術ができるようになれば素晴らしいな、と考えています。そうすれば、おなかを切らなくても内臓の手術ができるかもしれません。開腹手術から内視鏡手術になることで患者の負担は大きく減りましたが、それ以上の効果が期待できます。
今でも、尿管結石を超音波で砕いたり、がんに対して放射線で治療したりと「以前は触れて治療していた」ことが「触れずに治療できる」ようになっています。これらのように、開腹手術もいつかは置き換えられればと思います。
私の知人のお子さんには、心臓の手術が必要な人が何人もいます。小さい子どもにとって心臓の周囲を開けるというのは非常に負担がかかります。将来、「身体には直接触れずに手術ができるようになれば」と切に願います(「こうちゃん」は今、募金活動もしております)。
今回のまとめです。
- <#28メカニズム代替原理>は、接触していたプロセスを非接触なプロセスにしたり、アナログなものをデジタルにしたりすることによって解決する発明原理
- 手書きの回覧チェックも、2次元コードでメール化すれば、管理が楽
- <#28メカニズム代替原理>の例は、非接触ICカード、レーザーポインター、電子メール、超音波破砕機、放射線治療など
- 「光ピンセット」は、レコード針がレーザーで置き換えられたことと対比するとイメージしやすい
平成28年もどうぞよろしくお願い致します。
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